アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS ジャパン)は、3月25日、報道関係者を対象にした「スタートアップ現況と事例に学ぶアフターコロナにおける成長への鍵」と題したラウンドテーブルを、オンラインで開催した。AWSのスタートアップ支援施策を示す一方、コロナ禍にもかかわらず成長を続けるスタートアップの現状や、アフターコロナにおける成長戦略、AWSを活用しているスタートアップ企業の最新事例などを紹介した。
10種類ものプログラムでスタートアップを支える
アマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業開発部の畑浩史本部長は、「AWSが、スタートアップ企業を積極的に支援しているのは、会社のDNAとしてベンチャースピリットを持っていること、AWSもAmazonからスピンアウトした企業であること、AirbnbやSlackといった企業も創業初期からのAWSのユーザーであり、日本でもゲーム会社が利用するなど、スタートアップとともに成長してきたこと、起業する際にはクラウドを積極的に利用するため、AWSにとってもビジネスインパクトが大きいという点があげられる」と説明。現在、日本において、10種類のスタートアップ向け支援プログラムを用意していることを示した。
ここでは、AWSのサービスを利用するために、最大10万ドル分の無料クレジットを提供する「AWS Activate」、構成レビューや構築アドバイスを行なう「技術支援」、AWSのサービスに関する情報や最新技術動向を提供する「勉強会/コミュニティ」、イベントへの登壇や公式サイトへの掲載などの「マーケティング支援」、無料でコワーキングスペースを提供する「AWS Startup Loft Tokyo」、金融やヘルスケアなどの各業界の特有の規制対応を支援する「業界特化型支援」、マメジメントや採用、評価などの相談に対応する「元CTOメンタリング」、AWSユーザーとのマッチングを行なう「Connections」、Amazonグループと協業する「One Amazon」、パートナー企業やVCなどを紹介する「パートナー紹介」で構成する。
「AWSにはさまざまなサービスが用意されており、しかも、これらのサービスは、顧客の声をもとに生まれたものだ。長年の実績による安定性があること、AWSユーザーが多く、情報が多く、聞ける人が多く、AWSのエンジニアも採用しやすいという点も、AWSがスタートアップ企業に選ばれている理由である」(畑氏)。
さらに、AWSジャパンのスタートアップ事業開発部には、かつてスタートップ企業に在籍していたり、起業したりといった社員が多く、「スタートアップに熱い思いを持っている社員が多いのが特徴」だとする。
コロナ禍でも成長するスタートアップを支援
AWSジャパンは、2011年3月に東京リージョンを開設して以降、ゲーミング、アドテック、メディア、EC、クラウドソーシング、フィンテック、SaaSといったように、さまざまな分野のスタートアップ企業がAWSを活用し、事業を拡大してきたという。「スタートアップ企業にもトレンドがあり、それぞれの時代において、AWSがインフラを提供し、ともに成長をしてきた」と振り返る。
コロナ禍でも、リモートワークや巣ごもり需要、メディア・動画、観光・旅行・飲食の分野などで、AWSを活用して成長している企業があることに言及。音声解析によるAI電話やオンライン商談を提供するRevComm、バーチャルオフィスやバーチャルイベントを提供するoVice、チャットデータの解析によりコミュニケーションを促進するLABORATIKなどを紹介。さらに、セミナーのデジタル配信やライブ配信を行なうDigital Cruise、討論会の有料配信を行うシラス、AIを活用した大喜利を行なうオモロキ、猫の活動を首輪に内蔵したデバイスで記録するRABO、ペットのためのIoTトイレを提供するトレッタキャッツ、スマホから実家のテレビへ動画や写真を配信するチカク、おうち体験キットの提供や、安心レジャー施設情報を提供するアソビュー、スマホを使って非接触でホテルにチェックインするCUICIN、トークンを活用した次世代グルメSNSのGINKAN、ホテルやレンタカーのダイナミックプライシングを行なうメトロエンジンを紹介した。
また、今後の注目分野として、一次産業、フィンテック、ディープテック、ヘルスケアをあげ、スマート給餌機や魚群食欲判定するウミトロン、IoTを使って牛の行動データやビッグデータ解析を行うデザミス、ドローン画像による作物管理を行なうスカイマティクス、量子コンピュータ向けソフトウェア開発のblueqat、AIによる検査、検品を行なうアダコテック、小型人工衛星事業を手がけるAxcelspaceやQPS 研究所、ネットでの後払いや掛け払いを行うネットプロテクションズ、ブロックチェーン技術のLayerX、金融サービス向けのクラウドインフラを提供するFinatext、ニコチン依存症向けの治療アプリを提供するCureApp、クラウド型電子薬歴システムのカケハシ、臨床試験のマッチングを手がけるActivaid、救急外来向け患者情報記録システムのTXP Medicalを紹介した。
「打撃を受けた産業では、自ら変わらなくてはならないという意識が生まれている。また、新型コロナウイルスによって、消費者の意識が変化し、そこに新たな市場やチャンスが生まれている。日本のスタートアップ企業を取り巻く環境は着実に進化している。世界の誰もが知っているようなサービスを、日本から生み出すことを応援したい」(畑氏)。
スタートアップへの投資額は落ちてない
一方、ゲストスピーカーとして登場したインキュベイトファンドの代表パートナーであり、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の企画部長である村田祐介氏は、「国内スタートアップ企業による資金調達の総額は、2012年を底に順調に増加しており、コロナ禍の2020年も、最終的には5000億円程度の規模が見込まれる。投資額が落ちていないという状況は、日本だけでなく、海外でも続いており、米国では過去最大の16兆円が投じられている」という。
なかでも増加しているのが、事業法人(CVCを除く)による投資だという。「コロナ禍では、事業法人の投資が手控えられるのではないかとみられていたが、逆の現象がみられており、スタートアップが調達した資金全体の3割が事業法人によるもの」(畑氏)とした。また、2020年には、15社のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が設立されており、JVCAにも約90社のCVCが加盟しているという。
「かつては、金融機関系VCが中心であったが、5年ほど前から、独⽴系VCや⼤学系VC、そして、AWSのようなグローバルIT企業の影響力が高まっている。クラウドはスタートアップ企業にとってはなくてはならないものであり、その点でも大きな貢献を果たしている。また、東電やJRなどの伝統的な企業がCVCを立ち上げ、イノベーションを志向する⼤企業が増えている傾向にある」(村田氏)
資金調達を行なったスタートアップ企業を、セクター別にみると、AI、SaaS、Fintechが上位を占めている。「コロナ後を見据えて、社会課題が明らかになった領域への投資が積極化している。Clean Techやシェアリングエコノミー、製薬/創薬などの資金調達額も大きくなっている。ビジネスとして成り立つのに時間がかかる領域にも大きな金額が集まっている。日本でも未上場段階で100億円以上の調達が可能になっており、10億円以上でも100社を超えているという状況になっている」(村田氏)。
さらに、JVCA会員を対象にしたアンケートによると、コロナ禍においても、積極的な投資を行う意向が示めされており、投資額を増やすとした会員企業は29.6%、いままでどおりが57.0%になったという。
村田氏は、「国内や、主要なスタートアップ企業が集まってくる米国、欧州、中国、インドといった地域では、VCの投資額は増えている。新規のIPOも活況で、調達できる金額も増加している。未上場市場に機関投資家も投資をしている。スタートアップ企業にとっては、いい環境が続いている」と指摘。一方で、「米国のスタートアップ企業の資金調達額のかなりがBtoB SaaSとなっており、新型コロナウイルスの広がりやリモートワークの浸透で、大企業がスタートアップのサービスを活用することが増えている。コロナで5年ほど時間軸が早まったと言われているほどだ。使われ始めたBtoB SaaSで出てきた課題を解決するために、新たなBtoB SaaSが生まれるといったことも起きている」と語る。
また、「遠隔医療が浸透するなど、いまはヘルスケアが注目されている。医者が起業するといったことや、医療機器を一から作るといった動きもみられている。医師やサイエンティストなど、産業の負の構造を知り、解決策の仮説をもって起業する人が増えており、その結果、40代以上などの起業家が増加している。女性の起業家も増えている。米国はチャレンジする人をリスペクトするという文化があるが、日本でも起業家が生まれる土壌と、チャレンジすることが注目され、リスペクトされる文化が生まれてほしい」(村田氏)とした。
さらに、「第一次産業の生産者に近い領域にも、これまでは不要とされていたデジタルが入れやすい環境ができてきた。デジタルを使ってみたら、使いやすかったという例も少なくない。今後は、成長が期待される宇宙産業において、日本が国として持っている力を生かしながら、それが日本のスタートアップにトリクルダウンすることを期待している」(村田氏)。