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業務を変えるkintoneユーザー事例 第115回

kintoneとiPad50台をいきなり現場に持ち込んだ経営者に現場は?

経営とアルバイトの間の深い溝をkintoneで跳び越えた石田クリーニング

2021年08月18日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2021年6月16日、愛媛県松山市のWstudioREDにて「kintone hive matsuyama」が開催された。kintone hive(キントーンハイブ)は、kintoneを業務で活用しているユーザーがノウハウや経験を共有するイベントだ。全国6カ所で開催され、その優勝者がサイボウズの総合イベント「Cybozu Days」で開催される「kintone AWARD」に出場できる。

スーパーブラック企業だった

 登壇したのは5社で、トリを務めたのは地元松山の石田クリーニング 中矢梨紗子氏。「石田クリーニングの“働く”が変わる時」というテーマでブラック企業がホワイトになった軌跡を紹介してくれた。

石田クリーニング 中矢梨紗子氏

 石田クリーニングは愛媛県松山市を中心に30店舗展開している。創業1953年で、今年69年目を迎える老舗。従業員数は140名で、中矢氏はアルバイトで入社10年目だという。

 以前の石田クリーニングは超絶ブラック企業だった、と中矢氏。サービズ残業や長時間労働が常態化していて、従業員の不満がたまる一方だったという。

 中矢氏がそんな状況を改善しようと声を上げるも、周囲からは「そんなの無理じゃない?」という反応が返ってきた。しかし、実は経営側もブラックな状態をなんとかしたいと考えていたという。そんな状況だった2018年、石田クリーニングは、サイボウズとNPO法人ワークライフコラボから、松山市の「働き方改革認定企業1合としてチャレンジしてみませんか?」誘われ、kintoneの導入を決めた。

中矢氏が会社を変えようと声をかけるも、無理に決まっているという反応が返ってきた

 キャストの意見を聞かずに導入しただけでなく、約50台のiPadを大量購入した。

「そして私たちにこう言うんです。アプリで日報を書け、と。私たちキャストに給与を払っているのに、実際に仕事をしているのか不安でしょうがないのです。その当時はきっと、給料泥棒くらいに見えていたと思います。そして、仕事の効率アップや業務の見える化に使え、と」(中矢氏)

 とは言え、キャストは皆ITに不慣れ。触って覚えろと言われても、そもそもiPadの電源の入れ方から操作方法もわからない。キャストはあっけにとられます。しかし、経営の指示なので、違和感がありながらも勉強会を開いたそうです。

kintoneと大量のiPadを導入した経営陣の思惑は、キャストの業務を見える化するためだった

「勉強会に参加してくれるだけでありがたい方で、iPadを鞄の奥底に眠らせていて、使おうとしたら電池が切れているとか、(日報の)書き方がわからないから入力代わりにしておいて、と言うなどひどい状態でした」(中矢氏)

 それでも導入したので、まずは経営側が熱望していた日報アプリを作成。また、クレームアプリも作成した。クレームの情報を共有するためのものだ。

 操作がわからないながらも、みんな何となく書いていたのだが、しばらく運用した後、経営側が激怒したという。業務内容を報告すべき日報には、子供の絵日記レベルの感想しか書いておらず、共有すべきクレームはkintoneアプリに上がってこなかったのだ。

クレームアプリと日報アプリを作ったが運用に失敗した

「私たちキャストは大ピンチなんですが、それにもかかわらず、心のどこかで、正直、操作方法もわからないし、ついていけてないし、kintoneをやめられたらラッキーくらいの気持ちでした。しかし、経営側は私たちが考えそうなことは見透かします。次から次への『グループアプリ』を導入して、とにかくIT機器を触らないと仕事にならない状況にまで、キャストは追い込まれました」(中矢氏)

日報っていうのを変えてみん?

 キャストで集って話し合いをしたところ、あるキャストから、「日報っていうのを変えてみん?」と案が出ました。どうせ書くのなら、日々、業務の中で気が付いたことを書けば、業務改善につながるという。加えて、その日報を他のキャストが見たときには、必ずいいねボタンを押すことになった。さらに、改善方法や提案を1行でもいいので書こうと決めたという。「日報」という名称も「気づき日記」に変更した。

 キャストたちは、日報に自分たちの業務の気付きを書くことで、自分たちの仕事が楽になっていくことに気がついた。すると、以前は半数しか書いていなかった日報を全員が書くようになった。最初は、日記を忘れる人もいたが、そんな時はキャスト間で声を掛け合ったという。

 その結果、電話を受けた受けないといった伝達漏れもなくなった。さらに、伝えたい相手に伝えたいことが確実に伝わるようになり、コストダウンにつながったという。キャストから経営側に面と向かっては言いにくい言葉も、kintoneに文章で書くことによっていろいろな意見が出てくるようになったそう。

 さらにはコミュニケーションも取れるようになった。中矢氏が「私もかなり厳しい言葉も言います。それで変わってくれると信じて取り組んでいます」と書き込んだところ、「本当なら言いたくない! がんばっている人間ほどバカをみる会社にだけはしてはならない!」というコメントが付いた。これまでは、こういった想いの部分は絶対に上がってこなかったという。

日報に気づいたことを書くようにしたら色々な改善が実現した

kintoneと石田クリーニングのよいところが1つに

 情報共有することによって、キャスト間同士での協力体制が生まれ、属人化が解消された。そのため、休みが取りやすい環境になり、有給取得率も向上した。2018年にkintoneを取り入れてから、業務改善が進み、公休が月に2日だったのが、週2日になった。そして、2020年にはなんと100%を達成した。

 この頃の中矢氏たちはkintoneに慣れており、ITへの抵抗もなくなっていた。kintoneも積極的に活用し、今ではホーム画面にZoomのURLを貼り付けていて、「工場Zoom」の文字をタップするだけで、すぐに会議を開催できるようにしているという。さらにITを駆使し、石クリ所有のライブ配信・収録スタジオ「アルスタ」を今年4月に稼働させた。今まで社内で行われていた接客コンテストを「アルスタ」を使ってオンラインで開催したという。

5%だった有給取得率が3年で100%になった

「kintoneに出会って、私たちは変わることができました。kintoneと石田クリーニングのよいところがひとつになりました。気づき日記にたくさん大切な情報が盛り込まれているので、今後はカテゴリーごとのアプリを作成していきたいです。はじめはお互いの想いが伝わらず、経営側とキャストの間に大きな溝がありましたが、キャストが一歩踏み出すことで否定的だった考え方が肯定的になりました。1人1人にスポットが当たり、輝ける場所がある。それが、石田クリーニングです」と中矢氏は締めた。

一部、表現を訂正しました。本文は訂正済みです。(2021年8月20日)

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