残念ながら筆者は、当時もそしてつい先日までも、そのことをまったく知らず。今回、55年後の2020年に再発売された「CURIDAS」(キュリダス)万年筆のアナウンスで、初めて55年前のプラチナノックの存在を知ったのだった。
キュリダス(CURIDAS)は、「好奇心(CURIOSITY)」+「繰り出す」を組み合わせた造語らしく、衝動買いにはピッタリのネーミングだ。
繰り出し式の万年筆は、日本製品以外の海外にも幾つか存在する。イタリアの「スティピュラ」やドイツの「ラミー」などもノック方式ではなく、軸を回転させることでペン先が迫り出す「ツイスト方式」のキャップレス万年筆を市場に送り出している。筆者も、ラミーの「ダイアログ3」は長年愛用している万年筆のひとつだ。
今回発売されたキュリダスは、新しい令和の世代層に向けて登場した新世代のキャップレス万年筆だ。当然、ラインナップカラーも若年層に向けたカラフルなバリエーションだ。本体カラーは、プリズムクリスタル、グラファイトスモーク、アーバングリーン、アビスブルー、グランレッドの全5色。
ミーハーな筆者は、年甲斐もなく予約販売を受け付けているウェブサイトのサンプルカラーを、ずっとディスプレー上で眺めて悩んでしまった。そしてキュリダスの5色の中ではある面、もっともコンサバであり、特徴的だと思った完全トランスルーセントの「プリズムクリスタル」を予約衝動買いした。
コンセプトはポジティブでもキュリダスは、画数の多い漢字を多用する日本人向けモデルなので、ペン先は極細字(EF)、細字(F)、中字(M)の三種類だけとなり、残念ながら太字(B)は用意されていない。最近はアナログ系の手書き手帳をほとんど使わない筆者は、まず細かな文字を書くことがないので、今回ももっとも太くてしっかりした文字の書ける中字(M)を購入した。
同じ「繰り出し方式」のキャップなし万年筆でも、ラミーのダイアローグ3は本体を捻じる「ツイスト方式」なので今回は比較対象から除外して、筆者が特に興味を持ったのは、同じノック方式を採用するプラチナのキュリダスとパイロットのキャップレスの共通点や違いだった。
外観をパッと見てすぐに気付くのは、その全長の違いだろう。キャップレスの実測140mmに対してキュリダスは実測153mm。約13mmの長さの差があるが、その差のほとんどはノック部分だけの差だ。
実際にペン先を完全に繰り出して筆記状態にした長さを測ってみると、なんとその差は3mm程度に縮んでしまう。何度かキャップレスとキュリダスを交互に握ってノックしてペン先を出したり、へこませたりしている内に気づいたことがある。
どうもキュリダスは、ノック時に迫り出してくるペン先からカートリッジまでの一連のシリンダー型のユニットサイズが大きく、実測すると28mmという長いストロークのノック操作によってペン先が極めて奥の方から出てくる。これは大人の男性にはそれほど問題ではないが、手の小さな女性や子供には少し無理があるかもしれない。
おそらくこの長いストロークは、キャップレス系万年筆の共通の弱点であるペン先インクの乾燥による筆記障害を、ミニマイズするためのシリンダー構造の差なのかもしれない。
ノック動作に続いて、ペン先とインクカートリッジを収納する内部のシリンダー型ユニット全体が迫り出し、続いてペン先がシリンダー型ユニットの先端部分から、ハッチのような大きな乾燥防止丸蓋を押し開いて登場してくる。キャップレス万年筆のペン本体(外殻)の先端に単にハッチを取り付けた単純な構造とは大きく異なっている。
ペン先収納部分の機密性はキュリダスの方が明らかに良さそうだ。実際にキュリダスをしばらく放置しておいてもペン先の乾燥は皆無だった。そして迫り出してくるペン先のサイズも、キュリダスの方がキャップレスより二回りほど大きく、長さも長く、筆記時にペン先と筆記面とのポイントが明確に見やすいのも特長だ。

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