ポートフォリオマネジメント
3つめは、成長事業に経営資源を集中する「ポートフォリオマネジメント」である。
「競争力が発揮できる成長事業に経営資源を集中し、将来は、1000億円規模の利益を創出する太い事業の柱を複数作り、儲かる体質にしていく。同時に財務規律に基づく戦略的キャピタルアロケーションも実施していく」と語る。
ここでは、5つの分社によって、他社と比較ができる括りに再編したことも強調する。
「対面する業界において、シェアNo.1あるいは、シェアNo.2の事業の集合体を目指していく。事業は、1位か、2位でないと、生き残れないと感じている。5位か、6位の事業は、極端にいえば、あってもなくてもいい事業。そこに投資をしているのはもったいない。成長領域に投資をしたい」とする。
自らのポジションを明確にする上でも、他社と比較ができる分社への再編は不可避だったと言えよう。
「空質空調社であれば、ダイキンと比較することができるようになった。実力値と可能性を開示し、事業が他社との比較でどんな位置にあるのかを理解し、緊張感をもってビジネスをする姿勢を取り戻したい」とする。
テレビ事業でサムスンに勝つことは現実的ではない
ただ、テレビ事業を例に、こんな考え方も示す。
「いま、パナソニックが、テレビ事業でサムスンに勝つというのは現実的ではない。だが、テレビ事業は、地域ごとにメリハリをつけて事業を行っており、日本ではテレビ事業で1位や2位を争える。グローバルで1位か、2位ではなく。戦おうとしている領域で1位か、2位になることも大切である」とする。これが新パナソニックのポートフォリオマネジメントの基本姿勢となる。
一方で、これらの3つの変革点への取り組みとは別に、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにも言及した。品田CEOは、「新パナソニックが担当する領域が、グループ全体の約90%を占めており、スコープ3に含まれる『ライフタイム利用』が占める範囲がとくに大きい。3つの変革軸を経営戦略の柱として長期的に取り組む一方で、事業戦略と環境戦略を表裏一体として取り組んでいくことになる」と述べている。
パナソニックマーケティング本部から20年
振り返ると、パナソニック社内に、マーケティングの名称を使用した初の組織として、パナソニックマーケティング本部/ナショナルマーケティング本部が設立されたのが2001年のことだ。今年はそれから20年目の節目を迎える。
品田CEOは、マーケティング本部の1期生でもある。その後、パナソニックブラジルの社長やテレビ事業部長、パナソニック アプライアンス社社長などを経て、2021年10月から、くらし事業本部長兼CEOに就任。2022年4月から、事業会社制と呼ぶ新体制での陣頭指揮を取る。
「かつては、マーケティングを推進するためのファンクションがバラバラになっていた。これを1カ所に集めたのがマーケティング本部であった。当時、事業部長の右腕である国内営業部門を引き抜くことで生まれるデメリットより、メリットの方が勝ると判断して、この組織ができた。だが、マーケティング本部の20年の歳月のなかで、事業部門を経験しないまま、役職に就くという社員も生まれてきた。また、2019年にアプライアンス社に戻り、開製販が分離していると感じ、弱点も増えてきた。市場環境が変化してきており、体制を見直す必要が出てきた」とし、「新パナソニックでは、事業部長に責任を持たせるとともに、マイクロエンタープライズ(ME)型へと移行している。商品企画から市場導入、マーケティングに関する社員などが参加し、収益にまで責任を持つ体制であり、現在、冷蔵庫、乾燥機(洗濯機)、クリーナー、オーラルケア、ヘアケア、電子レンジ、炊飯器、IHクッキングヒーター、食洗機の9つのME体制がスタート。商品を生み出すリードタイムの従来比半減を目指している。サービスと連動したハードウェア開発も含まれている。バケツリレー型ではなく、全員の知恵が集まり、スピーディーに商品を生み出すことができる仕組みであり、現場では、従来とは違う熱量や息吹を感じてもらえるはずだ」とする。新パナソニックの組織編制の肝はここにありそうだ。
なお、新パナソニックは、登記上の本社は大阪・門真だが、所在地は東京・汐留とする。
「私自身もすでに7対3の割合で東京にいる。東京の拠点は、ビジネスパートナーも顧客も集中している。外部との接触機会を増やしたり、スピード感が発揮できるという点でメリットがある」と、東京移転の成果を期待する。
今回の発表によって、新パナソニックの中期戦略の骨格が見えたといえる。これにどんな肉付けを施すのか。2022年4月の新体制の本格スタート時に、その様子が明らかになるといえそうだ。
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