プロセスの名称変更はTSMCを意識したため
Aはナノより小さい単位のオングストロームの意味
さて、ここまでの話をまとめたのが下表である。こうして並べると、なぜインテルが名称変更したのかがわかりやすい。要するに対TSMCを意識して、競合するプロセスと近い名称にしたわけだ。
命名規則の変更ルール | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
新名称 | 旧名称 | インテルの量産開始時期 | TSMCの相当プロセス | TSMCの量産開始時期 | ||
10nm | 10nm SuperFin | Now | N7 | Now | ||
Intel 7 | 10nm Enhanced SuperFin | 2021年後半 | N6 | Now | ||
Intel 4 | 7nm | 2023年前半 | N5/N5P | Now/2021年後半 | ||
Intel 3 | 7nm++ | 2023年後半 | N4/N3 | 2022年前半/2022年後半 | ||
Intel 20A | 5nm | 2024年前半 | N2 | 2024~2025年 | ||
Intel 18A | 5nm++ | 2025年前半 | 未公表 |
かつてはインテルとTSMCで名前(プロセスノードの数字)がかなり違うものが同一プロセス扱いされていて、わかりづらかったのが、これでほぼ競合関係にあるノードが同列に比較できるようになった感がある。
2024年の名称をIntel 2ではなくIntel 20Aとしたのは、1つはこのあたりから微細化のスピードは一段と落ちると見られており、ここからは1.xnmなどになると予想されており、そろそろ名称を一新する必要があったからだ。
やや古い話だが2014年の連載241回でITRSロードマップを紹介した。このITRSロードマップも2015年にITRS 2.0という最後のバージョンが出て、ここで更新が終わっているのだが、その最後のロードマップにおけるトランジスタのロードマップを見ると、数字が一桁なのは3nmあたりまでで、そのあとは3/2.5nm、2/1.5nmという具合に小数第1位まで数字が増えている。であれば、このあたりで10倍にしておいたほうがわかりやすいという判断だ。
ちなみに20Aの“A”はオングストローム(Å)の意味である。国際単位系には採択されていないので、数字として使うことはできないが、2nm=20Åであり、それもあって20Aとしたわけだ。この先は18Aに続き、例えば15A/14A/12A/...としばらく小刻みに数字を減らしていくことが可能である。何となくこの名称の方式は他社が追従しそうだ。
ロードマップでは2024年に遅れを挽回し
2025年に業界を牽引する座につくそうだが……
さて、現在インテルはまだTSMCに遅れをとっている状態であり、これは2023年のIntel 3までは変わらないが、2024年にIntel 20Aを本当に投入できれば、ここで追いつけることになる。
というのはTSMCはGAAの採用をかなり遅らせており、GAAの採用はN2世代以降で、その時期も2024~2025年と流動的になっている。したがって、インテルがTSMCに先駆けてGAAを本当に2024年に投入できれば、ここでTSMCに追いつけるし、その先でIntel 18Aがスケジュール通り投入できれば、完全にTSMCを逆転できることになる。
ゲルシンガーCEOは2025年にProcess Performance Leadership(ここでいうPerformanceとは、消費電力あたりの性能である)を取ると宣言しているが、それにあわせたロードマップが開示されたわけだ。
もっともこれが現実的か? と言われると、判断は難しい。なにしろ10nmの時も、さんざん「我々は14nmの立ち上げでずいぶん苦労したが、そこでいろいろな経験を得た。なので10nmは迅速に立ち上げが可能と思っている」とか言いながら、当初2018年に投入予定だった10nm(=Legacy 10nm)は、確かにCannon Lakeという形で投入されたものの、これはもうアリバイ作りと言われても反論できないレベル。
2019年にロードマップが仕切りなおされたものの、Ice Lake向けの10nmは実質2020年、10+(10nm SuperFin)は2021年であり、10++(10nm Enhanced SuperFin)が辛うじて2021年中に間に合うといった感じで、実質2年遅れである。
まずはIntel 7、つまり旧10nm Enhanced SuperFin搭載の製品がまともに量産できるかどうかが1つのマイルストーンではあるのだが、それよりもEUVを利用するIntel 4が本当に2023年前半に量産開始できるかどうか、がポイントである。現状これに関してはゲルシンガーCEOの「順調」という言葉以外の手掛かりがないからだ。
その先のIntel 20Aもまた気がかりである。GAAに関してはSamsungがかなり意欲的に取り組んでおり、2017年当時は「2020年にGAAを利用した4nmプロセスを開発(4GAE)」としていたのが、2018年に「4nmはGAAにしなくても行ける目途が立った」として、これを2021年の3GAEに後送りした。
この3GAEはその後2022年に後退したのだが、最新のロードマップでは3GAEが消え、2023年に3GAPに切り替わっている。3GAEというのは3nm GAA Earlyで初期プロセス、3GAAは3nm GAA Plusの意味である。どうも3GAEに関しては社内の評価や開発などの目的でSamsung社内で少量生産に止め、ファウンダリーサービスとしてはその次の3GAPからという形に切り替えたらしい。
つまり先行するSamsungですら3年遅れているのである。これをインテルが一発で立ち上げできるのか? というのは、個人的には非常に微妙である。そもそもこのところプロセス開発の遅れが極端にひどくなっているインテルが、CEOが変わっただけでどこまでこれを改善できるのか? というのは未知数(普通に考えたら無理だろう)である。
やや意地の悪い見方をすれば、現在はゲルシンガーCEOはハネムーン期間が終わりかけている。米国では通常就任100日でCEOがなにかしらの結果を出すことを求められるのが珍しくないが、インテルはクルザニッチ元CEO&スワン前CEOの合計7年間に急速に内部が劣化したという根深い問題もあって、立て直しには相応の時間が掛かるのは間違いない。
ゲルシンガーCEOそのものの魅力もあって、ハネムーンタイムはもう少し長くとれるかもしれないが、2年も3年もハネムーン期間が取れるわけではない。ところが立て直しの効果が出るのは早くても2023年以降だろう。現在の製品パイプラインはまだスワン前CEO時代のものに基づいているからだ。
そこまで時間を稼ぐために、多少無理してでもバラ色のロードマップを描かざるをえなかったのかもしれない。個人的にもゲルシンガーCEOは嫌いではない(何度もラウンドテーブルや1対1で対談する機会を得ており、好意を持っていることは否定できない)だけに、このロードマップを実現できずにCEOの座を追われる、なんてことにならないと良いなとは思っている。
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