【後編】声優・緒方恵美さんロングインタビュー
緒方恵美さんの覚悟「完売しても200万赤字。でも続けなきゃ滅ぶ」
2021年04月25日 17時00分更新
「1人1枚」の原則が崩れた配信ライブ
配信費とコロナ対策費が追い打ち
緒方 加えて、配信するための費用が必要になります。仮にキャパ700の会場だとカメラを4台は入れたいところです。とはいえ、4カメ用のユニットを入れると70~80万円はかかるんですよね。配信費用として70~80万余計にかかるのに、お客さんは700ちょいのキャパに200人しか入れられない。
―― そして配信費用を賄えるだけのチケット代は見込めないと。
緒方 はい。だから私の12月のライブは、どう試算しても赤字が200万出てしまうのは確定しているんです。
これが、普段からドームや武道館のような大きな会場でやっている方たちだと売れるチケットの数が多いので、まだなんとか成立できるのですが、私たちのようなキャパ2000人以下の規模でやっているアーティストだと、採算を取るのは本当に難しい。
スタジオ配信ならまだしも、会場を借りた途端、本当に大赤字になるので配信ライブをやりたいと思ったアーティストも、内情を知ると躊躇してしまうんです。
吉江 じつは規模が大きくなると別の厳しさが出てきます。ランティスでも11月から順次、お客さんを入れたライブを企画・実施していますが、内情を言えば配信にかかる費用のほか、新型コロナ対策でお客さまを誘導するスタッフも増員していますので、人件費も考えるとなかなか収支が合っていきません。
―― 配信チケット代は安い上に、「1人1枚」の原則が崩れて売上枚数が下がる。そして物販の売上も減っている。収益が減っているにもかかわらず、配信費や新型コロナ対策費が余計にかかる。だから赤字になってしまう、ということですね。
緒方 そういうことです。……ですから結論を言うと、12月のライブで確定している約200万円の赤字は自分で被ることにしました。
―― えっ、個人で200万円の赤字を……!?
緒方 今回は、ランティスさんに運営を協力していただきつつも、初めて自分で主催しました。200万円の赤字もうちの事務所の必要経費にすることはできるのかもしれませんが、いま事務所では若者を育てている最中なので、持ち出しをして事務所が潰れると若者たちが困ってしまう。だから私が個人で払います、ということにしました。
ライブをとりまく状況は厳しいですし、この先どうなるかわからないけど、とりあえずやってみる……開催することでライブの現状みたいなものを伝えるきっかけになったらいいなと思っています。
―― 仮に、会場が潰れたり、スタッフが辞めて転職したりしてしまうと、今後コロナ禍の情勢が好転しても、「場所がないし専門家もいないのでライブを開催できない」という状態が訪れてしまう、と。
ライブ忌避の空気を変えるため
大規模IPから動き始めた
―― ランティスさんでは11月から動員でのライブを少しずつ開催されているとのことですが、方針などをお聞かせ下さい。
吉江 まずは大規模な展開をしているアーティストやコンテンツを中心に、ライブを成立させようという試みをしている状況です。
主催には責任が伴いますので、もし問題が発生した場合にどう対応するかもシビアに考えて、まずは対応できる体制作りからですね。いまは現場の管理も含めて、厳しくルールを作り始めている段階です(編註:取材時)。
世の中の状況を見ながらではあるのですが、まずは大規模なコンテンツを動かしてみて、そこで得たノウハウを活かしたうえでほかのアーティストさんもライブができるような体制を作りたいと考えています。
―― 小規模のほうが小回りも利くのではないかと思ったのですが、まずは大規模なライブから開催するのですね。それは、ステージ周りの固定費は大規模であってもあまり変わらないから、チケットを買ってくれる観客数が多いところから成立させる、ということですか?
吉江 それもありますが、最も大きな理由は『「ライブを開催しました!」というニュースを大きく広めることができる』ところだと思います。著名アーティストが大きな会場でライブを開催したということが、「ランティスは動いているよ」いうメッセージとして次につながっていきますから。
―― 御社でも無観客配信に移行したライブがありました(バンダイナムコアーツ「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours COUNTDOWN LoveLive! ~WHITE ISLAND~」)。無観客でも開催する理由は、お客さんに「ライブそのもの」を認知してもらうために必要だからなのですね。
吉江 「ライブに行く」という行動を、徐々に「普通のこと」にしていきたいです。スポーツや映画には、対策をしっかりされた上でお客さんを入れるという前向きなニュースがありますし、お客さんたちも『行こう!』という気持ちになってきています。
ですから緒方さんが覚悟を持ってライブを開催するのと同様に、うちも収支が合っていかないのはわかっているけれども、誰かが続けないと、お客さんの意識や行動習慣から外れてしまうので。
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