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鳥居一豊の「コンパクトスピーカーが好き!!」 第8回

音楽に生命が宿ったかのような音、存在感のある音の厚み

Sonus faber「LUMINA I」で聴く、ベートーベン/交響曲第9番「合唱」

2021年01月24日 13時00分更新

文● 鳥居一豊 編集●ASCII

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存在感たっぷりの音像
情感にあふれた再現力に惚れ惚れとしてしまう

楽曲別のインプレッション:

第1楽章〜第3楽章
 ベートーベンの交響曲第9番は、なかなか面白い構成になっていて、クラシックを聴き慣れた人は第1楽章から通して聴く方が面白い。第4楽章の冒頭は後半で始まる合唱部分「おお友よ、このような旋律ではない!」の歌唱につながるイントロと同じ旋律だ。この歌詞を引用したのは意味があり、第4楽章では、それまでの楽章の旋律が提示され、その後で第4楽章の旋律に切り替わるという構成を繰り返す。第1〜第3楽章では人生の苦しみや葛藤などを描いているが、それを否定して大いなる歓喜へと至るのが第4楽章というわけだ。これが第1楽章から通して聴いた方が面白いという理由だ。

 第1楽章から第3楽章は少々ダイジェスト気味に紹介するが、第1楽章は宮廷音楽を聴いているような華やかな調べと、やや物悲しさを伝える旋律が印象的だ。指揮者のネルソンスは、知的で美しい演奏が特色だと個人的に感じているが、Lumina Iはその知的さや音色の美しさを表情豊かに描く。ホールの響きが美しく、広々とした空間の広がりを豊かに再現している。低音に注目すると、ティンパニの打音などはやや軽く感じるし、中盤の全奏部分でのスケール感はもう少し雄大差も欲しくなるが、量感が多めのわりに低音は弛まずによく弾むので、物足りなさはないし、決して迫力不足のこぢんまりとした鳴り方にはならない。

 筆者がリファレンスとしているB&W 607に切り替えて聴いてみると、低音の伸びはこちらの方が優秀で、スケールの雄大さはこちらの方が優れる。音色的にもフラットなトーンで、バランスよくまとまった音だと感じる。主題が展開していく様子や楽曲の構成を譜面を見ながら聴いていくならば、こちらの方が理解しやすい。優等生の演奏で演奏な知的なムードもよく出ている。ただし情感にはわりと差があり、ぐっと曲に入り込んでいきたくなるというよりも、少し距離を置いて冷静に聞いている感触だ。これは、スピーカーの後方に広々と音場が展開し、前後の奥行き感も豊かだが、音が前に出てくる感じは足りない鳴り方もあると思う。

 第2楽章はやや緊張感のあるスリリングな旋律ではじまる。この旋律も有名なので聴き覚えのあるメロディーだと感じる人は少なくないはず。Lumina Iの情感の豊かさはこうした緊張感のあるメロディー雰囲気がよく出ること。テンポ感の正確さとかダイナミックに音圧が上がっていくときの反応の良さが印象的だ。

 607も緊張感のあるメロディーはよく伝わるし、テンポの正確さはしっかりとしている。強いていえば音圧のダイナミックな変化がやや大人しいのかもしれない。強弱のニュアンスや高揚感に差がある。

 第3楽章はゆったりとした落ち着いたメロディーではじまるが、特に弦楽器の音色の艶やかさが印象的だ。中低音がかなり分厚いこともあり、高域もなかなかエネルギーの強い鳴り方をするので、コントラストの強い写真のようにくっきりと音像が立つ。音がダイレクトに伝わるような感触もこれが理由だろう。

 607はあくまでも冷静。Lumina Iも楽器の音色の鳴らし分けは豊かだが、607はそれ以上に分析的と言えるほどにきめ細かく再現する。ゆったりとしたメロディーも実にスムーズで心地良く、美しく撮影された静止画を見ているようなイメージだ。あくまでの印象の違いだが、動画的な動きを感じるLumina Iとは好対照だ。

第4楽章(4a、4b)
 第3楽章から一転して、劇的と言えるほどの力強く、重厚な旋律ではじまる第4楽章。Lumina Iは低音弦の重々しい音色も実に生々しく再現する。決して最低音域の伸びが優れるわけではないのだが、厚みのある中低音と量感の豊かな再現でコントラバスの胴鳴り感もしっかりと出る。強いていえば、オーケストラ全体の音圧感や迫力がややこぢんまりとするが、これも607との比較で感じる程度だ。

 B&W 607は、低音の伸びで優れるため、スケールの雄大さはしっかりと出る。各楽器の音色も均一で精密な再現だ。一番の差は、第1〜第3楽章の美しいメロディと第4楽章の重厚なメロディが交差する展開での情感の差。Lumina Iがメロディの情感を実に豊かに再現するのに比べると、あくまでも冷静に曲を構成し、展開していく雰囲気になる。

第4楽章(4c)
 再び第4楽章冒頭のフレーズが繰り返され、男声のソロで歌唱がはじまる。ここから合唱に展開していくときの高揚感を見事に表現したのがLumina I。声の張りも豊かだし強弱がしっかりとしているので、ドイツ語をよく知らない筆者でも言葉を聞き取れる気がするほど滑舌のよい表現になる。合唱部分でのたくさんの声が重なって厚みを出している感触もよく出る。声の厚みと存在感の豊かさは見事なもので、まさに歓喜に満ちた歌声を聴くことができる。

 B&W 607は重厚なフレーズの重量感や迫力をしっかりと出すが、Lumina Iを聴いた後では高揚感がやや足りないと感じてしまう。合唱隊の人数がわかる気がするような分解能の高さ、曲の構成が見えるような正確さは見事なものなのだが、その引き換えに喜びの感情などではLumina Iとの差を感じてしまう。

第4楽章(4d〜4h)
 曲は合唱が主体となって、「歓喜の歌」を歌い上げていく。合唱もフレーズによって音圧的な強弱がついているが、そのあたりを実にダイナミックに描いていく。男声の厚みのある声とエネルギー感、女声による高い声が高い天井の上の方まで響いていくような感じもあり、音による音場の広がり以上にその場の雰囲気が鮮やかに頭の中でイメージされる感覚がある。B&W607の方が混声のハーモニーの美しさはよく出るし、実際の音場の広がりや写実的な描写も見事だ。

 音楽として聴くならば607の方が適しているように感じる。細かな音まで鮮明に描写でき、曲の構成が理解しやすい。Lumina Iはエヴァのあの場面が甦るような鳴り方だ。劇伴(BGM)的な鳴り方というわけではない、感情を揺さぶるというか、印象的な記憶が蘇る音だ。このあたりは聴く人によって印象は異なると思うので、正確な表現とは言いがたい。実際に生の演奏で「第9」を聴いたとき、その体験が蘇るLumina I。指揮者や演奏家の違いがわかることも含めて、楽曲の素晴らしさやネルソンス/ウィーン・フィルならではの「第9」を存分に味わえるのが607というのが、より正確な言い方かもしれない。

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