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当初は選択肢になかったLINE WORKSに行き着いた理由とは?

箱根の温泉旅館「和心亭豊月」、再開を待つスタッフ同士をLINE WORKSでつなぐ

2020年05月01日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 新型コロナウイルスの影響で、休館を余儀なくされた箱根の温泉旅館「和心亭豊月」はLINE WORKSを導入し、スタッフ同士をつないでいる。試行錯誤のツール選定の末、LINE WORKSに行き着いた和心亭豊月専務取締役の杉山慎吾氏に、導入に至るまでの背景とLINE WORKSで実現できたことを聞いた。

元箱根地区にある温泉旅館「和心亭豊月」

リピート客に真摯に向き合うため、蓄積された情報を活用したい

 「和心亭豊月(わしんていほうげつ)」は、まもなく創業70年目を迎える神奈川県箱根の温泉旅館。元箱根地区(箱根芦ノ湖温泉)の高台に位置する全15室の小規模な旅館で、「大人宿」をキャッチフレーズに、個性豊かな風呂とモダン懐石が楽しめる。

 和心亭豊月専務取締役の杉山慎吾氏は、大手ホテルでの勤務を経て2009年に家業を継ぐ形で戻ってきた。そんな杉山氏が改めて事業戦略を考えたところ、15室という規模なので団体客は難しく、他の地区に比べて交通の便もよくないが、リピート率4割を長らく維持してきたという特徴を持っていた。電話での予約率が高いこともあり、杉山氏が入社する以前からCTIの仕組みを持っており、顧客の情報管理が根付いていたのが大きな理由だ。

和心亭豊月専務取締役 杉山慎吾氏

 戦略立案のために事業分析を進めた結果、この10年は建物の改築のようなハード面よりも、むしろサービスや人材といったソフト面で勝負する戦略をとってきた。「リピーターに助けられてきた旅館でもあるので、こうしたお客さまに向きあうべく、情報の蓄積・伝達がオペレーション上、キモになると考えました。たとえば、お客さまは左利きなのか、お子さまの名前はなにか、旅の目的はなにかなどを把握することで、素晴らしい時間を過ごしていただけると感じていました」と杉山氏は語る。

 このような「情報を知恵にしていく」という活動の一環として、今から3年前に利用者の問い合わせに応えるFAQサイトで導入したのが、オラクルのクラウドサービスになる。こうした活動のおかげで、オペレーションに関しては即時性のある情報共有が可能になり、履歴を溜めるカルチャーも根付いてきたという。また、顧客データやそれに紐づく利用データなどを分析するBIの導入にも取り組み、予約や利用内容、館内での消費傾向、担当者ごとの売上などかなりの部分で可視化でき、マーケティング戦略に活用している。

 しかし、FAQの拡充やBIの導入により、情報の蓄積や活用までは進んだものの、経営者が意思決定した施策や理念も組織として実行しなければ意味がない。この結果、杉山氏が向き合ったのが、今までの活動で最適化された業務フローや理念をいかにスタッフに浸透させるかという課題だ。

あえて名物料理を作らず、旬にこだわる和心亭豊月の料理

 杉山氏曰く、そもそもこの規模の旅館には会議がないという。顧客のスケジュールに合わせたシフト勤務を採用するため、メンバー全員が一堂に会することが難しいためだ。「旅館の1日って、お客さまのチェックインから始まって、チェックアウトで終わります。ですから、午後から次の日の朝までという『たすき掛け』という休みもあり、そもそも全員で集まれません」(杉山氏)。

 オペレーションに関しては毎日15分のミーティングを1日2回やっているが、全員集まるのは年に2回しかないという。また、幹部自体もいわゆる現場の仕事を抱えたプレイングマネージャーなので、打ち合わせが30分以上になることはないとのこと。こうした中、スタッフに向けた情報共有プラットフォームとして、和心亭豊月が導入したのがワークスモバイルジャパンのLINE WORKSになる。

「LINE WORKSだけはないな……」からの導入はなぜ実現したのか?

 導入検討を始めたのは約3年前。杉山氏は4製品くらいグループウェアを試用してみたが、一長一短だった。もちろん機能が足りない部分もあったが、逆に機能が豊富すぎて使い切れないと感じたサービスもあった。「けっこう重要だったのは通知機能。アプリ版ならともかく、ブラウザ版だと貧弱なものも多かった」と杉山氏は語る。

 もう1つ悩みどころはスタッフが利用する端末に関してだ。もともと杉山氏は、PCやスマホなど社用端末を貸与する前提で考えていたが、スタッフに聞いたら現場と感覚が違うことに気がついた。「そもそも座っている時間がないので、フロント業務以外ではパソコンに向き合える時間がとれないし、端末を2台持つのは面倒くさいという声も大きかったです」(杉山氏)。つまり、普段使っている1台のスマホですべて完結させたいというのが、現場の意向だったわけだ。

開放感の高い露天風呂「出合い月~灯~」

 こうした現場のニーズを考えた場合、LINEの名前を冠するLINE WORKSはプライベートなツールというイメージが強く、選択肢には入らなかったという。もちろん、杉山氏も個人向けのLINE、企業向けのLINE WORKSの違いは理解していたが、LINEのようなサービスは生活に密着しすぎて仕事では使えないのではというイメージがあった。また、LINEは写真の保存期間が2週間であることから、情報の蓄積という点も難しいだろうと思い込んでいた。「ギリギリまでLINE WORKSだけはないなと思っていました。仕事で絵文字なんてとんでもないくらいの感覚でした」と杉山氏は振り返る。

 しかし、コロナウイルスの感染拡大により従業員が一同に会せなくなるかもしれないという危機感の中で、普段から生活で使っているサービスだからこそ、スタッフはすぐに使い慣れるのではないかという考えに転換したという。「日頃から忙しくしているメンバーにイチから操作を覚えてもらうのはすごく負担になると考えていました。だったら、もっともプライベートなLINEに近いLINE WORKSの方が、むしろみんな使いやすいのではないかと考え方が一気に変わったんです」(杉山氏)。まさにコペルニクス的な考え方のシフトだ。

 また、メンバーの初回登録時にLINEでログイン認証できるというユニークな点があった。「他社製品って意外とメールアドレス前提だったりしますが、プライベートでもメールを使うことは少なくなっているし、LINE WORKSを使うためにわざわざ全スタッフにメールアドレスを付与するのもなんだか違う気がしました」(杉山氏)とのことで、メールアドレス不要でアカウントを作れるLINE WORKSのメリットも大きかった。

 実際に使ってみると、LINE WORKSの使い勝手はLINEのユーザーに親しみやすいものだったし、法人向けということで情報を蓄積・活用することにも長けていた。「3年まるまる考えてきたのに、LINE WORKSに決めたのは最後の5日間だったんです(笑)」と杉山氏は振り返る。

つながれる手段がありがたくてしようがない

 スタッフに聞いたところ、20人のうちLINEを使っていなかったのは2人に過ぎなかったため、導入に障壁はなかった。そのため3月の中旬にフリープランの本登録を行なった。初期設定では、杉山氏が管理画面で組織を作り、部署ごとにユーザーを割り当て、まずは全員参加のトークルームを開設した。

 それと合わせて「ホーム」の機能を用いて、社員への掲示板を立ち上げた。最初の投稿はLINE WORKSの運用を始めること、そして(新型コロナウイルスの影響で)休館しますという告知だった。「もともと4月6日から4日間の休館を予定したが、緊急事態宣言を受けて、4月下旬(当時)まで休館することにしました。スタッフは来なくなるので、どうやって告知しようかなと思ったとき、LINE WORKSがちょうど役に立ったんです」と杉山氏は語る。

休館・休業の案内をLINE WORKSで実施

 現在、杉山氏は休館の期間を利用し、LINE WORKSでの情報共有をいろいろ試しているところだ。一番のメリットは投稿が残り、後でも振り返れること。たとえば、メディア掲載のお知らせや売店の新商品紹介、LINE WORKSの使い方のルールなどを発信し、スタッフがどのような情報に関心があるかを見ているという。「一番、既読率が高く速いのはお客さまの口コミの共有です。昔は回覧や紙の掲示物として出していたのですが、LINE WORKSだと写真を張ればよいので即時性を担保できます。やはり、スタッフとしてはお客さまの反応が気になるんですね」(杉山氏)。今後はスタッフに向けたアンケートやカレンダー機能による施設管理も利用していく予定だという。

 3月に導入したLINE WORKSは期せずして、休館中の和心亭豊月のスタッフ同士を結びつける重要なツールとなっている。気心知れたメンバー同士の情報発信の重要さや楽しさは、投稿を始めたスタッフたちも感じており、結果的に従業員満足度の向上にも寄与しているようだ。「毎日会っている人と会えなくなる不安はスタッフ全員が感じているはず。でも、LINE WORKSがあるので、会っていないのに、スタッフ同士で会えているような感覚になっています。人がいないと始まらない商売なので、休館中もつながれる手段があるというのは、私たちにとってはありがたくてしょうがないんです」と杉山氏は語る。

LINE WORKSを使ってスタッフ同士で休館中もつながっている

 結果的に、新型コロナウイルスによる休館は、決してすべてがマイナスではなかった。なにより大きかったのは、本稼働の前にLINE WORKSを活用する下地がきちんと整ったことだ。「休業は資金繰りなど厳しいですが、普段なら着手できないことに取り組むにはいい機会。再開後は毎日5分でいいから会議をしよう。その会議の履歴をナレッジとして残そうという取り組みをスタートさせていこうと思っています。みんなが共通で見られる、みんなが発信できるLINE WORKSのようなプラットフォームを元にオペレーションすれば、結果はおのずと付いてくると思います」と杉山氏は語る。再開後、LINE WORKSがどのように現場で活用されるのか? 興味津々だ。

■関連サイト

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