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パソコン上が仮想ラボとなる世界の実現目指す、エピストラの挑戦

ライフサイエンス実験をAIとロボットで自動化・効率化

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 エピストラ株式会社は、実験の自動化ソフトウェア・システムという新たなジャンルに取り組んでいる2018年に誕生したAIスタートアップだ。ライフサイエンスをはじめとする実験分野において、AIとロボットを活用することで、現在は人間が手作業で行っている研究を自律化することを目指している。

 iPS細胞を用いた再生医療やゲノム編集技術に代表されるライフサイエンスは、国内でも注目度の高い分野である。これらの実験が仮想化・ソフトウェア上で実現できることになれば、世の中には大きな恩恵があることは明らかだ。しかし、それは簡単に実現できるのだろうか――。エピストラの創業者の1人で、CEOである小澤陽介氏に、同社が進めるビジネスについて訊いた。

エピストラ CEO 小澤陽介氏

再現が困難な創薬研究などにおける複雑な実験

 小澤氏は慶應義塾大学でバイオインフォマティクスを学んで博士号を取得し、IBM Researchで研究員を務めた。その後、国内外複数の企業で経験を積み、2018年にエピストラを創業した。小澤氏は同社のビジネスを次のように説明する。

 「私がこれまでの経験で学んだことは、人類が持っている最大の武器の一つは知識であるということ。そして、それを体系的に蓄積する仕組こそがサイエンスであると。しかしライフサイエンスでは現在、『再現性の危機』と呼ばれる状況が生まれていて、Science誌のアンケートでは、80%以上の研究者が他人の実験の再現に失敗したことがあると答えている。かつてニュートンは『私がかなたを見渡せたのだとしたら、それはひとえに巨人の肩の上に乗っていたからです』と語ったが、巨人の肩に乗ることができるのは、再現性が仮定できるからであり、その仮定が崩れてしまうとサイエンスは成り立たない。その問題を解決するシステムを提供することが、我々が進めているビジネス」(小澤氏)

 ライフサイエンス分野での再現性の危機とはどういうことなのだろうか。

 「ある製薬会社で聞いた話だが、特定のプロトコル(研究・実験における一連の作業手順)は、社内のAさん1人しか安定的に再現できないというケースがある。他の人がやると、ばらつきが大きくなり、歩留まりが大きく下がってしまう。こうなると、そのプロトコルの成果を用いて、事業化するのは難しい。先行研究としてきちんと論文が出ているものだから、大まかな手順として正しいことは間違いない。しかし、実験における再現性が低いために事業化できない。そういったものを当社のソフトウェア技術によって、再現できるものにしていく」

 エピストラはすでに2社と契約を締結し、1社とは実証実験を行なっている。クライアント会社の研究開発の現場に深く入り込むことで、そこに存在する課題を定式化してエピストラのソフトウェアを用いて解決していくという。

 特定の人にしか再現できない技術のままでは、事業化が難しいと理解できる。しかし、ライフサイエンス分野の研究を行う企業や研究機関は、いずれも高い技術力を持っているはずだ。それでも自分たちでの再現が難しいとはどういうことなのか。

 「プロトコルには、どこがポイントになるのか、人には伝えられないという問題がある。さらに、高い再現率を持つスタッフ自身は、どこがポイントとなっているのか自覚していないこともある」

作業者が無意識に行なっていることこそが重要

 ポイントを伝える難しさを、小澤氏は自身が体験した料理で例えてくれた。小澤家でパスタを作る際、小澤氏が調理を担当するとうまく仕上がるのに、奥さんが調理をするとうまく仕上がらないことが続いた。

 「レシピ本を見ても、基本的な手順が書いてあるだけだった。その通りに作っているのに、私が作る場合と妻が作る場合では味に差がある。私が作ると食感がいいのに、妻が作ると食感が悪い。どこに問題があるのだろうと2人で色々と悩んだ。レシピには、『パスタを10分間ゆでる』とあるので、入れる塩の違いはどうか? 鍋の状態はどうか? といった違いを試してみた」(小澤氏)

 だが、結局うまくいかなかった。むしろ、いろいろなことを試すうちに、予想外のことが起こった。「できていたはずの私も、うまくパスタが調理できなくなってしまった」。それまで適当に調理していたことを明文化しようと張り切った結果、むしろうまくできなくなってしまったのだ。

 ところが、この課題はあっさりとしたものだった。プロのシェフに相談してみたところ、「茹で上がったパスタとソースを和える温度の問題ではないか?」とアドバイスを受ける。パスタとソースを和える温度が低いと食感が悪く仕上がってしまうのだそうだ。「言われてみると、そんなことだったのか! と思うが、本人がポイントと思っている部分ではないこと、気がついていないところがポイントとなると、当人達では修正できない」

 このパスタの逸話は示唆的だ。作業のポイントはいくつもあり、本人が自覚的に行なっていることであれば留意できるが、無意識に行っていることこそ最も重要なポイントだった場合、作業車はそれを指摘ができない。料理よりもはるかに作業手順が複雑なライフサイエンス分野の実験では、本人が留意していないポイントが無数にあるだろう。

 実際に細胞培養を行なう際、インキュベーターに培養した細胞を手早くしまう動作が必要であるものの、扉をそっと閉めた場合と、急ぐあまりバタンと強めに閉めるのでは結果に違いがあることもあったそうだ。しかも、実験をしている本人達はついつい近視眼でものごとを捉えがちになり、そのような細やかな違いにまで気が配れるとは限らない。ポイントを見極めるノウハウをもった第三者が、俯瞰した視点で行うべきレシピと再現のコツを提示してくれれば、それを利用したいと考えるのは無理もない。

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