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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第50回

【前編】KLKTN代表 岩瀬大輔氏、ヤングマガジン鈴木一司編集長ロングインタビュー

NFTで日本の漫画を売る理由は「マンガファンとデジタル好きは重なっているから」

2022年04月16日 18時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII

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『code:ノストラ』が一番手の理由は……
原作者が新しいもの好きだったから!?

―― 毎年、数十本の新連載が始まるヤンマガから『code:ノストラ』を最初に選んだ理由は?

鈴木 一番はタイミングです。ちょうど新連載で始まる作品にしたかった、さらに第一弾としては知名度が高い方であることも良かったですね。

 というのも、みなさんご存じの通り、『code:ノストラ』の原作者である「安童夕馬」は、樹林伸先生のペンネームです。ですから、元からマンガファンに注目される新連載ではありました。そして樹林先生は、新しいことがお好きな作家さんなので、許諾もいただけるだろうと考えてお声がけさせていただきました。

 樹林先生にはテレビに音声で出演していただいたりもしたので、ニュース性もありました。やはり、最初にお願いできてよかったなと思っています。

―― 販売された『code:ノストラ』のNFTはこれまでの回、ほぼ完売していますね。やはり作家さん方のファンが購入したのでしょうか?

鈴木 今回はおそらく、NFTの企画そのものに興味を持ってくれた方たちなのかなと思っています。すでにファンがついている作品ではありませんから。

―― なるほど。購入者の興味は今のところNFTのほうにあるわけですね。では日本と海外、どちらが多かったのでしょう?

岩瀬 今回は、日本のほうが多いと思います。ただ海外でも、デジタルに関するアンテナが立っている北米マンガファンの人たちが、試しに買っているかもしれないなと思っています。

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海外のお客さんたちに「アニメ化」ではなく
「連載マンガ」の段階で知ってもらいたい

鈴木 今回、僕らの目的に「新連載を知ってもらう」ことがあるとお話しましたが、それと同時に「海外のお客さんに知ってもらいたい」という願いもありました。

 海外の方々って、日本のマンガは「アニメ化」されるまで知らないというケースが多いんです。

―― そうなんですか!? 日本のアニメは近年、配信という形で海外に一気に普及しましたが、マンガに関してはまた事情が異なるのですね。

鈴木 それがNFTということであれば、連載の初期段階から海外の方々にも作品を知ってもらえるかもしれないと。NFTをやりたいと思った動機は「新連載」と「海外へのアプローチ」、この2点でした。

岩瀬 海外の方は新連載・連載中の作品を知る機会に恵まれていません。NFT販売をきっかけに、海外の方がより読みたい意欲が高まるかもしれないなと思っています。

 ただ一方で、鈴木さんと一緒に進めていくなかで、現状の仕組みとぶつかってしまうこともわかりました。

既存の枠組みを横断する難しさ

―― と言いますと?

鈴木 今回初めてNFTを販売するにあたって、社内のいくつかの部署から「待った」が掛かりました。Web上のサンプルから、新作マンガが「読めてしまう」という問題が発生したからです。

 これの何がマズいのかと言えば、電子書籍や書店さんなどマンガを流通してくださっている方々にご迷惑がかかってしまうのです。

岩瀬 Web経由で海外の方に見せることも課題になりました。海外の販売権を持っているパートナーの方々にとって、それはよろしくないんじゃないかということで。

―― 確かに、販売する側にとっては、NFT販売ページのサンプルで作品が読めてしまったら商売あがったりですね。

岩瀬 そこで「マスキングしたらどうですか」という意見をいただき、「でも、あまり見えなくすると(今度は中身を吟味できなくなるので)そのページにお金を払うお客さんがいなくなってしまいますよ」などと、少しずつ意見を調整していった結果が、現在の「見えるけれどもマンガを読めるレベルではない」マスキングです。

 そして現状は、1ページずつしか買えない仕組みになっています。一気に全部買えてしまうと、電子書籍販売と競合するサービスだと思われてしまうでしょう。そこで「複数購入は待ってほしい」ということになりました。

鈴木 NFTは社内の部署をかなり横断する販売物なんです。デジタル販売部、紙の販売部、国際ライツ、アニメやゲームのライツ、商品化のチームなどなど。こうした各部署の方々からご意見をいただいて、どこまでならOKかを話し合って、少しずつ調整してきました。

岩瀬 都度都度かなり柔軟に、実態に合った形でご対応をいただいています。

鈴木 海外に向けたアプローチやファン向けのサービスは必ず何かしらの形で実現したいと思っているのですが、そのためにはイチから新しい枠組みを作る必要があり、その調整は大変です。

 でも「初回販売時に、12時間で完売」という報道や結果が出てからは、社内の空気もだいぶ変わりました。みなさんが協力してくれるようになったので、かなり前進しやすくなりました。

販売開始までは権利関係の調整が慎重に進められたとのこと

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