最後のプログラマビリティー/スケーラビリティーであるが、ここまで説明してきたのはほぼ固定機能なので、あれこれ変更ができないし、その必要もない部分である。ベースが畳み込みニューラルネットワークなどであれば畳み込み演算の部分には別に柔軟性は必要ない。ただその先の処理は柔軟性が要求される可能性があり、これへの対処である。
この部分の中身は下の画像のように、制御用のCPU(これはCortex-MクラスのMCU)にVector Engineと呼ばれる独自エンジンを組み合わせたものである。
上の画像にもあるように、例えばプーリングのやり方を少し変えたり、アクティベーションの方法を変更するなどの場合に処理そのものはVector Engineが行なうが、そのVector Engineを制御する制御用CPUのプログラムを変更することで、異なる処理ができる仕組みになっている。スケーラビリティーの方は、Compute Engineそのものを複数(当初は最大16、Ethos-N78では最大32)利用可能という話である。
MPU向けからMCU向けにシフト
Ethos-Uシリーズで巻き返しを図る
さて、華々しく(?)登場したEthos-Nシリーズだが、採用はさっぱり進まなかった。理由の1つはEthos-N37/57/77の場合、構成が決め打ちで細かな変更が一切できなかったという問題がある。そこでEthos-N78では90以上のデザインオプションが提供されるようになったが、なにしろEthos-Nシリーズ以外にも世間には山ほどAI/MLプロセッサーのIPが存在しており、なかなか採用が進まない状況が現在も続いている。
それもあってだろうか? いきなりArmはEthos-Uシリーズを2020年2月に発表した。こちらはEthos-Nシリーズのさらに下で、最初に発表されたEthos-U55が64~512GOPS、続いて2020年11月に追加されたEthos-U65が512~1024GOPS(1TOPS)の性能レンジとなっている。
大きく違うのは組み合わされるCPUで、Ethos-Nシリーズがスマートフォンなどに利用されるCortex-Aが前提だったのに対し、Ethos-UシリーズはCortex-M33やCortex-M7などのMCU(マイコン)がターゲットである。
Armはこれを“Endpoint AI”と呼んでいるが、簡単な音声認識(安価な音声リモコン)や、自動販売機用の簡単な画像認識(QVGAくらいのカメラをつなぎ、人間が前に立った時だけ自動販売機の販売パネルの電源をOnにする)といった、Ethos-Nシリーズよりもさらに下の市場を狙いに行く戦略を取った。
この市場は若干競合製品はなくもないが、市場そのものが立ち上がったばかりであり、今なら主導権をとれると判断したのだろう。このEthos-U65については、NXP Semiconductorの次期製品に採用が決まるなど、出だしは順調である。
Armとしてはまずこの市場である程度シェアを獲得しつつ、将来的にはEthos-Nも売れるようになってほしいと考えているようだ。結果的に普通とは逆のアプローチになっているのがおもしろい製品である。
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