このページの本文へ

姉小路法律事務所に聞く弁護士業界とIT、PDFの可能性

書類をPDF化してBoxに集めた弁護士事務所にデジタル化事情を聞く

2022年07月12日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 京都の姉小路法律事務所は年間400件以上の相談を扱う離婚相談に強い弁護士事務所。もう1つ強いのがITで、BoxやChatworkなどのクラウドサービスを積極的に導入している。そんな姉小路法律事務所の弁護士である大川浩介氏に、弁護士業界のIT化やPDF利用の可能性について聞いた。

姉小路法律事務所 弁護士 大川浩介氏

弁護士業界はまさに「紙の山」 裁判所は今も基本的に紙

 大川氏によると、弁護士業界は「まさに紙の山」。気をつけないと日々大量の紙との戦いになるという。「裁判となると証拠や書類は基本的に紙で提出しますし、この業界ではFAXも現役です。たくさんの資料を扱うので、担当する事件が増えると、書類もあっという間に積もっていきます」(大川氏)。

 文書作成に関しては、十数年前まではジャストシステムの「一太郎」が業界的に多く使われていたが、現在ではほとんどマイクロソフトの「Word」に置き換わっているとのこと。とはいえ、ファイル同士をやりとりすることは少なく、一度紙にプリントアウトして郵送したり、FAXすることが多い。この状況に関しては、業務の内容や担当フィールドにもよるが、どの弁護士も大きくは変わらないという。

 弁護士業界で紙がなくならない背景は、やはり裁判所が基本的に紙だからにほかならない。「婚姻や離婚の書類は押印不要になりましたが、裁判所は印鑑を求めますね。裁判所などの公的機関に提出する委任状1つにとっても、紙での署名・押印された文書でないと認められません」(大川氏)とのこと。証拠となるような契約書や判決を執行するため判決書は、まさに原本として紙で存在しなければならないという考えも強い。

 紙の苦労は多岐に及ぶ。裁判所まで大量の資料を持っていかなければならないという点も大変だが、必要な情報を探し出すのになにしろ苦労するという。「裁判の資料は何度も目を通しているので、当たりは付くのですが、事件を調べると、資料もどんどん増えるので該当箇所を探すのは大変です」と大川氏は語る。裁判の書面を作成する場合、相手方の文書を引用することも多いが、紙の資料だといちいち入力するのも手間だという。

編集はWord、紙代わりのPDFというイメージ

 これに対して大川氏の弁護士事務所では、紙の資料を複合機でスキャンし、OCRをかけてた上でPDF化している。その上で、クラウドストレージの「Box」に格納・整理しているので、検索や再利用も可能になっている。「われわれは膨大な情報に埋もれて仕事しています。だから、自宅や裁判所からも情報にアクセスできて、検索も可能となると、仕事のやり方は変わりますね」と大川氏は語る。ただ、裁判所への提出はあくまで書面なので、同じ内容をデジタルで用意し、PCから活用するという形になる。

 また、依頼人とのやりとりに関しては、Chatworkを用いており、郵送やFAXは相当減ったとのこと。文書をレビューする場合はWordを利用することが多く、PDFは編集せずに資料提供として活用するイメージが強いという。クラウドの導入は増えているが、電子契約はあまり多くなさそう。「利用頻度が高くないので、導入の面倒さが障壁となっている感じです」と大川氏は語る。

 年配の弁護士や裁判官でITを使いこなせない方も多く、デジタル化までの道は長そう。とはいえ、コロナ禍を経て、業界全体にも変化が訪れている。テレワークを導入する弁護士事務所も現れているし、裁判所とのやりとりもWeb会議が導入されるようになり、裁判所に足を運ぶ機会は減ったという。また、今年度はPDFでの提出も地方裁判所からスタートすることになった。紙、印鑑、郵送、FAXというアナログな業界にも変化の兆しは見えている。

カテゴリートップへ