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業務を変えるkintoneユーザー事例 第123回

買い物弱者解消を目指すサービスでkintoneと既存の配送システムを連携

薬の宅配「ラストワンマイル」をシステムと人の手の連携でつなぐ

2021年10月22日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 6月に名古屋で行なわれたkintone hive nagoyaは、新型コロナウイルスの影響でオンライン配信のみでの開催となった。全6社の講演のトップを切って登壇したのは、「買い物弱者解消」を目指すセイノーホールディングス GENie 代表取締役社長の田口義展氏だ。

セイノーホールディングス GENie 代表取締役社長の田口義展氏

買い物弱者を救う「ラストワンマイル」の配達サービス

 田口氏は2015年に西濃運輸に入社。翌2016年に新規事業の立ち上げを行うオープンイノベーション推進室に配属。植物工場の企画などを企画立案し、事業化に成功した。その後2017年にGENieの取締役に就任、2019年に現職となる。

 セイノーホールディングスは、「カンガルー便」で有名な西濃運輸の地域会社を統括するほか、輸送に関する新規事業を担う企業を傘下に抱える持ち株会社。B2B事業を中心としているが、新たにB2C事業としてラストワンマイルに取り組むのが、ココネットという会社だ。ココネットはスーパー向けにB2C事業を全国で行なっている。

 GENieは、ココネットからスピンアウトした会社で、コンビニ、調剤薬局などの中小規模店舗のラストワンマイル解消に取り組む企業だ。「買い物弱者解消」をコンセプトに、移動が難しい人に対して弁当や日用雑貨を配達する事業を行ってきた。

 ココネット、GENie両社に共通する特徴が、「ハーティスト」と呼ぶ配達員だ。これは「ハート=心」と「イスト=携わる人」を組み合わせた、ココネットが作った造語である。「単純に商品を届けるだけでなく、コミュニケーションを大切にすることでお客さまに心も届ける事業を行っている」(田口氏)

 たとえるなら、「サザエさん」に登場する三河屋のサブちゃんのように、商品を届けるときに楽しく会話をして、街中で会えば気軽に挨拶できる、そんな頼れるご近所さんのような存在を目指している。

コロナ禍ではじめた処方薬の配達サービス

 食品、日用品に加えて、2020年のコロナ禍で薬の配送需要が急拡大した。そこでGENieは、同社の中小規模店舗向けの配送網を使った薬の配達サービスを発案、処方薬配送サービス「ARUU(アルー)」を開始した。ARUUは、コロナ禍で医者に行くことがためらわれる人に対して、家にいながら医療サービスを安心して受けられる物流網を目指している。

ARUUでは信頼性、拡張性、短期開発という3つの課題をクリアするために新たなシステムを構築した

 ARUUをはじめたきっかけについて、田口氏は次のように説明した。まず、日本の買い物弱者の救済だ。農林水産業の定義によると、買い物弱者とは、自宅から半径500m以内に生鮮小売りがないこと、65歳以上であること、車を利用できないことの3つの条件を満たす人で、全国に825万人いるとされる。

 だが、買い物が困難な人はさらに多いと田口氏は言う。「実際に事業をしていると、店舗の真裏に住んでいても、階段の上り下りがたいへんで配達を依頼される人や、子どもが小さくて買い物に出かけられない人など、さまざまなニーズがあることがわかる。当社では、大まかに見て、消費者の10人に1人は買い物が困難になっていると考えている」。これは薬についても同じで、コロナのため出かけたくない、薬局で待ちたくないという人は急増している。

 そうした声に対応して、オンライン診療の増加や、規制緩和によって服薬指導のオンライン化が認められた。だが、課題も多かった。患者側からすれば、FAXやPCを持っていない人も多く、オンライン化に対応できない。一方の薬局側は、患者へ薬を送りたいが、確実に本人に渡してくれるか不安も残る。「お客さまの信頼を損なわない安定したサービスが必要だった」(田口氏)。

 また、ラストワンマイルの事業では、顧客のニーズは非常に幅広く、変化のスピードも速い。それに対応するための柔軟性と拡張性も必要だった。さらに、競合会社よりも早く事業を立ち上げる必要があった。

 信頼性、拡張性、短期開発という3つの課題をクリアするために、ARUUは、同社が従来から運用していた狭域配送向け統合支援クラウド「DSS」をベースとして、それと連携する新たなシステムを構築した。

 開発は、企業、自治体での実績が多いkintoneを採用し、kintoneの開発で実績のあるアントベアクリエイツに支援を仰いだ。同社から、通知システムや他システムとの連携にAWSを利用する提案を受け、それを基本とした。

既存の配送システムをkintoneと連携

 ARUUは、次の4つを必須機能とした。まず、患者が個別の薬局店舗に簡単にアクセスできること。これは店舗別のQRコードを読み込むことで、各店舗に直接アクセスできるようにした。次に、患者の一切の来店を不要にすること。3つめが本人による確実な受け取りの実現で、これにも確認用のQRコードを発行することで対応した。そして4つめが、同社の配送システムと連携することだ。

ARUUが必須機能とした4つの機能

 これらを満たすため、実際のシステムは以下のように構成した。患者はFormBridge経由で薬局サイトにアクセスし、個人情報を入力、それを薬局側が確認して服薬指導、調剤をして、その情報をAWS経由でDSSに連携する。DSSは効率的な配送ルートを生成し、薬を引き取って患者宅に届ける。「配達時に、当社のハーティストがお客さまと会話しながらQRコードを読み取り、薬局に完了通知を送る」(田口氏)

 kintoneを使うメリットについて、田口氏は次のように語る。「メリットは大きく2つあったと感じている。1つはリアルタイムに情報が収集できて、それがグラフィカルにわかるということ。ラストワンマイルの状況は常に変化している。それが視覚的に認識できるのは相性がよかった」

 もう1つは、コメントの機能だ。顧客のニーズは幅広く、さまざまな声が出てくるが、それらをコメント欄にメモすることできめ細やかな顧客対応に生かすことができた。「配達は正面玄関を使わないでほしい、商品はここの棚に置くようになど、細かいニーズがある。それらを拾えるようになったことは、心をつなぐDXのために重要だった」(田口氏)

システム構築に使用したサービスやパッケージ

 開発期間も短く済んだ。2021年2月にシステムの構想がスタートしてから、2ヵ月後の4月にはシステムがリリースできている。「2ヵ月でシステムが構築できたのは、アントベアクリエイツ社の柔軟性の高い対応と、当社のざっくりした要望をシステムに落としてくれる翻訳能力の高さがあったからだと思う。また、kintoneの拡張性の高さにも助けられた」(田口氏)

 今後は、2021年度中に全国ネットワークを構築し、2022年度には処方箋薬の配送を一般化していきたいと考えている。「全国ネットワークのメドは立ってきた。その先の一般化については、これからという段階だ。米国ではすでに30%近くを配送しているが、日本は0.5%程度しか行なわれていない。これをまず、2022年度に3%まで持っていき、将来的に17%まで増やしたいと考えている」

 この野心的な目標を達成するため、田口氏は最後に「この事業は運送会社1社では進められない。我々といっしょにチャレンジしてくれる企業があれば、ぜひ声をかけてほしい」と呼びかけた。

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