コミュニティ運営者のためのコミュニティ「Slack Community Hub」一般公開記念 ウェビナー
「オンライン前提」で変わるコミュニティ運営、小島英揮氏が語る
2021年05月11日 08時00分更新
“コミュニティ運営者のためのコミュニティ”を設立
Slack Japanは2021年4月、オンラインコミュニティ「Slack Community Hub」を一般公開した。コミュニティ運営者の情報交換の場として、Slackをはじめとしたツールの活用法や、オンラインイベントの開催ノウハウなどナレッジ共有の場としての活用を促していくという。
4月23日には同コミュニティの一般公開を記念して、有力オンラインコミュニティを運営する専門家を招いたウェビナーが開催された。
冒頭説明に立ったSlack Japanの溝口宗太郎氏は、「Slack Community Hubは、コミュニティの運営ノウハウを共有し、課題を解決するヒントを得られる場になればいいと考えている。また、この場自体がコミュニティであると同時に、世の中にあるコミュニティ同士をつなぐハブとして他のコミュニティとの交流を促していきたい」と語った。
続いて、パラレルマーケター、Still Day One 代表社員の小島英揮氏が、オンラインでのコミュニティ運営のヒントについて講演した。
小島氏は、AWS(アマゾン・ウェブサービス)日本法人の第1号社員として、AWSのマーケティングを主導した人物だ。一方でユーザー会である「JAWS-UG」を立ち上げ、日本最大規模のコミュニティに成長させた、コミュニティ運営の第一人者でもある。
小島氏は最初に、コミュニティは「関心の高さ」と「オープンさ」が高いものほど成長すると説明した。
「参加者の地域や属性を問わず、関心の高さを軸にして集まるコミュニティは熱量が高い。熱量をさらに高め、コミュニティを成長させていくために運営者(コミュニティマネジャー)は、参加者のエンゲージメントを高めると同時に、新しいメンバーを集めなければいけない。そのために実現したいモデルが『Sell Through the Community(セル・スルー・ザ・コミュニティ)』という考え方だ」
セル・スルー・ザ・コミュニティとは、参加者が自ら他の参加者を集めてきてくれる運営形態のことだ。「このモデルの特徴は、既存メンバーが新規参加者の都合がいいところで話題を振り、おすすめしてくれる点だ。ベンダーから一方的にお知らせを送りつけるのと比べて、圧倒的に賛同者を増やしやすい」と小島氏は説明する。
参加者が参加者を呼ぶモデルを軌道に乗せるには、コミュニティの魅力を効果的にアウトプットすることと、コミュニティ参加者の満足度を高めることだと、小島氏は語る。
コミュニティ成長のための「3つのファースト」
参加者の満足度を高めるには、何をすればいいか。小島氏はコンテキストファースト、アウトプットファースト、トラストファーストという「3つのファースト」という原則があると語る。
「よく“旗を立てる”と言われるが、『このコミュニティはどういう場で、どこに向かっているのか』を最初にはっきり決めておくことが、コンテキストファーストだ。これがないと、のちのちコミュニティの求心力が薄くなり、ばらばらになってしまう。また、アウトプットファーストは、常に外に対する発信が必要不可欠ということ。参加者同士が密室内でやっているようなコミュニティは、参加する人が魅力を感じない」(小島氏)
そして3つめが、参加者が安心して参加、発言できるような「心理的安全性」を確保することだ。これはもともと、参加者同士が直接会う場を設ける「オフラインファースト」と言っていた。しかし、コロナ禍によってオフラインの交流が困難になったため、現在は「トラストファースト」という言葉に切り替えている。コミュニティ参加者が積極的な情報発信するには、信頼をオンラインの中で作っていくことが非常に重要だという。
この3つのファーストが揃うと、コミュニティの熱量が「焚き火のように燃え上がる」という。
「焚き火では、小さな種火から始めて、徐々に燃えやすいもの入れて火を大きくしていけば、最後には大きな木材も燃やすことができる。コミュニティもそれと同じで、手順を踏んでムーブメントを大きくしていくことで、はじめは関心が薄かった人も関心を持ち、活発に発言するようになる」(小島氏)
オンラインコミュニティ時代のツール選び
コミュニティを成長させるためには、オンラインツールの活用が不可欠だ。ツールを選ぶポイントについて小島氏は、参加者が使い慣れているものが最優先で、あとはコミュニティの外での接点を重視するかどうか、複数のツールを組み合わせるかどうかなどを基準にして、決めていけばよいと語る。実際は、ビジネスチャットとSNSから1つずつ、または複数を組み合わせる形でよいという。
具体的には、SNSはTwitterやFacebook、場合によってはLINEなど、コミュニティの性格によって切り替える必要がある。また、SNSだけでは深い会話ができないという場合は、Slackなどのビジネスチャットが有効だ。
「いずれにしても、JAWSが始まった10年以上前は、メーリングリストと掲示板しかツールが存在しなかった。それに比べて今は非常にたくさんの便利なツールから選ぶことができて、恵まれている」(小島氏)
そして、コミュニティ成長の起爆剤にとなるのが「イベント」だ。コロナ前は、リアルなイベントを開催し、次のイベントまでの間をSlackなどのオンラインツールでつないでいくことが王道のプロセスだった。そうすることで、熱量をそのままに保ち、イベントごとに規模を大きくしていくことが可能だった。
しかし、コロナ禍によって状況が一変した。小島氏は「コミュニティは、オンラインを前提で考える時代が到来した」と語る。「もちろんリアルのイベントができなくなったために、オンラインで実施せざるを得ない状況もある。だが、配信プラットフォームをはじめとしてさまざまなツールが普及し、『積極的に』オンラインのイベントを実施するコミュニティが爆発的に増えている」。
ソフトやハードだけでなく、オンラインイベントの配信方法などのナレッジも広く共有されており、一個人でもイベント配信が可能になった。オンラインイベントの民主化が一気に進んだと小島氏は言う。
「オンライン環境下でのコミュニティ運営は難しいことも多いが、プラス面も結構ある。JAWS DAYSというAWSユーザーのイベントは、今年、完全オンラインで実施したが、過去最高の4000名のエントリーを記録した。オンラインのよさを生かせば、コミュニティはさらに成長させることができる」
小島氏はイベントのオンライン化について、企業ITの世界でよく言われる「リフト&シフト」の考えを取り入れるべきだと語る。
「私もそうだったが、オンラインイベントを始めたころは、リアルのイベントをどうやってオンライン対応するかで精一杯だった。だが、オフラインのイベントの進行や意見の集め方をそのままオンラインで実施しても、あまり意見交換は活発にならない。これからは、オンラインの良さを生かし最適化していくことで、コミュニティの熱量を高めていく必要がある。ある意味、これまでのオフラインの知見が“リセット”されたとも言えるので、今後はオンラインネイティブなコミュニティマネジャーが出てくるのではないかと期待している」
コミュニティの地方支部は表舞台に出るチャンス
コミュニティのオンライン化による変化として小島氏が注目しているのが、地方支部のあり方だ。「これまでは東京で実施したコンテンツを地方で再演する形が多かったが、オンライン前提となり、東京で行う講演に地方からも直接参加できるようになった。そのため、地方オリジナルのコンテンツが重要度を増してきている。これを大変になったと思うか、面白くなったと思うかは、コミュニティマネジャーの考え次第だ」
一方、コミュニティ運営のオンライン化で明らかに難しくなったのが、新規参加者のオンボーディング(コミュニティの輪への“取り込み”)だという。「オフラインのイベントであれば、初めての参加者にコミュニティマネジャーが声がけをしたり、懇親会などであちこちの話題に触れながら雰囲気に慣れてもらうことができる。しかしオンラインの場合、参加者全員が1つのトピックについて聞く状況になるため、ネットワーキングできる人の数が限られてくる」
そのため小島氏は、オンライン時代のコミュニティ運営ツールに求める機能として、オンボーディング支援、ネットワーキング支援などの充実を挙げる。加えて、イベント運営ツールとの統合や、コンテンツの検索機能なども必要だという。
「これらのオンラインのツールをどう組み合わせていくかは、コミュニティマネジャーの判断になるが、あまりたくさんのツールを使うことは、管理工数の点でもよくない。いくつかのツールを適切に選択するべき」(小島氏)
小島氏は最後に、「オンライン化という変化に抗っても仕方ない。変化を受け入れ、コミュニティを再構築するチャンスを生かして楽しむことが大事」と語った。
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なおSlack Community Hubでは専用ワークスペースを設け、参加登録を受け付けている。詳細は下記の公式noteを参照いただきたい。