自動運転は普通の地図があるだけではダメ
道路は生きているのだ
高度な自動運転の実現には、正確で精密な地図データが必要となる。たとえば片側2車線以上の広い道路を走るのであれば、今、自車がどのレーンを走っているのかを把握できなければ、レベル3以上の自動運転は不可能だ。しかし、従来からあるカーナビ用の地図データには道路の車線のような細かいデータは含まれていない。そのため、高度な自動運転には、専用のより詳しい地図が必要となるのだ。
そうした自動運転時代に求められて生まれたのが、3D高精度地図データだ。道路の幅にはじまり、車線を分ける区画線や路肩の線、信号での停止線、横断歩道、標識などが詳細に記されている。3Dとあるように平面ではなく、立体的なデータになっているのも特徴だ。高精度三次元地図データと呼ばれることもある。
この3D高精度地図データを生成するには、非常に手間がかかる。カメラやスキャナなどを満載した車両で、実際の道路を走行して測定し、そのデータを加工して作るのだ。一方で、道路は工事で形を変えることも頻繁にあるし、新しい道路ができることもある。そのため一度できたら完成ではなく、延々と修正を続けることになる。つまり維持することも大変なのだ。
そうした手間のかかる3D高精度地図データを、各自動車メーカーがそれぞれ行なっていては効率が悪すぎる。そのため日本においては、トヨタをはじめとする自動車メーカー10社(いすゞ、スズキ、スバル、ダイハツ、トヨタ、日産、日野、ホンダ、マツダ、三菱)を含む計18社が、2017年にダイナミックマップ基盤株式会社を設立。このダイナミックマップ基盤株式会社が、オールジャパンの代表として自動運転用の3D高精度地図データを整備し、提供することになったのだ。
ただし、リアルな自動運転を行なうには、3D高精度地図データだけではまだ不足だ。これに時々刻々と変化する信号情報や事故渋滞など、動的に変化する情報も必要となる。そのため、3D高精度地図データという静的なデータに、動的データをプラスした「ダイナミックマップ」と呼ばれるデータが、実際の自動運転には使われている。
そのダイナミックマップの概念は4階層からなっている。路面情報・車線情報・建物の位置情報といった3次元地図情報である「静的情報」と、交通規制の予定や道路工事予定・広域気象予報情報等の「準静的情報」という2つの静的情報。これに、事故情報や渋滞情報・交通規制情報・狭域気象情報等の「準動的情報」と、周辺車両・歩行者・信号情報といったリアルタイムの「動的情報」という2つの動的情報を重ねて4層にしたものがダイナミックマップとなるのだ。
ちなみに、3D高精度地図データは、複数の自動車メーカーが協調して利用するものとなる。そのため、3D高精度地図データは協調領域と呼ばれている。そして、それ以外の3階層のダイナミックマップの情報は、自動車メーカーそれぞれが競争して開発するもの。つまり競争領域になる。競争領域のデキが、それぞれの自動車メーカーの自動運転システムの性能差となるのだ。2019年に登場した日産スカイラインのプロパイロット2.0も、ダイナミックマップ基盤株式会社の提供する3D高精度地図データに、プロパイロット2.0ならではの情報(競争領域)がプラスされて使われている。
今後、登場する日本車のレベル3以上の自動運転のシステムには、スカイラインと同じようにダイナミックマップ基盤株式会社の3D高精度地図データにオリジナル要素をプラスして利用されることだろう。どんな違いがあるのかに注目してみよう。
(写真提供:ダイナミックマップ基盤株式会社)
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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