Microsoft Build 2022 Spotlight on Japan完全レポート 第9回
30社以上のハッカソンを実践してきたゼンアーキテクツがその効能をアピール
クラウドネイティブや組織文化の転換はハッカソンで実践できる
2022年06月24日 09時00分更新
エンタープライズのハッカソン事例が実は一番先進的
テーマ3はずばり「ハッカソンでどこまでできるのか?」。三宅氏は最近取り組んだという農業スタートアップのAGRISTのホワイトボードを披露する。もともとはビニールハウスに設置したロボットのデータを分析するというシステムの設計だ。
ハッカソンワークショップの初日は、どういうアーキテクチャにするのか?という方向性と、ビジネス的な問題をディスカッションするという。「宮崎にあるAGRISTさんを訪れたときは、マーケティングの担当者、経理の方、開発者など、いろんな方が、このホワイトボードを囲みました」(三宅氏)。こうしたディスカッションを元に、三宅氏たちはAzureのサービスを当てはめ、3日間で最小限のMVPまで実装できたという。
横井氏は、アーキテクチャ図の真ん中に鎮座するCosmos DBに注目する。ここでのCosmos DBでは、読み取りと書き込みを分離し、用途に応じたマテリアライズドビューを活用できるCQRS(Command and Query Responsibility Segregation:コマンド クエリ責務分離)というパターンを活用している。「いろいろな関係者のそれぞれのニーズを満たしつつ、オリジナルのデータは1箇所から投入される。両者のメリットをとれるのがCQRSのいいところ」と語る。
ここまで紹介してきた例は、どちらかというとスタートアップを代表とする小規模な組織だが、エンタープライズでこうしたワークショップは可能なのだろうか? 三宅氏は最後の事例として、日本を代表する製鉄会社であるJFEエンジニアリングを紹介する。「大手企業だといろいろ制約がありそうと思うんですが、実は30社以上でワークショップをやった中で、JFEエンジニアリングさんが一番先進的です」と三宅氏はアピールする。
プラントのセンサリングをクラウドで構築するために行なわれたハッカソンは、コロナ禍前にリアル会場で何回か行なわれたという。「初日、エンジニアリング担当部署の部長が『はじめてのvue.js』という本を片手に会場に入ってこられて、『今日は僕もコード書くからね』とお話ししていたのをすごく覚えています」と三宅氏は振り返る。
JFEエンジニアリングのシステムは、もともとアウトソーシングで開発され、システム自体もいわゆる古典的な3層型だった。データ構造を変えたり、イベントドリブンなシステムにするための関係者との調整など、ワークショップ内でエンジニア部長が率先してイニシアティブをとったという。「部長がJSONを編集しながら、データ構造の変更とかを自ら決めていくんです。だから、どんどん進む」と三宅氏は語る。
しかも、秒間数千件(!)というデータが飛んでくるため、切り戻しが難しく、非常にミッションクリティカル。データが異常値として検出されると、プラントのセンサーがエラーとみなされるため、監視やトラブルシューティングもきちんと行なっているという。データベースもAzureの中でもっともミッションクリティカル性に強いCosmos DBを採用している。
プロダクトを組み合わせ、Well-Architected Frameworkに載せていく
クラウドネイティブなプロダクト開発にハッカソンをプラスすることで得られるモノを整理すると、「市場投入が早くなる」「変化に対応できる」「低コストで始められる」の3つがポイントとなる。「もともともっているサービスを組み合わせると、Well-Architected Frameworkの要件は満たせる。Azure Functionsはスケーリングの仕組みを持っているし、Cosmos DBは99.999%の可用性を持っている」と三宅氏は語る。
ゼンアーキテクツから見ると、30社以上のハッカソンで得られた実績は大きい。「マイクロソフトがコストをかけて作ってくれたプロダクトを組み合わせ、ビジネス要件にあわせて、われわれがアドバイスしながらWell-Architected Frameworkに載せていくという考え方。これをハッカソンで短期間に実行していくことで、結果的にビジネスで求められるニーズを満たせる。クラウドネイティブなシステムが実現できる」と三宅氏は語る。
最後のまとめとして挙げられたのは、「クラウドネイティブ転換への近道はWell-Architected Framework」「ハッカソンなどでまずアーキテクチャを動かしていく」「クラウドネイティブへの転換は、企業文化の転換でもある」という3つだ。
このうち特に興味深いのは、やはり組織文化の転換という点だろう。三宅氏は、JFEエンジニアリングの事例を引き合いに、「この活動が組織転換のきっかけになっているのは間違いない。パートナーへの丸投げはやめ、コア部分は自分たちで作っている。ビジネスの本質でないところは、得意なパートナーにおねがいするという、非常に効率的なチーム体制に作り替えた」と語り、組織文化すら変えるクラウドネイティブの魅力をアピールした。
(提供:日本マイクロソフト)
この連載の記事
-
第12回
sponsored
Buildで感じたマイクロソフトの強みは「歴史」と「包容力」 -
第11回
sponsored
マイクロソフトは「AIの可能性」と「責任あるAI」の両立を支援 -
第10回
sponsored
ハイブリッド/マルチクラウドへ、進化するAzureのデータ&分析サービス -
第8回
sponsored
増えるローコード開発需要に応える「Power Pages」と「Express Design」を発表 -
第7回
sponsored
マイクロソフトとGitHubが実現し、進化させるDevSecOpsの姿 -
第6回
sponsored
開発者どうしのつながりを生んだBuild 2022「Connection Zone」参加リポート -
第5回
sponsored
SoE/SoR/SoIと全社レベルのデータストア整備をPaaSの閉塞化で実現したBIPROGY -
第4回
sponsored
「Azure Container Apps」はGAに、クラウドネイティブなアプリ開発を強力支援 -
第3回
sponsored
Build 2022で最新版Windows App SDK 1.1を発表 -
第2回
sponsored
CTCのID連携サービス「SELMID」を支えるAzure ADのテクノロジー - この連載の一覧へ