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デジタル化につながらない業界でのAcrobat活用の可能性を探る

楽譜の電子化は進んでいるのか? ピアノ業界でのデジタル化事情を聞く

2022年06月23日 10時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 コロナ禍でデジタル化はあらゆる業界で加速している……と思いきや、なかなか進まない業界は実はいくつも存在する。ここではデジタル化につながらない業界の悩みとクラウド化の可能性を業界関係者に聞いてみる。今回は都内でピアノ教室を運営するローズマリーミュージックスクールの専務取締役 松田斉氏にピアノ業界でのデジタル化について聞いてみた。

ローズマリーミュージックスクール 専務取締役 松田斉氏

講師と教室の間で発生する事務処理でAcrobatを利用

 ローズマリーミュージックスクールは今回お話を聞いた松田斉氏の奥様のピアノ教室からスタート。講師と生徒、教室が拡大したことで4年前に法人化し、港区の麻布十番と板橋区の成増の2箇所でピアノ教室を運営している。

 ローズマリーが既存のピアノ教室と一線を画すのはITやネットに強いこと。松田氏がデジタル好きということもあり、コミュニケーションにはLINE WORKS、WebサイトにはペライチやWordPress、事務処理やクリエイティブの分野でアドビ製品を積極的に使っている。

 デジタルをメインに使っているのは、おもに事務処理の部分だ。多くのピアノ教室では、講師は社員でも、パートでもなく、業務委託という形になる。そのため、講師は個人事業主となるため、ピアノ教室とはさまざまな契約を取り交わさなければならない。もちろん、ピアノ教室の職員との雇用契約も同じだ。

 ローズマリーの場合、これらの書類はExcelで作成し、PDF化にAcrobatの有償版を用いている。ファイル自体はPCの外付けディスクとDropboxで管理している。Dropboxでは教室と講師ごとにフォルダを分け、それぞれアクセス権を設けている。「講師との間に交わすレッスン規約や業務委託契約書、報酬明細、採用でやりとりする履歴書はPDFを使っています。講師の方々が確定申告でもそのまま利用できる形で明細書などは渡しています。」と松田氏は語る。事務負担をITでなるべく軽減し、本業のピアノを教えることに専念してもらう、というのが松田氏の意図だ。

 一方、契約書での電子署名は、やはりコストがかかるので、導入には及び腰なのが正直なところだという。ローズマリーの場合、無償の電子署名サービスを使っているが、Acrobatで契約書を作れば、サインする側はAcrobatのライセンスも不要だ。

とにかく重い楽譜 現時点ではiPadで電子楽譜を使うのが最先端

 ピアノ業界でのデジタル化となると、思いつくのが楽譜の電子化だ。講師、生徒、演奏家などピアノに関わる人たちは、楽器メーカーや音楽出版社から毎年のように楽譜を購入する。松田氏は「子供たちは、コンクールにあった曲をチョイスするのですが、演奏する曲だけではなく、その曲が含まれた楽譜をまるごと買うことになるのです」と語る。

 紙の場合、こうなると自ずと楽譜はどんどん増える。特に多くの生徒を抱える講師の場合、本棚に入りきらず、ピアノの下に積んでいるケースも多いようだ。そのため、講師はデジタル化への移行は非常に強い。「講師に聞いたら、少なくとも楽譜は100%電子化したいと言うはずです。紙の楽譜はとにかく重いですし、整理整頓も大変です」と松田氏は語る。

 これに対して、電子楽譜を利用する演奏者も増えており、特に音大生はかなりの割合で電子楽譜を利用していると見られる。紙と違い弾きたい曲を楽譜単位で購入でき、著作権切れで無料で利用できる楽譜も多い。

 一方、課題は端末。電子楽譜を見開きで表示できる専用端末も発売されていたのだが、18万円とかなり高価で、2年くらい前に販売中止になってしまい、12.9インチのiPad Proがベストチョイスだがそれもまた高額である。

 ローズマリーの場合も、電子楽譜を使う講師もいるが、レッスンではやはり紙の楽譜を使うという。もちろん、一般的なピアノ教室ではまだまだ紙が主流。「ピアノを教えるのはみなさんプロなんですが、ITは苦手という方も多い。なかなかソフトの部分が追いついていかないんです」と松田氏は語る。

ピアノ業界はデジタル化が必要な業界

 ITに強いというのは、ピアノ業界で生き残っていくために必要だという。「周りには音楽教室が7件くらいあるので、差別化が必要。親御さんもネットで調べるのですが、Webサイトを持っていたくらいでは教室には来ないので、SEO対策や動画などさまざまなテクニックが必要です」と松田氏は語る。

Webサイトの構築や運営、ライブ配信、動画編集まで手がける松田氏自体がクラウドサービスやITについてとにかく詳しく、好奇心旺盛なことに驚かされる。最近はAdobe Expressのような手軽に利用できるクラウドサービス型のデザインツールを利用も始めている。あらかじめ用意されているテンプレートを利用するとデザインスキルがなくともプロがデザインしたようなチラシやSNSでの集客募集の素材などを作ることができる。

 コロナ禍を経て、松田氏が現在チャレンジしているのが、講師が自宅で教えるホームレッスンや、Zoomを使ったオンラインスクール。「100年以上、対面でやってきたレッスンですので、基本リアルで教えることは変わらないとは思います。ただ、IT導入はどんどんやっていかないと」とのことで、さまざまなチャレンジをローズマリーのみならず、他のピアノ教室のコンサルティングに活かしている。

 松田氏はピアノ業界について「遅れていますが、今後はデジタル化が必要な業界」と語る。少子化により、生徒自体が減っているものの、生徒募集や管理もデジタル・IT化しないと難しい。ましてコロナ禍になり、対面前提だったピアノのレッスンもオンライン化が必要になっている。その意味では、いかにアナログのよさを引き継ぎながら、デジタル化できるかが大きな鍵となりそうだ。

 松田氏は、「音楽家としてやっていけるのはほんの一握りですし、全員が音大に行く必要もないと思っています。岸田総理も国際会議でピアノを披露したそうですが、これからは仕事でも、趣味でもなく、ピアノを特技にするという選択肢があるはず。だから、とにかく楽しく学んで欲しいんです」と語る。音楽を楽しむためのデジタル活用を模索する松田氏のチャレンジは今後も続く。

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