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コラボレーションとイノベーションを加速させるコツとは? 「Slack Tour Japan Online」講演レポート

東映アニメとマクドナルド、Slackで国や組織を超えたコラボレーション

2020年12月21日 08時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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日本マクドナルド:モバイルアプリが4つもある状況を改善したい

 続いて、日本マクドナルド マーケティング部 デジタルマーケティング担当執行役員のラファエル・マズゥワイエ氏が、同社のスマートフォンアプリ開発の過程と、Slackによって同社の仕事がどのように変わり、プロジェクトの成功につながったのかを講演した。

 マクドナルドは、現在日本で約3000店舗を展開している。また、スマートフォンの公式アプリは6年以上前から運営しており、多くのユーザーがクーポンを受け取ったり、ハッピーセットのおもちゃの内容を確認したりしている。

 ニールセン社の調査によると、マクドナルドの公式アプリは「日本の実店舗アプリの中で最も利用されている」アプリで、ランキングでも、実店舗のアプリとして最高位の9位(8位以上はLINEやGmailなどデジタル専門のアプリが占める)となるほど広く使われている。

マクドナルドの公式アプリは多くの人に利用されている

 その一方で、新たなサービスも次々と登場している。マズゥワイエ氏が入社した2019年、同社はモバイルオーダーアプリ(注文アプリ)をリリースした。店舗に行く前に注文し、支払いも済ませ、カウンターでは商品を受けとるだけという便利なアプリだ。

 しかし、同社のアプリ運営には大きな問題があった。それは、公式アプリ、注文アプリを含めてアプリが複数存在し、バラバラに運営されていたことだ。たとえば、実店舗を利用した顧客の声を集める「KODO」というアプリがあるが、公式アプリとは別にダウンロードしなければ使えない。また、コロナ禍で利用者が急増した「マックデリバリー」も別のアプリだ。結果的に、公式アプリ、モバイルオーダー、デリバリー、顧客の声を書き込むアプリの合計4つが併存する事態となった。

 「開発リソースの無駄遣いをしており、アプリによってロゴも違い、利用者も混乱してしまう。早くこの状態を変えたいと思った」(マズゥワイエ氏)

4つのアプリに分散している機能/サービスを公式アプリ1つに統合したい

国境を超えたアプリの共同開発にSlackをフル活用

 同社では4つのアプリの機能を統合し、1つの公式アプリにまとめるべく開発に入った。2019年11月に最初の企画会議を実施し、半年後に機能統合したアプリを公開することを目標に据えた。

 そして開発は計画通りに進んだ。2020年3月23日に公式アプリのモバイルオーダーとクーポン機能を一本化、それ以降、実に11回のバージョンアップを繰り返して、他の機能の統合とインターフェースの改善を進めた。次回のバージョンアップでデリバリーも統合され、アプリ統合は完結する予定だ。

半年間という短い期間で各アプリの機能/サービスの統合を進めてきた

 マズゥワイエ氏は今回の開発プロジェクトを振り返り、こう話す。

 「マクドナルドのような多くのベンダー(協力会社)と協働する組織で、今回のようなプロジェクトの推進は容易ではない。開発の中心は東京のマクドナルドにあるが、ウェブデザインはスイスと東京のオフィスが参加し、スマホサイトやアプリの開発エンジニアは中国の杭州にいる。またCTOはオーストラリア在住で、オーダーのプラットフォームを提供しているのはニュージーランドの企業。これほど地域も言語も異なる人たちをまとめるのは、非常に難しいことだった」(マズゥワイエ氏)

 言語は基本的に日本語と英語を用いる。外部のベンダーだけでも他地域におよぶが、それに加えて社内でも多くの部署がかかわる。運用管理やカスタマーサービスなど、複数の部署間でコミュニケーションが必要になった。

 そこでマズゥワイエ氏は、すでに社内で利用されていたSlackをフル活用し、このプロジェクトを進めていった。実は、同社内で標準で使われていたのはマイクロソフトのコミュニケーションツールだった。だが本プロジェクトではSlackを全面的に採用し、チーム作りを進めた。

 マズゥワイエ氏は、Slackの特徴をこう説明する。「Slackは、口頭に近い気軽さ、スピードでありながら、同時に書面による正確性と説明責任も併せ持っているコミュニケーション手段だ」。

 もう一つ、極めて重要というのが、Slackではマズゥワイエ氏自身が“窓口”(コミュニケーションの仲介役)になる必要がないということだ。同様に、異なるチーム間の連絡に、マクドナルドの担当者が加わる必要もない。それぞれが独自の判断で仕事を進めることができる。

 「例えば、スイスのチームが作ったデザインをオーストラリアのエンジニアがアプリに実装する場合、東京のマクドナルドの誰かが窓口になる必要はなく、直接やりとりできる。われわれはそれをSlackで見ていて、必要に応じて間に入ればいい」

モバイルアプリ統合プロジェクトは、外部ベンダーも含め世界中のチームメンバーにより進められた

 さらにSlackコネクトによって、外部のベンダーが独自にプロジェクトに必要なメンバーをチャンネルに追加できるようになった。そのため、大幅な運用効率化が図られたという。

 またマズゥワイエ氏は、コミュニケーションの相手が多くなり、チーム編成が複雑になっても、Slackならどの組織、個人に送っているのかをアイコンで確認できるのが非常によいと話す。「これによって、恥ずかしい失敗をどれだけ回避できたかわからない(笑)」。

 Slackによって、スピード、透明性、会話履歴の保存手段を手に入れることができた。何が起こっているのかを正確に把握できる安心感も得られた。マズゥワイエ氏は、マクドナルドのアプリが予定通りにリリースできるのは、Slackのおかげだと思っている。

 「コミュニケーションツールはそれほど重要でないと思っている人もいるかもしれない。だが、1日中使っているツールなので、実は仕事の成果に直結する存在だ」と、マズゥワイエ氏は最後に強調した。

 Slackは「コミュニケーションの場所をメールという受信箱からチャンネルにシフトする」をコンセプトにしている。その枠を社外にも拡大するのが「Slackコネクト」だ。自社と、最大20の外部組織を安全につなぐことができる。すでに世界で4万以上の組織で活用されており、10万を超えるチャンネルが接続されている。今後は日本でもSlackコネクトによって企業の壁を越えたオープンコミュニケーションが加速されそうだ。

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