筋肉の動きを映像で把握できるAIフィットネスベンチャーなど5社登壇
TIS主催「第12回スタートアップソリューション紹介オンラインイベント」レポート
2020年10月14日に、TISインキュベーションセンター主催の「第12回スタートアップソリューション紹介イベント」が、オンラインイベントで開催された。前回7月に行なわれた初のオンライン開催に続いて2回目となったが、今回もスタートアップ5社のサービス、ソリューションのピッチが行なわれた。その模様をお届けする。
筋肉の動きを映像から把握して指導できるAIフィットネスプラットフォーム
●NeuralX,Inc
●https://www.neuralx.ai/
NeuralX,Incは、米国ロサンゼルスにあるUCLAのコンピューターグラフィックス&ビジョン研究所のデミトリ研究室を卒業したエンジニアリングチームが設立。登壇した仲田真輝博士も10年ほど研究員として在籍していたという。デミトリ研究室は、デミトリ・テゾポラス教授がディレクターを務め、この分野では世界的権威の人物。これまで400以上の論文を執筆し、2006年にはアカデミー賞のテクニカル部門を受賞している。オフィスは、このUCLAの隣に構えており、デミトリ研究室と技術顧問や共同研究を行なっている。
この会社で持っている技術として、人体構造を823の筋肉の動きをシミュレートできるため、キャラクターが自発的に動作するアニメーションの作成が可能。世界随一の技術で特許も申請済みだ。
今回こうした技術をベースに、フィットネス×AIで、これまでになかった高いインタラクションのあるフィードバックが得られるフィットネスプラットフォーム“Presence.fit”を開発した。
「コロナ禍において、ジムでの筋トレはリスクが高いため、カルフォルニアではいまだに禁止の状態です。そこで家でもエクササイズの需要が増えましたが、モチベーションがわきません。そこに足りないものは、進捗のトラッキングやコーチからのフィードバック、コミュニティー感、一人だとやる気が続かないことなどです。それらの問題解決を目指してプロダクトを開発しました」と仲田氏は開発の経緯を語った。
やる気を出させるための仕組みとして2つあり、1つがトレーナーによるフィードバックを、リアルタイム2-way動画チャットを利用して実現。もう1つが、フォームスコアやカロリー計算などの機能的な部分を、AIプロセスを使って自動で分析している。
「グループクラスになったときに、人間が見られる限界は5、6人。それを超えてしまうと、サービスの希薄化が起こってしまいます。それを避けるために、誰がどのタイミングでどれだけできているかを可視化し、トレーナーがどのタイミングで声をかければいいのか、AIを利用してトレーナーの画面上に表示させるのが特徴です」と仲田氏は語った。
ユーザーの映像からリアルタイムで3Dの動きを推測し、最終的に筋肉シミュレーションへ落とすことで、カロリー計算やレップカウントなどを検出。別途Apple Watchなどの心拍数が測れる機器を組み合わせることもでき、トレーナーが色でパフォーマンスを判断できるようになっている。たとえば、緑だったら「できている」、黄色だったら「中間ぐらい」、赤だったら「フォームが悪い」とか「できていない」などを意味することで一目瞭然に判断できるわけだ。
仲田氏は「Zoomやスカイプなどを利用してトレーナーが指導するケースもありますが、それによる限界を弊社の技術を使うことで突破できるはず。価格を抑えてパーソナルトレーナーと同じレベルでの指導を可能にします」とこのサービスの意義を語った。
現在は、米国で6月にローンチしていて、月額8.33ドルのサブスクで運用。トレーニングの内容としては、HI1T(High-Intensity Interval Training)という45秒エクササイズをして、15秒休むという繰り返しトレーニングすることで、心拍数をあげ脂肪を燃焼しやすくするエクササイズのほか、ピラティス、ヨガなども追加。ユーザーにとっては、作り込みすぎず、スケジュールに合わせて好きなものを受講していくようになっている。
今後は、24時間365日利用できるようにすることを目指しており、米国で軌道に乗れば、日本への進出も検討している。
新規顧客獲得を容易にするブロックチェーン技術を用いたデジタルIDシステム
●Credify Pte. Ltd.
●https://credify.one/
Credify Pte. Ltd.は、2019年に起業したスタートアップ企業で、共同創業者兼CEOの富永誠氏は昨年日本人に帰化した米国人。これまで、iPhoneで使われているTouchIDの指紋センサーに関する技術の開発やタッチスクリーン技術の開発に携わってきた。
今回登壇した共同創業者兼エンジニアリングディレクターの永尾修一氏は、東京大学で機械学習等を学び、その後スタートアップでエンジニアとしてFinTechの領域やブロックチェーン技術などに関わり、現在の会社を起業している。
そんな2人が目指しているのが、デジタルIDを基盤基板としたデータを用いたユーザー送客、創客のプラットフォームだ。「金融サービスにおける新規顧客獲得に多大なコストが掛かっていることを多くの金融機関と話している中で実感しました。例えば、FBやグーグルなどの広告を通じて、20%のディスカウントやプロモーションを提供して潜在ユーザーへアプローチ。ユーザーは興味があれば、本人確認を行なって会員簡易登録をします。ただ、このフローの中で広告を打ったり、本人確認を行なったりなどやるべきことが多く、1人あたりの獲得コストはグローバルで見ると300ドル以上にもなってしまいます。それを我々は解決したいと考えました」と今回のプラットフォームを創る意義を語った。
こうした課題を解決するためにまずidXというデジタルIDのメカニズムを開発。特徴は大きく分けて以下の5つが挙げられる、
1. ユニバーサルであること。FacebookログインのIDと同様に様々なサービスからどこからでも利用できるよう、OpenID ConnectオープンIDコネクトをに準拠実装。ユーザーはこのデジタルIDを使って、ほかのサーバーの様々さまざまなサービスにログインできる可能。
2. 自己主権型IDであること。自分自身のデータを自分でコントロールできる仕組みになっている。このため、運営側からはデータ内容を確認できず、本人のデバイスからのみ確認できる仕組み。
3. ユニーク性を担保。本人確認を利用することで、1つのデジタルIDに対して、一人の人間が対応する仕組み。
4. 拡張性の高さ。金融機関やデータを保有するサービスが持っているデータをユーザーに還元することで、ユーザーはそのデータを自分のものとしてほかのサービスに利用できる。
5. ブロックチェーン技術を採用し、セキュアしキュア性を担保。
このidXを活用したソリューションが「service X」だ。ユーザー送創客のフローは、以下の画面のような流れになる。
新規顧客を獲得開拓したい企業は、sService X内の利用可能なデータ構造から、たとえば銀行が持っている残高情報で、1000万円以上の人にのみにクレジットカードのプラチナカードプランを割引で提供したいといった具合に、データを使って場合、ターゲットユーザーの絞り込みが可能。データ提供側はターゲットユーザーにのみ新規顧客のほしい企業のオファーを表示することで、ユーザーがそのオファーを利用したいと思ったら、データ提供を許可することで、ユーザーはオファーを利用でき、新規顧客を求めていた企業はそのユーザーの情報を入手。データ提供側は報酬が受け取れるという仕組みだ。
今後の展開について永尾氏は、「デジタルIDという点で見ると、多くの事業者がいますが、どこも同じような問題にぶち当たっており、どこもまだ抜きん出ていないうまくいっていないのが現状です。ただCredifyは、あえてB to C向けに一般的なアプリを出してユーザーに使ってもらうといったアプローチではなく、あえてB to B向けに提供しています。当初は大企業のグループ基盤として利用していただき、そこから裾野を広げていきたいと考えています」と語った。
医療用として血糖値が測れる腕時計型デバイスを開発
●株式会社クォンタムオペレーション
●https://quantum-op.co.jp/
株式会社クォンタムオペレーションは2017年10月に設立。月島に本社、深センに事務所を構え、主に医療系のIoTセンサーを開発しており、大正製薬やアルフレッサ、富田薬品といった医療系企業が株主に入っている企業だ。
企業の目標として代表取締役CEOの加藤和磨氏は「最近発売されたApple Watchに血中酸素飽和度計を内蔵しましたが、患者の負担を軽減する、重症化の予防をするためのIoT機器を医療のアプローチとしてより精度の高いものを作っていこうとしています」。
現在開発を進めているのが血糖値だ。「糖尿病の患者は、1日4回も針を刺して血糖値を測り、インスリンを打っている状態だ。1型糖尿病という先天性のものもあり、難病に困っている子供たちが1日でも早くその痛みを軽減できるようIoTセンサーを活用して、針を刺さずに血糖値を測れるようにしたいと考えている」と開発理由を説明した。
現状ではまだ完成していないものの、基板はできており、光センサーで測ることで、血糖値が測れるところまでは進んでいる。実際に針を刺して計測したときの値との差異をなくす努力をしている段階だ。社内の臨床では、ほぼ同じ値を示しているが、アップダウンについていけていないところがあり、2021年1月以降に病院での臨床をかけていく予定だという。医療機器の場合、規準器にくらべて15%以内に収めなければならないので、その前提条件と照らし合わせながら進めていくとした。
「技術の根幹は、LEDで特殊な波長が使える設計と、感度の非常に低いものを拾うための受光センサーのノウハウ、ノイズの除去を駆使してこの技術を作り上げています。現状は血糖だけですが、今後は血液中のあらゆる成分を拾っていこうと考えています」と加藤氏は語った。
もう1つ、放射性肺臓炎や睡眠時無呼吸症候群という患者さんの負担を減らすべく、枕の下に敷くセンサーを一般医療器として取得済み。また、SPO2呼吸を測るセンサーも腕時計型で各社出し始めたが、あくまでヘルスケア品のため、医療機器として基準をクリアしたものを作ろうとしている。2021年年始に第三者認証機関より認証を受ける予定だ。
この医療機器SPO2センサーを内蔵した腕時計タイプの製品を2021年1月にはリリースし、実際に診断も可能となるとしている。現在は製薬メーカーと一緒に臨床研究を行なっている。
ビジネスモデルとしては、まずセンサーを販売していき、そのセンサーから上がってくデータを溜めるPHR(パーソナルヘルスレコード)のプラットフォームを構築。SIerが扱っている電子カルテのデータや地方のデータを組み合わせて活用していき、患者や製薬企業の役に立ちたいとした。
加藤氏は「よくアップルとフィットビットと比較されますが、ヘルスケアのみで医療の分野になかなか踏み込めていません。踏み込んでも家庭用まで。本格的な医療機器を扱っている弊社とでは、医療のデータの質がまったく違います。データの質が違えば、介護の見守りに対しても優位であり差別化できます。データビジネスも同様です」と語った。
事業計画としては、今期はSPO2のリリースを行なう予定で、これまで研究開発が中心で赤字だったが、製品リリース後は黒字を見込んでいる。その後は、血圧・血糖のヘルスケアのマルチセンサーを出荷し、その後医療機器を販売していく予定。「飛躍的な売上計画がある」と加藤氏は自身を見せた。
空いた時間に働きたい人と人手がほしい店舗・企業をマッチング
●株式会社タイミー
●https://timee.co.jp/
橋本環奈さんを起用してテレビCMを打っている株式会社タイミーは、2017年8月に設立。代表の小川嶺氏は立教大学在学中で、従来の求人サービスや派遣と違い、働きたい時間と働いて欲しい時間とをマッチングするスキマバイトアプリ「Timee」を開発した。
すでにコールセンターや会計事務所、物流、スーパー小売店など1万社以上の企業で活用していて、ワーカー数は150万人を突破。ワーカーの属性としては、学生が3割、社会人の需要も増えてきていて、パートや正社員、派遣社員がバランス良く活用しているという。
Timeeの特徴は3つあり、まず安心できるマッチングシステムが挙げられる。応募に必要なスキルや条件を任意に設定でき、応募があったワーカーに対して、過去のレビューが確認できる。ペナルティー制度を敷いており、無断で欠勤した場合はアプリの利用停止処分をしており、無断欠勤率は1%未満に抑えられているとした。
2つ目は利用するほど利便性が高まる点。お気に入りリスト機能が用意されており、ワーカーに次回も来てもらいたい場合は、企業側が独自のリストを作成可能。次回以降の募集は、そのリストの中から限定して募集できる。そのため教育コストのかからない、独自の即戦力ワーカーをチョイス可能だ。
3つ目として労務機能サポートの充実。管理画面上で、タイミーが募集要項を作成するため、1分ほどで募集を出すことが可能。実際にアルバイトを雇用すると、さまざまな労務タスクが発生するが、すべてをタイミーが肩代わりするため、面倒な手続きが不要だ。給与の支払いもタイミー側が先払いし、翌月企業側に給与分と手数料を請求。募集から業務終了まで、企業側がすることは、QRコードを利用したチェックイン・チェックアウトのみ。勤怠管理の役割も兼ねており、規定の業務時間どおり行なわれれば、その瞬間にワーカー側に給与を支払う。
登壇した川島諒一氏は「料金体系は完全成果報酬型をとっており、ワーカーの交通費に人件費の30%のみを手数料として受け取る仕組みになっています。最近ですと、コロナ禍で社員の方は一定数配置した上で、業務の波動に合わせてTimeeを活用するケースが増えてきております」と語った。
現在ワーカー向けの与信サービスを構想中。ワーカーが利用して実績を積んでいけばお店からの評価や勤務履歴のデータが溜まっていくので、それに基づいてワーカーがお金を借りられたり、チャージができたりする機能の開発を進めていくとした。
「ほかにも、我々の機能をさまざまなプラットフォームで利用してもらうような提携先が増えています。人が足りなくなったときに人をすぐに呼べる機能のAPIを解放しておりますが、さまざまなサービスに実装してもらえる企業を探しています」と川島氏は語った。
オンラインブランドを手軽に卸したり仕入れたりするサービス
●株式会社スペースエンジン
●https://spaceengine.io
D to C(Direct to Consumer)に特化した卸販売のサービス「orosy」は、B to Bアマゾンのような運営を目指している。株式会社スペースエンジンは2018年に設立したが、サービスがスタートしたのは2ヵ月前の2020年9月7日。まだスタートしたばかりだ。
近年オンラインブランドのサプライヤーが増えてきており、ShopyやBASEなどの手軽に販売できるプラットフォームにより規模が拡大しつつある。こうしたサプライヤーをターゲットにし、商材を卸販売する際のサービスとしてorosyを検討しているという。
利用方法としては、バイヤーがorosyにアクセスすると、さまざまなブランドの商材が見られる。興味のある商品に対して、販売条件や保険の加入状況、販促物などを確認。ほかにどんなブランド展開があるかも一目瞭然でわかる。
最初はバイヤーさんに卸値は確認できない。取引希望の申請をし、ブランド側はバイヤーの販売力、ブランド力を確認して、卸値を公開するか判断可能。不特定多数に購入される心配はない。
バイヤー側は、買い取りや委託などの条件を提示されているので、サプライヤーと無駄な交渉をする必要がなく、それに従って商品を仕入れられる。買い取りと委託の違いは、前者はバイヤーが商材を卸値で買い取った場合、店頭の販売価格はバイヤー側で決められる。売れ残ったので安売りセールをするといったことが可能だ。後者の場合は、商品の保有リスクをサプライヤー側がもっているので、店頭の販売価格が1円単位でサプライヤーが決められる。サプライヤー側もバイヤー側はリスクを考えながら選択できるわけだ。
D to Cはなぜ直接販売しないのか。CEOの野口寛士氏は「まず1社1社交渉すると非常にめんどうです。お互いに口座を開かなければならないですし、在庫管理もしなければならないので、小口の商材に対してすべて管理するのは大変です。バイヤーからにしても多くの商材をクイックに仕入れられ、orosyに対してのみ口座を開くだけ利用できます。また、サプライヤー側はそれぞれにブランドページを生成するので、そのURLを自社のホームページに貼ることで、消費者向けのecサイトだけでなく、バイヤー向けの卸販売サイトも同時に立ち上げられます。そもそもこうしたオンラインブランドをまとめて仕入れられるのかわからない問い合わせないとわからないので、バイヤーに仕入れ可能ということを知ってもらう機会にもなります」とorosyを挟むメリットを語った。
orosyは掛け金100%を保証している点も強みだ。サプライヤーが商品を卸す際、先に商品を卸して、入金は翌月や翌々月になるため、その店舗が倒産や遅延しないかといった与信判断をしなければならない。最大300万円まで保証しているため、万が一店舗側に何かあっても、支払えられないという心配はない。
現在はBASEと提携しており、サプライヤーの獲得に寄与している。まだ始まったばかりのサービスだが、野口氏は「アパレル各社様からの問い合わせが増加、各社と口座の開設の準備を行なっています。コロナ禍でecサイトに力を入れていて、アパレル以外の商材を求める傾向にあります。また、インテリアは店舗販売が好調で、家具の周辺で売れる商材を求めています。既存の問屋ではインテリアしか扱っていないため、問い合わせが増えています。サプライヤーの申し込み自体は6000社ほどありますが、審査制のため現在は120社程度。バイヤー側は、大手の小売店を中心に30社ほど登録していただいています。街の個人店舗でも利用してもらいたいので、マーケティングを開始したいと考えています」と現状と今後の展望を語った。