現役医師起業家が語る、ソフト・ハード融合領域でスタートアップが成功するコツ
オーダーメイドインソール「HOCOH」の製造・販売で得られた知見
JAPAN INNOVATION DAY 2021は、最先端の技術・サービス・プロダクトが集まるオールジャンルのビジネスイベントだ。ASCII STARTUPが主催することもあり、レガシー企業よりベンチャー・スタートアップからの出展が多く、その年の最もホットなイノベーションの集積地となっている。本イベントはハードウェアを含む新事業の発掘・支援に特に力を入れており、2019年には展示会場に多数のIoT・ハードウェアベンチャーが集まってきていた(本年は展示が中止された)。
資金や人脈に弱点を持つスタートアップの多くはソフトウェアベースのプロダクト・サービスから事業を始めることが多いが、これはハードウェアを含む新事業の開発には、試作・製造や販路開拓など、ソフトウェアだけの製品とは異なる課題があるためだ。そこで一般社団法人 環境共創イニシアチブ(SII)は、ソフト・ハード融合領域のベンチャーを支援する「ものづくりスタートアップ・エコシステム構築事業(以下エコシステム構築事業)」を推進している。
本稿では、エコシステム構築事業に採択されたジャパンヘルスケア社の岡部大地 代表取締役によるプレゼンテーション「現役医師起業家が語る、ヘルスケア領域でのハードウェア販路開拓 ~3Dプリンタ製オーダーメイドインソール“HOCOH”の社会実装プロセス~」と題したセッションをレポートする。
本セッションでは岡部氏からのプレゼンに加え、エコシステム構築事業から生まれた「スタートアップのための社会実装ガイドライン」について、その作成に携わった野村総合研究所の新治義久氏とSIIの中間康介氏から、その概要が紹介された。これからソフト・ハード融合領域で新事業を起こそうとしているスタートアップの方々には非常に参考になる資料だと思うので、ぜひ参考にしてほしい。
ソフト・ハード融合領域に対する経産省の支援施策
セッションの進行に先立ち、まずモデレーターの中間氏から、ソフト・ハード融合領域におけるスタートアップを支援する経産省の取り組みが紹介された。
経産省は3年ほど前からソフトとハードの融合領域にいるベンチャーやスタートアップの支援を行なっている。まず平成29年度に「スタートアップファクトリー構築事業」(以下、ファクトリー構築事業)として、スタートアップ単独では困難なハードウェア開発を支援する工場などのプレイヤーを増やそうという施策が実施された。
それに続いて、3年間の予定でモノづくりスタートアップによる実際のハードウェアを含む新プロダクト開発を支援するエコシステム構築事業が行なわれている。そこではノウハウを収集してロールモデルを作るとともに、得られたノウハウの横展開を目指している。
ファクトリー構築事業を行なっているときにはものづくりにおける課題抽出が中心だったが、エコシステム構築事業で採択された事業者の支援をしていくなかで、開発されたプロダクトの販売など、社会実装の方がもっと大変なのではないかという認識に変わってきた。現在は徐々に比重を移しながらノウハウの抽出を進めているところとのことだ
「ソフトとハードは作り方が違う。ソフトウェアの世界では、βテストでなにかミスをしても後でなんとかなるというところがある。しかしハードウェアの世界は設計して試作して見せないと価値がわからない、かつ世の中に出すとしたときに何か事故が起こる、人がけがをする、といったリスクが高い。ちゃんと品質を高めないと世の中に出せない。ソフト・ハード融合領域ならではの難しさがある。一方で、既存のスタートアップはソフトウェア中心になっており、ハードウェアを作るところのノウハウがまだエコシステムの中で浸透していない」(中間氏)
そこでエコシステム構築事業に採択された9社のものづくりスタートアップの支援を通じて得られた知見をまとめたガイドラインを作成した。1つは『「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップのための社会実装ガイドライン』で、スタートアップがプロダクトを社会実装するまでのプロセスの全体像を提示したり、その課題や解決法を採択事業者での実例を交えて紹介している。もう1つはその別冊として作成された『「ソフト・ハード融合」領域におけるスタートアップと共創パートナーの連携のポイント』で、こちらは単独ではやりづらいハードウェア開発におけるパートナーとの役割分担や、パートナーとの連携における留意点をまとめている。