大波乱が巻き起こった決勝
今回のレースは富士スピードウェイを100周、450kmで争われます。給油のためのピットインが2回義務づけられており、100周のどこで給油し、タイヤを交換するかが勝負のポイントといえます。エンジニアは過去のデータから、最も速くゴールにたどり着く算段を考えるとともに、レース中は常にガソリン残量をチェックし続けます。そこから得たピットタイミングで、メカニックは給油とタイヤ交換を実施するというわけです。もちろん、レース展開によっては、それが早まることも十分考えられます。グリッドから戻ってきた中嶋総監督、ドライバーの大津選手、本間監督は、エンジニアたちと打ち合わせ。
レース開始直前、ピット内にいる全員が1台のモニターに注目します。ピット内に設けられたモニターは主に3種類。チームが持ち込んでいる大型の液晶ディスプレーには、放送画面とラップタイムが映し出されます。天井からは富士スピードウェイが常設しているモニターには、ラップタイムのモニターと車両の位置情報が表示されていました。ちなみにリモコンで好きな画面に切り替えることもできます。
中嶋総監督とエンジニアはサインガードに用意されたシートへ。本間さんはピット内で運命の時を待ちます。ドライバーの大津選手はモニターの正面で腕を組んだまま微動だにせず、レースクイーンの二人は少し後ろで、手を合わせてマシンの無事を祈ります。メカニックたちはヘルメットをしたまま、画面を見つめていました。
スタートの後、マシンは1コーナーへ。しかし1コーナーで64号車は後続のマシンと接触し、順位は最下位へと転落。その瞬間、ピット内には悲鳴に似た声がピットに響き渡ります。レースクイーンの2人とコントローラー、ダンロップをはじめとするNAKAJIMA RACING以外のエンジニアは、メカニックの邪魔にならないようモニターの前から離れます。メカニックたちが損傷個所を特定しようと画面を凝視。
メカニックはピットウォールへ向かい、走るマシンを見て損傷箇所をみつけようとします。本間監督もピットウォールへ。メカニック達はピットに入ってくることを想定し準備を進めます。
ドライバーの伊沢選手から無線で走行に問題がないことが伝えられると、チームには安堵の空気が流れました。メカニックのひとりが折りたたみのチェアを用意。ですが誰一人座ることなく、モニターを見続けます。
100周のレースで2回の給油義務があるということは、単純計算で33周ごとに給油をする必要があります。そしてライバルも30周を過ぎたあたりから続々とピットイン。ですがModulo Nakajima Racingは動かず。ヘルメットを被った大津選手がピットに姿を現したのは35周を過ぎたあたりから。
ピットは38周目からメカニックたちが慌ただしく動き始めます。そして39周目にタイヤ交換と給油。
タイヤ交換を終え静寂さを取り戻したピットでは、給油担当は次の給油に向けて準備をし、メカニックはピットレーンを掃除。次のピットインに備えます。
ですが、数周後。GT300クラスのマシンがクラッシュし、そのガードレール補修作業などのため、大津選手に交代してから10周と経たずにレースは赤旗中断。マシンはホームストレートに停車することに。
大津選手はいったんピットに戻って、マシンの様子やタイヤについて中嶋監督やチームスタッフに説明。首脳陣は、次のピットタイミングの計画など、戦略を組み立てなおします。メカニックは座して再開の時を待ちます。
修繕作業が終わって16時33分にレース再開。ですが10分後の16時42分。今度はメインストレート上でGT500のマシンがクラッシュして再度赤旗によりレースが中断します。しかもこの事故がかなり大きいもので、再開まで時間がかかりそうな雰囲気。
レースは最大延長18時20分までですが、どう考えても100周を回ることは難しい状況。チームスタッフはピットウォールから作業を見守り、メカニックのうち5名は停車したマシンのそばで再開の時を待ちます。
30分経っても、レース再開の目途は立たず。そしてエンジニアのひとりから「17時○○分に再開だとしたら、給油なしで走り切れます」との声も聞こえ始めました。メカニックは何があっても対応できる準備をしながらレース再開の時を待ちます。待つのですが、再開の目途が経たないまま、時間だけが過ぎていきます。レース主催者から「18時10分に再開する」「レース後の進行について」の無線指示が流れたころ、他チームは撤収の準備を始めました。
18時10分に再開したレースですが、セーフティーカー先導のまま18時20分を迎えてチェッカー。NAKAJIMA RACINGは11位でフィニッシュしました。ちなみに1位は8号車ARTA NSX-GT、2位に36号車のau TOM'S GR Supra、3位に12号車 カルソニック IMPUL Zが入りました。メインストレート上にマシンを止めた大津選手は、残ったファンに向かって手を振ってあいさつ。そしてピット前でももう一度手を振り、チームに戻ってきました。
レースを終え、中嶋総監督は「大変なレースで何とも言いようがない感じです。1回目のピットストップを行ない、これから追い上げると思っていたところだったので、自分たちのレースについても言いようがない内容となってしまいました。次戦の鈴鹿がすぐに迫っていることもあり、気持ちを切り替えて臨みたいと思います。長時間になり大変な中だったと思いますが、最後までたくさんのご声援をありがとうございました」とコメント。
最初のスティントを担当した伊沢選手は「スタート直後の接触で最後尾に下がってしまいましたが、すぐにポジションを取り戻すことができました。その後のペースは、まだ満足するレベルには足りていませんが、大きなグリップダウンがなかったので、そこはポジティブにとらえています。今回のレースは非常に荒れた展開となりました。ポイント獲得に届かず残念でしたが、今後に期待が持てる内容にもなりました。鈴鹿ではさらにいいレースをしたいと思います。長丁場のなか、最後まで応援ありがとうございました」と、今後に手ごたえを感じた様子。
大津選手は「僕のスティントでは赤旗中断が続き、最後はSC先導での周回だったので、あまりレースをしたという感触はないのですが、伊沢選手のスティントでは、思っていたよりいいパフォーマンスが出せたと感じました。とはいえ、上位陣と比べるとまだまだアベレージを上げないといけないことも分かったレースでした。今回のような長いレース距離の大会はまだあるので、今日の経験を次に活かしていきたいです。次戦の鈴鹿はここ2年間チームとしても相性がいいサーキットです。予選からポールポジションを狙い、決勝も力強く戦っていきたいです。インターバルは短いですが、その中でできる限りの準備をして臨みたいと思います」と語り、サーキットを後にしました。