今回は特別号だ。Ryzenプロセッサー5周年記念サイトの立ち上げに合わせて、この5年(+α)を振り返ってみたい。
2016年に発表されたRyzen
Zenコアの開発は2012年に始まっていた
さて、5周年と言いながらいきなり話は2014年まで遡る。この2014年の5月、AMDは“AMD Core Innovation Update”というイベントを開催、Ambidextrous Computingなる新しい概念を発表した。この時点でのAMDのCEOはまだ前任者のRory Read氏で、Lisa Su氏は確かまだCOOだったと記憶している。またイベントそのものもオンラインで開催されていた。
2014年のAMDはGPUこそ強く、またXbox One/PS4という2大ゲーム機へのSoC提供を決めたことで会社としての存続は維持されそうと見られていたものの、CPUのメーカーとして存続できるのかはまだ引き続き危ぶまれていた時代だ。この時代にAmbidextrous ComputingとしてAMDはx86とArmという2つのアーキテクチャーのCPUを提供することを決めている。
当時のロードマップは、2014年にKaveri/Beema/MullinsというAPUと、Cortex-A57×8ベースのSeattle(のちにOpteron A1100として発表されるが、これは2016年まで延びた)という2種類の製品ラインを投入すること。
2015年にはGlobalfoundriesの20nmプロセスを使う、Project SkybridgeというArmとx86でピン互換なプロセッサーを投入、そして2016年には独自コアのK12(Arm)とx86コアを投入するとしていた。この当時AMDはx86のマーケットシェアをほとんど失っており、それもあってArmに活路を見出したというのが正確なところだろう。
この時点で、すでにZenコアの開発はだいぶ進んでいた。Zenコアの開発を指揮したMike Clark氏(Corporate Fellow)によれば、Zenコアの開発そのものは2012年に始まっているとする。その前年である2011年、AMDはBulldozerアーキテクチャーに基づく最初のAMD FXプロセッサーを市場に投入したが、AMD FXは製品投入前からいろいろ危ぶまれており、投入後は予想にたがわずAMDのシェアを激減させた。それもあって早期に次世代コアの開発を始めたようだ。
ただ一般論として新アーキテクチャーのプロセッサーの設計と製造には4~5年かかる。したがって2012年にスタートしても、製品を投入できるのは2016~2017年になるのは必至であり、それまでの間はBulldozerの派生型でしのぐしかない。かくしてAMDはこの後Piledriver/Steamroller/Excavatorという派生型を投入するが、これと並行してZenコアの開発も進んでいた。
K12はこのZenコアの派生型である。1つのバックエンドを複数のフロントエンドで共用するというのは過去にも例がある。古い話ではAMDのAm29000/K5がそうだし、最近では富士通のSPARC64 XIfx/A64もそうだ。
K12とZenは、フロントエンドこそArmとx86で異なるが、バックエンドはほぼ共通した構成だった。2014年というのは設計開始から2年ほどたち、ほぼプロセッサーパイプラインの基本構成が固まったころであり、おおむねの性能もシミュレーションで確認できていたころだ。「Zen/K12さえ出れば、CPU市場で挽回できる」という確信が関係者の中で生まれ、ここまでなんとしてもつなぐべくAPUベースの製品を投入していた時期であろう。
翌2015年、まずProject Skybridgeがキャンセルになる。それと同時に、初めてZenコアの名前が表に出てくることになった。14nm FinFETプロセスを利用することも、この時点で公開された格好だ。ただこの時点では2016年中の投入という予定であった。
2015年末にはプロセッサーパイプラインの構造が定まったようで、この時期にはこんな記事を書かせていただいた。筆者の推定は今から見ると間違っているところも多いが、基本構成そのものは大きく外してはいないと思う。
また、このあたりからK12の名前がAMDのロードマップから消えた。K12そのものはキャンセルではないが、市場がまだ熟していないこともあってホールド状態になってそのままだそうで、結果から言えばこれは賢明だったと思える。
※訂正:AMD FXに関する表現を訂正しました。(2020年11月18日)

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