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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第593回

車載向け市場にフォーカスしたGSP AIプロセッサーの昨今

2020年12月13日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 今回解説するBlaizeのGSPは、最近デンソーとの絡みで報道されることが多い。というのはデンソーが同社に少なからずの出資をしており、それもあって取締役会に人を出しているからということもある。

 それに加えてデンソー子会社のNSI-TEXE(海外の会社に見えるが、品川に本社を置く日本の会社である)と技術協力しており、NSI-TEXEのDFP(Data Flow Processor)のコア技術はBlaize(というかThinCI)から供与を受けている部分が少なからずあること、あるいはそのNSI-TEXEがBlaize製品の日本で拡販を担当するといった形で意外に日本との関係が深いことが理由の1つ(それだけではないが)であろう。

 そのBlaizeという会社、創業時はThinCI(シンクアイと発音する)という社名である。創業は2012年であるが、当初はStealthモード(外部に細かい情報を一切出さない状態)での運営となった。創業者はDinakar Munagala氏(CEO)とSatyaki Koneru氏(CTO)、Ke Yin氏(Chief Scientist and VP of Engineering)、それとVal G.Cock氏(Chief Software Architect)の4人である。

ThinCIの創業者。左からMunagala氏、Cock氏、Koneru氏、Yin氏

 実はこの4人、前職が全員インテルの、それもチップセット関連である。もっと言えばチップセットの中でも特にGPU関係である。全員がGPUのアーキテクチャーやデザインの設計に携わってきたチームであり、時期的にはSandy Bridge世代あたりまでを担当。Ivy Bridge向けが一段落したあたりで離職してThinCIを創業した感じだ。

グラフ理論とは?

 さてそのThinCIが開発していたのがGSP(Graph Streaming Processor)である。Stealthモードと言いつつThinCIは2017年のHotChipsで、同社のGSPについて説明したので、まずこの内容をご紹介したい。

 グラフ理論は今まで連載の中でまともに説明してこなかったので、まずはこの話を。「巡回セールスマン問題」という言葉を聞いたことはおありだろうか? 過去記事を漁ってみると、例えばこれや、古い所ではこれなども引っかかる。

 あるセールスマンが複数の都市をそれぞれ一度ずつ訪問し、最後に元の都市に戻るとしたとき最適な、つまり一番移動コストが少ないルートはどれか? という古典的な問題だ。これ、都市の数が少なければ簡単である。例えば3つで都市Aから出発するとすれば、A→B→C→Aか、A→C→B→Aしかない。

都市の数が3つの例

 4つになるとやや複雑だが、Aから出発するとすれば以下の6通りだからまだ総当たりでなんとかなる。

A→B→C→D→A
A→B→D→C→A
A→C→B→D→A
A→C→D→B→A
A→D→B→C→A
A→D→C→B→A

都市の数が4つの例

 ところが都市の数が増えていくと急速に計算量が増えていくことになる。計算機理論ではこの巡回セールスマン問題は「NP困難」に分類されている。NP(Non-deterministic Polynomial time)というのは多項式時間(ある多項式を解くために必要な時間)で計算できる(*1)という意味である。

(*1) 厳密には他にNPには要件があるが、計算機学科の授業ではないので割愛する。

 ちなみにこの多項式時間、しばしばO(xxx)という表現で示される。Oというのはオーダーの意味で、例えばO(n)だったら、「要素がn個だと、計算時間がnにほぼ比例する」の意味である。世の中にはO(n2)やO(n3)、あるいはO(2n)という問題が山ほどあり、それもあって少ない問題だとすぐ計算できるが、ある程度以上nの数が増えるとお手上げ、ということが少なくない。

 さて巡回セールスマン問題の場合、バカ正直に計算すると計算量がO(n!)となる。n!はnの階乗であり以下のようになる。

巡回セールスマン問題の解答
n n!
1 1
2 2
3 6
4 24
5 120
6 720
7 5040
8 40320
9 362880
10 3628800

 ラフに言って、nが6を超えると一桁づつ計算量が増えていく格好だ。nの数が少ないときは多項式で近似できるが、ある程度増えると多項式で近似しきれない。このためNPが「困難」というわけだ。こうした計算量の爆発する処理を、いかにして現実のプロセッサーで取り扱うかというところでいろいろ工夫や細工が行なわれているわけで、量子コンピューターがこうした問題に最適というのもゆえなき話ではない。

 巡回セールスマン問題は極端な例であるが、このようにノード(節:図で言えばA~D)と、エッジ(A~Dをつなぐ直線)で構成されるものを数学では「グラフ」として扱っている。ニューラルネットワークもその意味ではやはりグラフである。

 そもそも人間の脳がシナプスとニューロンで構成されており、シナプスがノード、ニューロンをエッジととらえればグラフの構造になっているわけだ。したがってグラフを上手くあつかえると、ニューラルネットワークの処理に役に立つことになる。

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