ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第619回
価格性能比でライバル製品を圧倒するRadeon PRO W6000シリーズの凄さ AMD GPUロードマップ
2021年06月14日 12時00分更新
レイトレーシングが大幅に高速化
ゲームはともかく業務用ではNVIDIAを上回る性能
もう1つの大きな話題は、言うまでもなくレイトレーシングである。NAVI 2ベースとしたことで、レイトレーシングが大幅に高速化されることになった。
GCNベースというのはRadeon ProRenderの話であると思われる。SolidWorks VisualizeはVersion 2020からRadeon ProRenderをサポートしており、またRadeon ProRenderはNavi2のHardware RayTrace Engineをサポートすることで、この結果が得られた格好だ
DXRT(DirectX Ray Tracing)ではNVIDIAの方にやや分があるかもしれないが、業務用品質ではまた話が少し違うようで、Radeon PRO W6800はQuadro RTX 5000を上回るレンダリング性能を示すとしている。
下の画像は60秒間のレンダリングの結果で、中央がRadeon PRO W6800のものだが、これだとやや差が小さすぎてわかりにくい。
そこで10秒間のレンダリングの結果を示したのが下の画像である。SolidWorksの場合、画面中でオブジェクトを掴んで動かしている間は最小限のレンダリングで描画されるが、ユーザーが手を触れないとどんどんレンダリングを進めて最終成果物に近い描画になっていく。要するにこれは掴んで動かした10秒後の描画であって、もちろん左の描画でも操作に支障はないのだが、どちらが綺麗と言われれば言うまでもなく右である。
AIベースの処理でもNVIDIAを上回る性能
最近はアプリケーションで独自のAIを搭載するものも増えてきた。その1つがTopaz Video Enhancerで、AIベースのアップスケーリングを独自アルゴリズムで実施する処理だが、ここでもRadeon PRO W6800はQuadro RTX 5000より高速としている。
AIベースのアップスケーリングでもRadeon PRO W6800は高速。とはいえRadeon PRO VIIと同程度というあたり、価格差を考えると少し悩むところ。Topaz Labsは詳細を公開していないが、おそらくOpenCL経由でGPUを使っているのだろう
同様にDxO PhotoLab 4で追加されたDeepPRIME(AIベースのノイズ削減)だが、Radeon PRO W5700比で54%高速であり、CPUとは比較にならないとしている。個人的には筆者もこのDxO PhotoLab 4でDeep Primeを使いまくっているので、こうした数字はうれしいところだ(自分でRadeon PRO W6800を使う機会はないだろうが)。
性能の最後はFoundryのNukeというVFX(デジタル合成)ソフトウェアである。CGを利用した動画のポストプロダクションなどで使われるものだが、最新のNuke 13ではAIRと呼ばれる機械学習ツールが搭載されている。以前はNVIDIAのGPUで、Kepler以降のGPUが必要という話だったが、現在はAMDのGPUにも対応している。
肝心の性能だが、Infinity Cacheを無効化するとRadeon PRO W6800の性能はQuadro RTX 5000にややおよばない程度なのが、Infinity Cacheを有効にすることで10%ほど性能が上がり、Quadro RTX 5000を上回るというおもしろい結果になった。
価格性能比に優れるRadeon PRO W6000シリーズ
安定供給できれば業務用のシェア奪回もありうる
AMDはCPUでこそインテルから着実にシェアを奪ってるものの、GPUに関してはなかなかNVIDIAからシェアを奪回するに至っていない。理由の1つは供給が足りないことで、NVIDIAがマイニング用途で空前の品不足に陥っている昨今ですら供給が増やせない(Fab側もいっぱいであり、しかも周辺部品もやはり品不足気味なので、供給を増やすのが困難なのは理解できる)ので、それはシェアを奪えないわ、という話はあるにせよ、価格性能比で優れた製品を投入して差を縮めるのも大事な作業である。今回のRadeon PRO W6800とW6600で多少なりとも業務用のシェアが増えればいいのだが。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ





