業務を変えるkintoneユーザー事例 第91回
神戸市役所の公務員がkintoneとプラグイン、仲間を得て業務改善した話
行政職員だからこそ自分の武器は自らアップデートせよ
2020年10月05日 09時00分更新
5月20日、「kintone hive osaka vol.8」が開催された。kintone hiveはkintoneのユーザーによる事例紹介や活用事例を発表するイベントで、新型コロナウィルスの影響により、オンラインでの開催となった。今回は自治体が初登場。神戸市役所の藤原慎之輔氏による「公務員だって自力で改革したい! ~そんな武器で戦えますか?~」というプレゼンの様子をレポートする。
毎月の運転日報は段ボール2箱分、5000枚以上の紙で記録
藤原氏は平成28年度に神戸市役所に入庁し、現在で5年目だ。一般行政職として建設局西武建設事務所に所属している。ちなみにkintone hive osakaの翌日から別の部署に異動することになっており、この部署での最後の仕事がhiveへの登壇になったという。
実は、神戸市とサイボウズは、2019年4月に事業提携協定を締結している。全庁的な業務改善、職員のモチベーション向上をめざし、神戸市とサイボウズ共催のワークショップを開設したりして、クラウドサービスを活用し、スピード感を持って業務改善を進めているのだ。
建設局西武建設事務所では、道路の改修や補修、公園の整備、河川の管理など、インフラの維持管理を行っている。業務で利用する公用車を30台持っていて、市内の6事務所で共有していた。従来は、紙でその公用車の管理を行なっていたのだ。
毎月の運転日報は毎年段ボール2箱分、5000枚以上の紙を使って記録していた。その箱を見た藤原氏は、「単純に紙を使いすぎだろう」と感じたそう。さらには、車検証や自賠責保険のような証書をコピーしてファイリングしていた。
「実は、エクセルにしたこともあります。公用車の番号とか点検日などを表にしていたのですが、1台でも状況が更新されると、印刷し直して張り直さなければいけません。そして、みんなで紙を見て確認するという、近代化風味にしただけという運用でした」(藤原氏)
紙とエクセルで一元化されていないので、どちらを見ていいのか分からないという課題もあった。
車検を忘れて道路を走行してしまうと、道路運送車両法違反となり、行政処分として6点の加算と30日間の免許停止処分、刑事処分もある。
「(車検忘れが)発覚すればニュースにもなるし、自分も上司も処分され、昇進は遠のき、給料は減らされ、と洒落にならない罰則があります。ですので、どうしても車検切れだけは防がないといけませんでした」(藤原氏)
アプリ構築では「ユーザーファースト」を重視
あるとき、市役所の情報システム部が主催でkintoneの勉強会を開催された。藤原氏はそのメールを見て、kintoneは知らないが面白そうだと感じて参加することにした。勉強会を受けたことで、漠然と何か使えるのではとひらめいたそう。その後、情報システム部から使えそうなアイディアがあるならアカウントを付与するという通知があり、1回使ってみようと手を上げた。
まずは、公用車の管理台帳を作ってみることにした。台帳のエクセルの機能をそのまま移し、車検証や自賠責をPDF化してアップロードすれば一元管理できると考えたのだ。
「kintoneってこれだけじゃ終わらないよね、ということで機能を追加していきました。車検を忘れると、とても重い処分があるので、リマインダー条件通知を付け、車検や定期点検の30日前になったら、上司や担当者にメールで通知を送るようにしました」(藤原氏)
運転日報はkintoneの標準機能では実現できないと判断した藤原氏はプラグインの導入を検討する。運転日報をkintoneアプリ化できれば、毎年5000枚の紙を節約できるだけでなく、毎月末日にファイルを入れ替えたり、回収した日報をまとめて決済したり、日報の内容をエクセルに手打ちして集計したりする手間も発生していた。
利用したプラグインはトヨクモの「フォームブリッジ」「プリントクリエイター」「kViewer」の3つ。職員は「Form Bridge」から運転日報を入力し、kintoneに登録する。続けて「kViewer」の「kViewerルックアップ」機能で、直近の走行距離を自動入力する。入力したデータは「プリントクリエイター」でPDFとして帳票化することで、電子決済ができるようになった。
「運転日報アプリでは、走行距離や走行時間、運転者、ガソリンを何リットル入れたかが必要になります。まずそれをkintoneアプリで作り、その内容を元に「Form Bridge」でフォームを作りました」(藤原氏)
極力、ユーザーが入力する手間を省くように連携させているという。たとえば、日報は帰ってきてから、エンジンを切る前にオドメーターを見て入力するが、走行距離を算出するためには、走行前の距離が必要になる。それを「kViewerルックアップ」機能で前回の走行後の距離を引っ張ってきて、走行前のレコードに入れているのだ。
さらに、メーターの読み違えなどで、入力する走行距離がずれた場合も、走行距離が0以下だったり100km以上の場合に通知を出すようにして、異常値検知も行っている。
「アプリを構築する際に一番気をつけたのはユーザーファーストです。あくまで使用する人のことを第一に考えました。データを入力する人だけでなく、管理者も管理しやすいように目指しました」(藤原氏)
こん棒の初期状態からフル装備となり、仲間を得るまで
藤原氏は、kintoneとその運用を武器と防具に例えて、進化を表現した。紙媒体と気休めのエクセルで運用していたときは、手作業が多く、目視チェックなので漏れて事故を起こすこともあった。これは装備がこん棒の初期状態ということ。
kintoneを単体で運用すると、管理者としては問題ないが、アカウント保有者以外は使えない。これは安い剣と盾を装備した状態に例えた。最終的にkintoneの複数アカウントでプラグインを活用し、さまざまな状況に対応できるようになると、兜やマントまでフル装備した状態になるという。「3月に勉強会に参加し、6月にアカウントをもらって、10月には本格的に運用を開始しました」(藤原氏)
最初は1人でkintoneアプリを構築していたが、気がついたら自主的に改善案を持ってきてくれる職員が出てきたという。運転日報だけでなく、工事の管理台帳を作りたいと手を上げてくれた人もいた。改善をする気のある職員がいないのではなく、声を出せないだけなのではないか、と藤原氏は気がついた。
この公用車関係の取り組みは、市役所内の業務改善事例表彰制度で、大賞を受賞したという。70以上の取り組みの中で1位に評価されたのだ。さらに、2020年5月からは市長や副市長の公用車にも同じ運用が始まったという。
最後に、最近作ったアプリを紹介してくれた。新型コロナウィルスの関係で、職員の出勤を7割減にするように言われ、突然在宅勤務が始まったそう。今までは、出退勤報告を電話やLINEで行なっていたので、kintoneで一括管理できるようにした。
「神戸には最先端の街になってもらいたいと思っています。そのためには、職員がITに触れてもらわなければいけません。ITって難しそうだなとアレルギー反応を示す人もいるのですが、kintoneみたいにドラッグ&ドロップで作れるものなら、スマホで遊んでいるような感覚で触れるのでとっかかりになると思います」
「そのままだと貧弱な武器でも、素材と加工次第では最強の武器になります。行政職員だからこそ、自分の武器は自らアップグレードしていかないと、これから戦っていけません。外に任せるだけでなく、現場でやっていかなければならないと思います」と藤原氏は締めた。
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