働く時間の柔軟さがなければ離職意向が上昇など、企業が「新しい働き方」を考えるうえでのポイントを示唆
“柔軟さを欠くオフィス回帰”で従業員体験スコアが急落、Slack調査
2022年04月20日 12時05分更新
Slackは2022年4月20日、同社が支援するFuture Forumコンソーシアムがまとめた最新の四半期調査レポート「Future Forum Pulse」を公開した。ナレッジワーカーの多くが「完全オフィス勤務」へと回帰しつつある中で、「仕事に対するストレスや不安」は2020年の調査開始以来、最低レベルに達している。また、経営層と一般従業員に見られる働き方の大きなギャップ、「働く時間の柔軟性」がもたらすメリットについても明らかにしている。
今回の調査結果のポイントや日本独自の動向などについて、Slackアライアンス本部 シニアディレクターの水嶋ディノ氏に聞いた。
従業員体験スコアが全般に低下、「オフィス回帰」の動きと関係か
「未来の働き方を考えるコンソーシアム」であるFuture Forumは、Slackのほか、ボストンコンサルティンググループ(BCG)、MillerKnoll、Management Leadership for Tomorrow(MLT、米国非営利組織)により創設された組織。企業が人材獲得競争を勝ち抜くためには、働く環境の「柔軟性」「インクルージョン」「透明性」を実現することが重要であると提言している。
今回のFuture Forum Pulse調査は、日本、アメリカ、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリアのナレッジワーカー1万人以上を対象として、2022年1月~2月に実施されたもの。同調査は2020年6月から四半期ごとに実施されており、今回が6回目となる。
今回の主要なポイントとしてはまず、「従業員体験(EX:Employee Experience)スコアの低下」が指摘されている。今回の調査で、フルタイム(週5日)のオフィス勤務を行うナレッジワーカーの割合はグローバル平均で34%となった。これは調査開始以降で最も高い数字であり、従業員の「オフィス回帰」が進んでいることがわかる。
その結果、「仕事へのストレスや不安」や「ワークライフバランス」を筆頭に、従業員体験スコアは大きく低下している。特に「仕事へのストレスや不安」のスコアは前四半期比で28%も下落し、調査開始以来の最低スコアとなった。
回答者を「完全オフィス勤務」「ハイブリッドワーク」「完全リモートワーク」の3グループに分けた場合の従業員体験スコアを見ても、あらゆる項目で完全オフィス勤務者のスコアが低い。このことから、フルタイムのオフィス回帰が増加したことが従業員体験スコアの低下に影響を与えていることが推測される。
なお日本単独の数字を見ると、フルタイムのオフィス勤務を行うナレッジワーカーは51%と、調査国中で最多の割合だった。また従業員体験スコアでは、「仕事へのストレスや不安」以外の項目が調査開始以来の最低スコアを記録したという。水嶋氏は、今回の調査期間が日本国内における“第6波”の感染拡大とタイミングが重なっていることを指摘し、「そうした状況も調査結果に影響した可能性がある」とコメントしている。
働く「時間」の柔軟性が低い従業員の離職意向は高い
レポートで指摘されている2つめのポイントが「経営幹部によるダブルスタンダード」である。
調査結果を見ると、「週5日オフィス勤務がしたい」という回答者の割合は、経営層、非経営層とも同等(21%)だった。それにもかかわらず、現実に毎日オフィス勤務をしている経営層は非経営層の半分程度に過ぎない(非経営層35%、経営層19%)。端的に言えば、経営層は「柔軟な働き方」が続けられている一方で、一般従業員の働き方は元に戻りつつあるということだ。
さらに経営層/非経営層の体験スコアを比較すると、非経営層の「ワークライフバランス」は5倍悪化しており、「仕事へのストレスや不安」も2倍感じている。
調査から得られた3つめの洞察が「時間の柔軟性の欠如が離職につながる」というものだ。柔軟な働き方を考えるうえでは「場所(オフィスかリモートか)」にのみ注目が集まりがちだが、従業員はむしろ「時間の柔軟性」を強く求めていることがわかっている。
今回の調査で、働く「場所」の柔軟性がほしいとした回答者は79%。そして、働く「時間」の柔軟性がほしいとした回答者は94%とさらに高かった。前回調査の結果(95%)ともほぼ変わらず、働く「時間」の柔軟性が、従業員体験や満足度に大きな影響を与えうることがわかる。
なお、自分が「働く時間の柔軟性を持っている」とした日本の回答者は34%と、調査国中で最も低かった。働く時間の柔軟性を求める回答者の割合も86%と、グローバル平均よりは低いものの、それでもこの点が重視されていることは明らかだ。
そして働く「時間」の柔軟性が低い従業員ほど、離職の意向が強いという結果も出ている。
働く「時間」の柔軟性がほとんどないとした回答者は、中程度の柔軟性があるとする人の2.6倍も、早期の転職活動に対する強い意向を示している。そのほか「仕事のストレスや不安の悪化」「ワークライフバランスの低下」「燃え尽き感の悪化」といった従業員体験スコアにおいても、「時間」の柔軟性がない従業員でスコアが大きく低下している。
なお今回の調査では、子育て中の女性の82%が働く「場所」の柔軟性を求めている。これも調査開始以来、最も高い数字となっている。
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水嶋氏は、今回の調査結果を受けて「企業が人材獲得競争に勝つ方法」を3点にまとめた。
・従業員を管理する目的だけでオフィス回帰を進めることを考え直し、従業員の自律化を進めつつ「選択の自由」とのバランスをとること。
・経営層だけでなく非経営層においても働く「時間」の柔軟性を拡大していくこと。
・新しい働き方の実践では失敗もありうる。最初から完璧を目指すのではなく“今より良い状況”=進歩を目指して、従業員の満足度を向上させていくこと。
また日本単独の調査結果から、フルタイムのオフィス勤務をするナレッジワーカーの満足度が突出して低いことに注意を促した。
「“ウィズコロナ時代”になり、国内でもフルタイムのオフィス回帰という動きが出てきている。ただ、従業員に対して柔軟性を提供せず、むやみにオフィスに戻すということは、(リモートワークで)満足感を得ていた人たちを低い満足度のほうに押し込めることになりかねない。ハイブリッド/リモートワークによって高い従業員体験が得られたという現実を重視して、この機会に日本の働き方を『本気で』見直していくべきではないか」(水嶋氏)