スポーツアナリティクスジャパン2021「CBF’s Legacy: ブラジルサッカー連盟の野心的なビジョンと取り組み」
ブラジルサッカー連盟が進めるデータ統合管理
2021年04月13日 06時00分更新
FIFA ワールドカップ最多優勝記録(5回)を持つブラジル、誰もが認めるサッカーの王国だ。そのブラジル代表が取り組んでいるのが映像を利用した分析だ。ポイントは、ビッグデータ活用のためのプラットフォームの構築を通じてリアルタイム性と共有を実現している点。
2021年1月31日に日本スポーツアナリスト協会(JSAA)がオンラインで開催した「スポーツアナリティクスジャパン2021」で、ブラジルサッカー連盟(CBF;Confederação Brasileira de Futebol)のアナリストを務めるBruno Baquete氏とCBFが導入するHudlの担当者がセッションで説明した。
3~5年先を見据えたインフラ整備に着手したブラジルサッカー連盟
ブラジルサッカー連盟(CBF)は現在、未来のためのインフラ整備を進めている。ハードウェア、ソフトウェア、そしてそれらを使いこなす教育プログラムと包括的な意味でのインフラだ。
CBFには男女の代表、ユース、審判部などを抱える。これまでは各チームごとに必要なソフトウェア、ハードウェアを導入してチーム内で活用していたが、それではブラジルサッカー全体の発展につながらないという批判がCBF内部から出てきたこともあり、統一したプラットフォームを構築することにした。
バラバラにソフトウェア、ハードウェアを購入するのではなく、プラットフォームの上にハードウェア、プログラムを提供することですべてがシナジーを生み、最終的にレガシーとして3〜5年先の勝利や発展につながるのではないか――プロジェクトの参加企業となったHudlの高林諒一氏(シニア エリート アカウントエグゼクティブ )は狙いを説明する。
男・女・ユースの各代表チーム、ブラジル国内リーグとそれに所属するクラブ、審判部門、アカデミーなどが全て同じソフトウェアやプログラムを使い、選手IDにより成長を追跡することができる。
アカデミー部門は、hudlのeラーニングソリューションをCBF向けにカスタマイズしたコーチのレベルアップのためのプログラムを用意した。コーチは好きな時間に学ことができる。
審判部も、iPadで簡単に利用できるタグ付けのテンプレートを利用して試合中に下した判断などを定量化し、映像と紐づけた個人レポートを作成し、レベルアップに役立てているという。
なお、高林氏は、リーグでの取り組みとして、ブラジルと同様の取り組みを進めるベルギーサッカー協会の事例を紹介した。
ベルギーサッカー協会では23あるスタジアムすべてにHudlのカメラを設置し、各チームが映像を用いた分析ができるようにしている。アナリストやスタッフは自分のコンピューターに専用ケーブルを接続すれば、Hudlのカメラが捉える3つの角度からの映像が得られる。ハーフタイムに短い映像を作成して選手に見せて戦略を変更するようなことが可能になった、とKASオイペンのアナリストコーチ、Manel Exposito氏はコメントしている。
映像編集ソフトとの違い
CBFでアナリストを務めるBruno Baquete氏は、Hudlのカスタマーソリューションチーム リージョナルディレクター、Cesar Andrade氏と対談形式で、より詳細に取り組みについて語った。
Baquete氏によると、CBFはBaquete氏を含む2人で選手、チーム、そして対戦相手の全ての分析を行なっているという。Hudlの分析ツール「Hudl Sportscode」は「すべてのプロセスの中心」と位置付けており、ライブコーディングや共有機能をフル活用している。
たとえばコロナ禍での代表メンバー選びでは、Hudlを共通ツールとして活用し、「選手の分析、各クラブでの戦術的アクション、個々のプレーなどの分析情報をもとに、召集リストを作成した」とBaquete氏は明かす。
チームの考え方、試合中に想定すべきことを共有するなど、選手が代表活動に参加している間に使う教材も用意した。対戦相手の分析では、相手チームの特徴的なアクションを整理し、コーチングスタッフ向けのプレゼン、選手向けの資料を作成し、共有する。そこでは、自分たちの直近の試合を考慮に入れて行なっているそうだ。このような分析やコンテンツなど、作成したものを簡単に共有できるのもHudlの重要な特徴のようだ。
試合中はリアルタイムで分析を行ない、その情報をベンチのスタッフに共有する。そして、試合の後には定性的、定量的に分析してやはり共有しているそうだ。
CBFに勤務する前にHudlに出会ったというBaquete氏、それまでは映像編集ソフトで分析を行なっていたという。Hudlの魅力を「情報の取得が素早く簡単にできる。さらには、情報にさらなる価値を付加することもできる」と説明し、「日々のワークフローを楽にしてくれる」と続けた。
CBFが目標に掲げるプラットフォーム化とデータの一元化も効果が出ているようだ。「国内リーグだけでなく、国際大会を含む全てのデータを作成しているが、データはすべてSportscodeのデータベースの中に保管されている」とBaquete氏、重要なインスタンス(クリップ)にフラグを立てており、個々の選手のイベントをタイムラインから確認できるようになっている。これにより、「より細かな分析が可能になったし、どこからでもアクセスできる。どの選手を招集するのかの意思決定が早くなった」とBaquete氏は述べた。
CBFのように、データ活用に向けたインフラ整備はスポーツ界のトレンドだとHudlの高林氏はいう。「リーグ側や協会側がすべてのデータを一括管理して提供する。それまでは別個に集約されていたが、ひとつのデータベースに集約することで活用が進み、さらに大きなデータセットを作ることができる」と高林氏。Hudlの調査では、23のリーグや協会がプロジェクトとして進めているそうだ。そのひとつであるイングランドのプレミアリーグでは2014年よりHudlを統一のデータベースとしてイベントデータ、映像データ、トラッキングデータなどを集約しているという。各クラブだけではなく、メディアや放送局などビジネスサイドの人にも提供しているそうだ。