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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第49回

【後編】声優・緒方恵美さんロングインタビュー

緒方恵美さんの覚悟「完売しても200万赤字。でも続けなきゃ滅ぶ」

2021年04月25日 17時00分更新

文● 渡辺由美子 編集●村山剛史/ASCII

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エヴァと新譜が完成したら
『もういいんじゃないか……』と思う瞬間も

―― 緒方さんが、ご自身で配信を含めたライブが開催できるのは、バックヤード、運営側のことまで知っているからということですね。

緒方 それはあると思います。実際すごく大変なので、プレイヤーである私が動かなくても、誰かがお膳立てしてくださるのであれば、本当にお願いしたいのですが(苦笑) 現状それが難しいので自分でやっています。

 このコロナ禍においてライブの現場を作るためには、やらなくてはならないことがいつもの3倍も4倍あって、しかも1つ何かをやるために考えなければいけない、動かなければならないことも本当に多い。

 プレイヤーとしての仕事をしたいのに、「配信チケットがまだあまり売れていない」といった情報も入ってくる。『このまま売れなかったらどうしよう、支払いは……』と心が押し潰されそうになるのを振り切ってステージに立つ。

 ステージに立てばパッと気持ちは切り替わるんですけど、上がる瞬間まで余計なことに縛られていて、前に進もうとしても「後ろに引っ張る力」がすごく強いので、それらを振り切っていくのは相当キツいです。

 とりあえず本当の話、私は『エヴァ』(3月8日公開『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』)が終わって、現在制作中のアルバムが完成したら、『もういいんじゃないか』と思っています。

―― 『いいんじゃないか』とは……?

緒方 このままの状況が続いて、自分でステージを用意するために、本来の仕事である創作をするための心が削がれてしまって動けなくなるくらいなら、全部捨てて、1人で路上パフォーマンスをするとか、そういうことのほうがたぶん向いている。本当に辛いです。

―― ……。

緒方 でもいまは、現場の誰もが辛くて、スタッフも「何でも手伝うよ」と言ってくれるけど、彼らもキツいのは私もよくわかっている。だから本当に、自分がプレイヤーとしていられる瞬間が、唯一の癒しになっています。

 現在はそんな感じで動いていますが、ミュージシャンもスタッフも、ライブハウスも、コロナ禍による経済的、精神的なダメージが深刻で、この先、どうなってしまうのか……。

 2020年3月ぐらいからずっと『年内で終息しない限り、元の形には戻らないだろう』と思っていましたが、もう確実に戻らないでしょう。

 音楽でも声優でも、新人や若手の育成に困っているという現場の声を聞きます。スタジオが少人数でしか収録できないので、新人が先輩の表現を見たり、先輩からアドバイスをもらったりするような交流もないんですね。

―― ノウハウを伝える術(すべ)がなくなってきているんですね。……ライブエンタメの困難はおもに技術面や金銭面だと思っていたのですが、そういった外側の事柄もさることながら、ライブに携わっている皆さんの内面にダメージが蓄積されることこそが深刻な問題なのだと思い知りました。

緒方 とはいえ外側のことも考えないと。ライブ空間を作り上げるためには、運営というガワが必要です。私はだいぶ突破力があるほうだと思うんですけど、その私ですらこれだけ後ろに引っ張られて辛いので、『誰もがやるのは無理だよね、これは!』って思います。

 
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