2021年度事業方針説明会を開催、「5G/IoT」「データマネジメント&AI」などの注力分野を説明
“as-a-Service”化進めるHPE、望月新社長が国内方針を語る
2020年12月17日 07時00分更新
日本ヒューレット・パッカード(HPE)は2020年12月15日、2021年度(会計年度、2020年11月~2021年10月期)の事業方針説明会を開催した。
今年9月から日本法人社長を務める望月弘一氏は、HPEが“HPE GreenLake”ブランドのもと、エッジ/クラウド/データ活用の全領域にわたるプラットフォームを「as-a-Serviceモデル」で展開する戦略の背景について説明。さらに、国内市場において注力する分野と対応ソリューション、さらにデジタルトランスフォーメーション(DX)支援のための組織改変などの取り組みを紹介した。また、HPEのパートナーである日商エレクトロニクスもゲスト出席し、GreenLakeサービスを導入した実際の顧客におけるコスト削減事例を紹介した。
顧客ITニーズの大きな変化に対応するための“Everything-as-a-Service”
現在のHPEは、グローバルで“as-a-Serviceカンパニー”への転身を図っている。昨年(2019年)6月開催のプライベートカンファレンスにおいて、CEOのアントニオ・ネリ氏は、「2022年までにすべてのポートフォリオをas-a-Serviceで提供可能にする」と約束した。その後、従量課金制でオンプレミス環境を利用できる「GreenLakeクラウドサービス」は、順次ポートフォリオを拡充しており、今年6月にはパブリック/プライベートクラウドを含むすべてのITリソースを一元的に可視化/管理可能にする「HPE GreenLake Central」を提供開始している。
その背景には、顧客ニーズの大きな変化がある。望月氏は、「エッジコンピューティング」「データ活用基盤」「ハイブリッド化が進むインフラの運用管理最適化」「コンサンプションモデルでの利用」という4つの新たな顧客ニーズを挙げ、これらを実現するために“Everything-as-a-Service”という戦略に至ったと説明する。
国内においてもas-a-Serviceモデルでの導入事例が徐々に登場しつつある。たとえばauカブコム証券では、ミッションクリティカルな証券取引業務を含むシステム基盤の見直しにおいて「HPE GreenLakeフレックスキャパシティ」を活用、サーバー/ストレージを従量課金型で利用可能にした。同様に地理空間情報サービスを提供するパスコでも、ITインフラの刷新において、GreenLakeを採用し従量課金ベースでの導入を図ったという。
説明会にゲスト登壇した日商エレクトロニクス 代表取締役社長 CEOの寺西清一氏は、同社ではHPE GreenLake専任チームを組成してHPEとの協業を強化していると説明。この2年間で製造業を中心に5社から受注したことを紹介した。なお同社では、GreenLakeのサービスに自社独自のマネージドサービス「NCPF(Nissho Cross Platform)」を組み合わせて提供している。
実際の顧客事例とコスト削減効果も紹介した。この企業では、IT運用や投資においてパブリッククラウドのようなメリットを求めつつ、同時に自社運用ポリシーの適用やセキュリティ担保といったクラウド移行の課題もふまえ、GreenLakeを採用。オンプレミス環境のクラウド型利用を可能にし、NCPFも組み合わせてフルアウトソース化した結果、30%以上(10億円以上)のコスト削減を実現したという。
「GreenLakeは立ち上げから丸3年になるが、日増しに進歩を遂げてきている。ソリューションメニューの粒度もS/M/Lと(いわゆる“Tシャツモデル”で)準備したり、あるいはSAP HANAやVDIといったソリューションドリブンでのメニュー化もできている。この進化は継続して加速させていく」(望月氏)
「5G/IoT」「データマネジメント&AI」など4分野への注力姿勢
国内のIT市場に目を転じると、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う影響が非常に大きかったものの、他方では「ITの重要性」を再認識する機会にもなり、2021年以降はIT投資が回復していく。デジタル化、さらにはDXに対する取り組みもすべての業種で始まり、その中では投資対象エリアが、オンプレミスの従来型ITからプライベート/パブリッククラウドやエッジへと急速に移行すると予測されている。
HPEでは、顧客企業やパートナー企業の声、各種市場調査データから、今後の国内市場で企業が興味関心を持ち、IT投資を強めていく分野を大きく4つ導き出した。「5G/IoT」「デジタルワークプレイス」「データマネジメント&AI」「ハイブリッドクラウド」の4つだ。2021年度の国内事業方針はこれをベースに戦略を構築し、パートナー各社とも協調しながら各分野に対応するソリューションを展開していくと、望月氏は説明する。
まず「5G/IoT」分野では、通信事業者/サービス事業者向けのソリューション、エッジ無線通信とエッジコンピューティング専用基盤、HPEの5Gコアソリューション、さらにパートナー協業による製造業などの業種特化ソリューションを展開していく。
たとえば昨年には5Gエッジ向け高性能サーバー「Edgeline EL8000」をリリースしており、海外ではMEC(Mobile Edge Computing)環境で多数採用されているほか、日本でもローカル5Gにおける採用事例があるという。またIT/OTネットワークに接続されるデバイスを自動検出し、セキュリティの観点から認証/可視化を実現する「Aruba ClearPass」も提供している。こうしたインフラを顧客に提供すると同時に、これらを組み合わせたパートナーソリューションも共同展開していく。
続く「デジタルワークプレイス」分野では、テレワーク/在宅勤務ニーズの増加に合わせて「ID管理も含めたエンドトゥエンドのセキュリティ、運用管理が求められている」(望月氏)。従来から提供するVDIシステムだけでなく、HPE Arubaが買収したSD-WANソリューション「Aruba Unified Infrastructure」の展開に注力していくとした。さらに、自社におけるデジタルワークプレイスの実践ノウハウに基づくコンサルティング、導入支援も展開する。
「データマネジメント&AI」分野では、多くの企業で全社的な統合データ基盤、組織横断的に活用できるAI/分析プラットフォームの構築がテーマとなっている。この分野では2018年以降、BlueData SoftwareやMapR Technologiesを買収し、それらのテクノロジーを中核としたAI/分析ソフトウェアプラットフォーム「HPE Ezmeral(エズメラル)」を発表している。さらにHPC向けハードウェアとして2019年にはCrayも買収した。
またHPEのソリューションとしては、マルチクラウドで利用可能なクラウドストレージサービス「HPE Cloud Volumes」や、データストアの最適化サービス「HPE Right Mix Data Store」を展開していく。
「ハイブリッドクラウド」分野では、HPE GreenLakeクラウドサービスのほか、自律的なインフラ監視サービスである「HPE InfoSight」などをラインアップしており、既存のオンプレミスインフラの“クラウド型運用”に変革することで、ハイブリッドIT化を促進する。
望月氏は、DX推進を支援するための多様なソリューション提案にあたっては、これまでのプロダクト視点に経った「プラットフォーム提供者」から、ビジネス変革視点での「DX推進の支援者」という立ち位置への転換も図る必要があると語る。HPEでは営業組織体制の変更を行っており、産業別営業体制を3業種から5業種に細分化したうえで、別途、業界横断型のDX支援を行う「DXプラットフォーム推進チーム」も新設している。
さらに、各業界への展開においては3000社超のパートナーとのアライアンスも重要になる。望月氏は、サーバー製品中心だった従来のパートナーシップから、データ基盤やエッジ、HPCなどのソリューション中心、さらにGreenLakeやアドバイザリーサービスなどビジネス中心のパートナーシップへと、パートナーシップのあり方も変えていく方針だと語った。
加えてテクノロジーサービスである「Pointnext」が、調査や計画立案から構築、運用段階に至るまで、エンドトゥエンドで一貫したITプロフェッショナルサービスを提供できると紹介した。これもまた、GreenLakeのコンサンプションモデルで利用できる。
まとめとして望月氏は、今年とのHPE日本法人の事業方針/戦略として「DXプラットフォームの提供により、お客様のビジネス変革の加速に貢献する」という言葉を掲げた。
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社長就任から3カ月、望月氏はHPEに感じる可能性について「ハードウェア、ソフトウェアを含むソリューションメニューの幅広さ、さらにアドバイザリーから実装までサービスの幅広さ」を持つこと、とくに自社製品にこだわらずベストオブブリードのソリューション提供ができる点を評価していると述べた。
その一方で課題としては、「それぞれに歴史を持つ部門から構成される組織のため、顧客に最適なトータルソリューションを提案するためにも、部門を超えたコラボレーションについてはさらに改善できる余地がある」としている。
「この3カ月ですでに着手しているが、グローバルのHPEとしてのビジョンの中で日本法人は何にクライテリアを置くのか、各部門に何を期待するのか、最終的に社内の一個人にどう活動することが期待されているのか、そうした『戦略の共有』を具体的に進めている。現場メンバーも一緒になって戦略を作り、共有した段階で、これから実行に移していく。これまでも部門を超えたコラボレーションは行っているが、共通のゴールを持つことで、それはさらに加速されていくと考えている」(望月氏)