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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第51回

【後編】KLKTN代表 岩瀬大輔氏、ヤングマガジン鈴木一司編集長ロングインタビュー

NFTはマンガファンの「推し度」や「圧」を数値化する試みである!?

2022年04月17日 18時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII

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物語の展開を予想し、ヤマを張って買っておく!?

―― 前編では、新連載『code:ノストラ』のNFT版は、まずNFTのコレクション性にハマッている方々を中心に売れたのでは、というお話をおうかがいしました。

 そもそもマンガのNFTというのは、どういったお客さんを想定されているのでしょうか? マンガを愛する方が純粋にコレクションとして持つものなのか、それとも投機目的で高値になると考えて購入されるものなのか。

鈴木 両方いらっしゃるのが理想的かなと思います。

 岩瀬さんとも話していたんですけど、最終的な成功の形というのは、ヤンマガの新連載がNFTの市場に出てきたときに、純粋にマンガが好きな読者さんだけでなく、投機目的の人たちにもマンガに関心を持ってもえたらいいなと思っているんです。

鈴木一司氏。講談社「ヤングマガジン」編集長

岩瀬 いわゆるイチゼロではないと思っています。今回の『code:ノストラ』も、ページを複数買っている方が結構いらしたんですよ。その方たちは『もしかしたら将来値上がりするかもしれない』と思って購入されているのかもしれません。

岩瀬大輔氏。NFT販売プラットフォームKollektionを運営する「KLKTN(コレクション)」代表。元ライフネット生命保険取締役会長

―― 値上がりする? あっ、NFTは購入者が別の人に二次販売できると聞きましたが、購入者が販売価格を再設定できるのですね!

岩瀬 『code:ノストラ』が流行ったら、価値がものすごく上がると思います。

 もともと第1話は1ページにつき5部しか刷っていません。もし、『ノストラ』が大ヒットしたら、冒頭の1ページ目は作品ファンにとって、とんでもない価値になるでしょう。

―― 好きな作品の冒頭ページが欲しくなる気持ちはよくわかります。

岩瀬 でも、後から作品を好きになったファンが、第1話の冒頭ページを欲しいと思ったら、すでに保有している5人の誰かから売ってもらうしかない。後日マーケットプレイスができて、5人のうちの1人が売りに出したら、「これはもともと9ドルで買ったけど、じゃあ1万円でどうですか?」となるかもしれません。

―― 投機的な世界になっていきそうですね。

岩瀬 ただし、もとの価格を安く設定しているので、実際は1000円で販売されたものが二次取引で3000円になるぐらいでしょう。

 ここで言う「価格の変動」というのは、「買ったものの価値を可視化する」ことなんですね。その仕組みとしてNFTを使いたいんです。

 前編ではうちのエンジニアが仮想通貨好きというお話をしましたが、エンジニアたちは、同じ通貨なのに値段が変動するところに面白みを感じているんです。仮想通貨のファンには「ものの価値の変化を楽しむ」という気質があるんですよ。価値が上がったり下がったりする「推移」を面白く思う、ということですね。

―― なるほど……価値が変動する面白さを、マンガという作品に持ち込むということですね。

岩瀬 そうです! マンガであれば、作品がどれだけファンに愛されているか、欲しいと思ってもらえるか、NFTはその指標の1つになってくれるのではと思っています。

 ですから同じ作品でも、選んだページによって価値が異なる動きをしたら面白いと思うんです。たとえば連載中に、ある登場人物2人が大恋愛に発展したり、人気が出たりする。すると、「2人の最初の出会いのシーン」はすごく価値が上がるはずですよね。

 マンガを読んで『もしかしてこの2人って恋愛関係になるのでは?』なんて物語の展開を予想して、ヤマを張って買っておく、という楽しみもできるんです。

―― 確かに長期連載だと途中で「キャラが化ける」ことってありますね。ヤングマガジンさんのNFTで読者がページを選べる理由は、コレクターが所持ページの価値を考え続けられるようにするためなのですね。買ったら終わりではなく、常に気になる状態を維持できる仕掛けがある。気になるキャラの出会いのシーンを買っておいて、連載を追いながら推しの2人がくっつくように願ったりとか(笑)

岩瀬 そんな界隈に成長したらいいなって思ってます。

―― 私はマンガのコレクションというと、美しいまま保管する「静的」なイメージを持っているのですが、NFTでは自分の持っているコレクションが連載の進行にあわせた「動的」なものになるのですね。

株式投資と同様に「マンガの将来性」を見抜く

岩瀬 現在、マンガの体験は「買って読む」に収束しています。ですがページにお金を投じて保有するという行為を加えることで、自分が発見したマンガの価値が、物語の展開や時間経過、そして他の人の評価でどのように変動していくかが見えるようになるんです。

 その変動を見ること自体が面白いと思うし、『自分の目利きが正しければ、これは高くなるはず』と予想して買う楽しみもできます。

 ただし、こうした物事はゲームのルールが浸透するまでに少し時間かかると思うんです。たとえば『code:ノストラ』では、あるページを5部すべて購入されている方がいらっしゃいました。これ、我々が想定していない買い方だったのですが……。

鈴木 本当だ。なぜだろう?

岩瀬 仮に、この回のすべてのページを揃えたい場合、この方から必ず1枚買わないと完成しませんよね。だからこの方は『あるページだけを全部買えば、将来絶対高値で売れるだろう』と考えたのかもしれません。

鈴木 そういうことか!

岩瀬 かもしれません。1話につき販売数が限られていることをチャンスと捉える人がいることで、こんな面白い出来事が起こる。NFTにすることで、これからもマンガと読者の間で新しい遊び方が自然発生的に生まれたらいいなと思っています。

 たとえば将来的には、株式投資のために企業分析するように、このマンガの将来性はどうだろうと真面目に読み込む方が出現するかもしれないですね。

―― 私は推しのグッズを公式から購入した後に、フリマアプリでそのグッズの価格をウォッチしたりします。それはみんなにとってその推しグッズがどれくらいの価値かを知りたいからなんです。その楽しみを公式自らが常に膨らませてくれるような状態ですね! そのうち、メジャー誌連載マンガの分析をまとめた四季報みたいな本が登場するかも。

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