風洞まで回した入魂のエアロ!
今回のS2000 20th Anniversaryの目玉のひとつが、新開発のフロントバンパーだ。川村氏は「今回、オーナーのみなさんの気持ちを探り、グランドコンセプトを“20年目のマイナーモデルチェンジ”と定めました。マイナーモデルチェンジといってもビッグマイナーチェンジを想定しています。そのイメージを打ち出していくには、やはりフェイスリフトが欠かせません。また、スポーツカーとしてカッコイイことは大前提で、走行性能についてもモデルチェンジしたと思っていただけるように仕立てていかなければなりませんので、S2000販売当時よりも深化した実効空力のノウハウを入れていくことにしました」という。
コンプリートカーのModulo Xを数台試乗した経験からすると、その魅力は「ステアした時の切れ味と気持ちよさ、そしてしなやかで上品な乗り味」による「生理的な心地よさ」に尽きる。そのステアした時の切れ味と気持ちよさは、エアロに依るところが大きいようだ。川村氏が実効空力というのは、そのノウハウであり理由があるのだ。
「プレゼンテーションで、特に異例だったのは開発前のエアロバンパーのデザインを公開したことです」と川村氏は振り返る。「S2000はアフターパーツでもバンパーが潤沢にあり、自分好みに選べます。一方、純正主義の方は一切見向きもしないという印象でした。そこで純正用品として、アフターパーツのアグレッシブさとも、標準バンパーのなじんだ感じとも違う、われわれがデザインしたバンパーが受け入れられるのか? 正直ドキドキしながら公開しました。結果、好評をいただき、製品化につなげることができました。一番ドキドキしていたのはデザインPLの梅原さんかもしれません」と笑う。デザインを担当した梅原氏は「通常業務では自分のデザインは製品になるまで公開されません。本当にこの方向でいいのかドキドキしましたが、オーナーの方々に受け入れてもらえて、その後の工程に進む自信につながりました。」と安堵したそうだ。
梅原氏は「デザインコンセプトは“機能美”です。キレのある造形と機能から表現される美しい造形を目指しました。“キレ”と“美”はS2000の車両デザインから感じるもので、その要素をこの新バンパーに取り入れたいと思いました。S2000のバンパーは世の中にたくさんあるけれど、純正らしくて品のあるデザインを目指しました。そして純正らしさとは後付け感がなくボディーにマッチしていることが大前提。新開発するなら新しさも重要。最近のクルマはみなロー&ワイドの大開口です。それらを取り入れることで新しさと純正らしさを表現しました。ビッグマイナーチェンジにふさわしいデザインに仕上がったと思っています」と、機能と美の融合に取り組んだことを語る。
たしかにバンパーを見てみると、フロントから流れた空気がサイドへと綺麗に逃げ、フロントタイヤに当たらず、そしてホイールハウスに流入しない工夫が見てとれる。これは単なるデザインやコンピューターシミュレーションだけでなく、風洞実験、そして実走までして検証したというから驚きだ。
そんなバンパーの効果について、川村氏は「日常のレーンチェンジのようなシーンでもステリング切りはじめの抵抗感が減り、応答遅れのない素直な反応を実現しています。また、応答遅れがないことにより、ドライバーはステアリングを必要以上に切りすぎることもなくなるため、レーンチェンジ後の揺り戻しも少なくなります。バンパー下部のタイヤ前には複数のスリットが設けられていますが、これは5月28日に発表された「FREED Modulo X」にも採用されているエアロボトムフィンと同じく、ホイールハウス内を整流します。これらは主に直進安定性、抵抗感の低減、乗り心地の向上を狙っています。ドライバーの操作に対して、抵抗感のない素直なドライブフィールを実現しています」とのこと。
「ちなみに、バンパーを装着する時はこれらの空力効果を最大限に発揮するために、S2000定番のアイテム“フロントストレーキ”は外します。これはS2000オーナーとしては信じられないことかもしれませんね。(笑)」時代とともに空力の考えも変わるのだろう。もちろん純正アクセサリーゆえに衝突時の安全性も検討されているのは言うまでもない。渡部氏も「フロントエアロバンパーの造りこみについては1週間ほどデザイン、開発、設計者などチームで缶詰めになって確認しました」と労作であることを語った。
このホイールハウスへの空気流入を防ぐエアロはリアにも用意されている。それがリアストレーキだ。一見、サイドスカート側だけのパーツに見えるが、実はボディー下にも設けられている2パーツ構成。このアイテムはS2000発売時も用意されていたもので、復刻品になる。なら簡単にできるのでは、というとそうでもなかったと田村氏は語る。「約20年前の金型なので、最初はまだ残っているのか、その金型は使用できるのかという懸念がありました。しかし、お取引先様にて大事に保管/管理されている金型を見つけることができたんです。今回のプロジェクトにも賛同いただき、再発売の相談に乗っていただきました。リアストレーキ以外の品目についても、過去使用していた金型や今回のためにわざわざ再生産していただいた構成部品等多数あり、お取引先様の協力がなければ、今回のプロジェクトは成功しなかったと断言できます」。話を伺いながら、モノづくりには人のつながりと想いが重要であることを改めて感じた。
トランクスポイラーも当時の純正オプションの再販品だ。リアウイングのような大げさなものではなくダッグテール形状としているのがオトナの余裕なのだろう。もちろん効果はしっかりあり、「高速道路を走っているときなどの直進安定性が向上します。今回はダイナミック性能のコンセプトが“ワインディングマスター”であり、オープンで緑のワインディングを気持ちよく流すようなシーンを想定して乗り味を磨き上げてきました。」(川村氏)とのこと。
S2000には最終型としてTYPE Sがあり、それにはGTウイングが標準装備されている。参考までにGTウィングにしなかった理由を尋ねた。「ウィング形状のものについては一般的にダウンフォースが高くなる傾向にありますが、ダウンフォースが高くなってくると、クルマは安定感が増すかわりに、軽快感がなくなり、動的コンセプトで狙うところと離れていってしまうため、今回のダックテールタイプを採用しています。それと、ウィングタイプは羽の部分に風をきれいに流してこそ効果が高まりますが、オープンカーのS2000はクローズ時とオープン時のトランク周りの風の流れが極端に変わりますので、オープン、クローズの両方で空力特性があまり変動しないことも重視しています」とのことだ。
フロントバンパー検討時には、リアストレーキやトランクスポイラーも含めるのを前提としているのは言うまでもないので、3点揃えるのが正解だろう。川村氏も「フロントバンパー、リアストレーキとセットで前後のリフトバランスを整えた、押さえつけ感がない、でも安心感のある乗り味は新感覚かと思います」だそうだ。新感覚S2000を一度味わってみたいと思うのは筆者だけではないハズだ。
改めて新型エアロをまとった白いS2000はシャープなエッジと柔らかな曲面が見事に融合し、後付け感がない。19世紀に米国で活躍した彫刻家であるホレーショ・グリーノウは「形態は機能に従う」「美は機能の約束である」という推論を立てたが、その言葉がしっくりとくる機能美を感じさせる。「最新のModulo Xの開発で生まれた造形も採り入れています。それがフロントエアロバンパーの下面の中心部に設けたBOX形状です。これは車両下面の空気の流れを整え、車両の後方まで導くことで、前後のリフトバランスの改善を目的としています」(川村氏)。これはもうS2000 Modulo Xと言っても過言ではないだろう。