ぐるなび・EPARKの予約プラットフォーム特許戦略比較
先発企業・後発企業、それぞれが取るべき戦略とは?
スタートアップと知財の距離を近づける取り組みを特許庁とコラボしているASCIIと、Tech企業をIP(知的財産)で支援するIPTech特許業務法人による本連載では、Techビジネスプレーヤーが知るべき知財のポイントをお届けします。
2019年に約200億円の資金調達を行い、日本国内の資金調達ランキング上位となって注目を集めた予約プラットフォーム「EPARK」。グルメ・医療・習い事など領域特化の予約サイトを多数提供し、2020年2月末にはユーザー数3000万人を突破しています。
予約サイトは、店舗とユーザーとを結びつける典型的なプラットフォーム型のビジネスモデルとなっています。同様のプラットフォームは、インターネットが普及し始めた2000年代から多くのサービスがリリースされてきました。一例としてグルメ分野だけでも、「ぐるなび」「食べログ(カカクコム)」「ホットペッパーグルメ(リクルート)」「一休.com レストラン(ヤフー)」など、大手企業グループを中心にそれぞれが数百億円規模の売上に達しており、競合サービスがひしめいている激戦区といえる状況です。
そのような背景の中、EPARK社としても、近年、特許の獲得に注力していることが伺え、2019年までの登録特許75件のうち大部分が2017以降に特許出願されたものとなっています。本稿では、2000年に会社が設立(*)された株式会社ぐるなび(以下、ぐるなび社)と2007年創業の株式会社EPARK(以下、EPARK社。創業時はSBMグルメソリューションズ株式会社)の特許出願状況の比較を通じて、先発企業が特許を蓄積している状況で、後発企業がどのように切り込んでいくのか、それぞれの特許戦略について考えていきたいと思います。
*株式会社エヌケービー(エヌケービー社)の一事業部として、飲食店検索サービス「ぐるなび」がサービスを開始。2000年に分社化が行われ、株式会社ぐるなびが設立
先行者利益を活かし、幅広いユーザー体験の権利化を進めるぐるなび
ぐるなび社は、エヌケービー社から分社化した2000年以降、継続的に特許出願を行っており、2020年3月時点で100件以上の登録特許を保有しています。
2001年に出願して登録となった特許第4368077号は、「施設の空席状況を店舗側から管理サーバーに送信することでユーザに公開するが、その空席状況は一定時間が経過したらリセットされる時限的なものである」というものです。多くの飲食店ではインターネット予約以外に電話予約や直接の来店を受け付けており、飲食店によっては、管理サーバーが空席状況をリアルタイムに把握し続けることが困難な状況は今なお生じているといえそうです。
ネット予約以外の方法で席が埋まった場合には再度空席状況を店舗側から送信する必要がありますが、店が混み合った状況でその作業に人手を割くのは難しいため、定期的に空席状況をリセットし、人手が空いている(=空席がある)タイミングで改めて空席状況を送信するという仕組みになります。本特許は、飲食店のほか、医療施設や遊戯施設も権利範囲に含まれており、予約プラットフォームで広く利用されうる特許となっています。
続いて紹介する特許第5041571号は、「店舗情報に事前に登録された周辺駅から利用者が事前に登録した目的地(自宅の最寄り駅)までの経路案内を携帯端末に送信する」という内容です。地図アプリなどで日常的に行っている操作にかなり近い内容と考えられます。
そのほかにも、「店舗のテーブルに設置した端末と利用者の携帯端末を対応づけることでユーザ端末から注文操作を可能とする」という、近年中国でQRコードを介して普及しているミニプログラムでの注文システムに近い内容(特許第5819681号)や、オンライン飲食宅配サービスに関連する内容(特許第5762792号)の権利化も行っています。
その他、ぐるなび社は、幹事向けに予約を支援する機能、外国語メニュー対応などについても権利化を行っています。
ぐるなび社の特許戦略の特徴としては、ユーザが予約する操作を支援する機能、実際に店舗に来店したことをマーケティングデータとして蓄積すること、クラウド型POSシステムなど、開発の成果を順当に権利化し、将来的にユーザーが求めるであろう体験を予測して、業界他社から見て存在感のある特許を幅広く継続的に取得していると言えます。
「ユーザーの待ち時間」というペインにフォーカスしたEPARK
先行するぐるなび社に対して、EPARK社はどのような特許戦略を取っているか見ていきましょう。EPARK社は、2017年頃より特許出願に注力していることが伺えますが、2017年頃の状況としては、ぐるなび社が既に約100件ほどの特許出願をしており、うち約40件ほどの登録特許を保有している状況でした。その他の業界各社も、特許を獲得してきている一方、EPARK社は、当時、自社による特許出願の蓄積がほとんどない状況だったといえます。それでは、EPARK社は、どのように特許を蓄積していくべきと考えたのでしょうか。
EPARKのサービス紹介サイトには下記のような記載があります。
話題のお店に行ったけど、行列を見て諦めた…。たった5分の診察のために、病院で2時間待った…。そんなストレスを解消するのが、私たちの役目です。
「EPARK」は、スマートフォンや店頭タッチパネルなどの端末から、順番待ちや日時指定予約を可能にしたクラウド型サービス。お目当ての店舗の待ち時間を確認し、WEB上で順番待ちに参加すれば、待たずに入店することもできます。https://epark.co.jp/service/
ネット経由で施設の予約をしたいというニーズからさらに具体化して、「施設利用時の待ち時間を減らしたい」という点にフォーカスした内容になっています。これはつまり、同社がEPARKのサービス訴求ポイントを「待ち時間の解消」と考えているということであり、実際のプロダクト開発と権利化もそこに重点を置いたものとなっています。
EPARKが提供する具体的な機能として「順番待ち(何組後に入れるか)」や「日時指定予約」が書かれていますが、これらについて特許による権利化も行われています。
2017年に出願した特許第6402237号は、「順番待ちがない状態からユーザ端末経由の予約が行われた場合に、他のユーザ端末からの順番待ちの予約を一定時間抑止する」という内容です。
順番待ちがない状態でユーザー端末から複数の順番待ち予約を受け付けると、店頭からの距離など予約者の状況によって予約受け付け順と到着順が前後してしまうケースが店頭で発生し、うまく順番待ちが成立しない可能性があります。この状況を防ぐため、実際の店頭で順番待ちがない状態で、ユーザーの到着時間が読めないユーザ端末経由の順番待ち予約を1件までに抑えつつ、一定時間が経過すると他のユーザー端末経由の順番待ち予約を受け付けるという特許になります。
ユーザーが待たずに入店できるよう、順番待ちに際して入店予定時刻を予約する方法に関しても、様々な観点で権利化がされています。
インターネット経由で入店予定時刻を指定できるようにしつつ順番待ちの予約をできるようにすることは、ユーザーからのキャンセルも容易に可能となります。そのため、例えば予約キャンセルを抑制するためのデポジット(事前に支払う一時金)を紐づける形で権利化を実現しています。特許第6368847号では「入店時間を指定した予約と、入店時間を指定しない予約で、デポジットを異なる金額にする」という内容を特許化しています。
飲食店の予約の場合は、いまから行く・店舗に移動する意思があるとも思われる時間を指定しない予約と、予約の時点から数十分後~数時間後となるような入店予定時刻を指定する予約が考えられます。このとき、後者の方が店舗に到着する時間がずれたり、キャンセルの可能性が高いかもしれません。そのため、後者のデポジットをより高い金額にすることで不当なキャンセルを抑制し、店舗のオペレーションも効率化できます。
その他、EPARK社は、店頭において順番待ちを受け付ける端末についても権利化を進めています。
ぐるなび社が長年にわたってユーザー体験を広く権利化しているのに対し、EPARK社は、まず、「ユーザーの待ち時間解消」に課題を絞り、店舗を利用するユーザーの体験と、店舗を運営するスタッフのオペレーションの改善などを図るため、インターネットでの予約をユーザーから受け付けるためのアプリケーションや、店頭における順番待ちを受け付ける端末などについて集中的に権利化を進めてきたと言えます。
先発企業と後発企業、それぞれの特許戦略
本稿では、飲食店予約プラットフォームをテーマに、先発企業となるぐるなび社と後発企業となるEPARK社と、それぞれの特許権利化動向を見ていきました。
特許で先行する企業は、特許を蓄積させつつ、継続して、ユーザー体験の一連の流れ(飲食店予約であれば、店舗検索~予約~来店~帰宅~口コミ記入など)について核となる機能を特許化することで、競合企業に対しての優位性を築いていくことが基本的な戦略となります。
一方の後発企業は、自社サービス導入の決め手になるような訴求点について、先行企業よりも深堀りした課題(今回の場合は、ユーザーの待ち時間解消)を見定めて集中的に特許化を進めることで、まずはユーザーから選ばれる理由を知財・技術から手当することが重要となります。ユーザーの体験を向上させる技術は、ユーザーから自社サービスが選ばれる要因にもなりえるため、この観点で特許化を進めることは合理的であるといえます。
特に、大手企業が参入する激戦区となる市場では、競合他社から注目される特許ポートフォリオをいち早く築き上げ、知財面での競争力・交渉力を高めていくことが重要です。実際にEPARK社は、特許出願をした後、特許出願の審査期間を早める早期審査制度を活用して権利化のスピードアップを進めています。その結果、2017年~2019年にかけて特許の登録数を約70件積み上げており、まず件数について他社と並ぶか、他社以上のペースで積み上げていこうという意図があったのではないかと感じられます。実際、激戦区となる市場において、特許で後発組の企業は、特許の蓄積がある先行企業よりも量において上回るペースで特許出願・権利化を進めざるを得ない局面もあるといえます。
この先、後発企業が、自社サービスの差別化になる要因について一定の件数の特許を確保したとなると、続いて、ユーザーの体験にかかわらず汎用的に適用できそうな技術についても権利化に注力していくことが想定されます。特許の争いは、各社の独自技術というよりは汎用的な技術で起こることが多く、先行企業も同様に汎用的な技術についての権利化を進めていくことが見込まれます。これにより、特許のライセンスなども業界内でより活発になっていくことがありえます。
両社の特許戦略は、業界内の先発企業・後発企業として非常に参考になるものです。自身が所属する企業や業界の状況を改めて考慮して、今後の特許戦略を考える材料としていただければ幸いです。
著者紹介:IPTech特許業務法人
2018年設立。IT系/スタートアップに特化した新しい特許事務所。(執筆:佐竹星爾弁理士)