シリコンバレーに次ぐ世界第二のニューヨークのスタートアップエコシステム
「NYのエコシステムとTechDay NY参加報告」レポート
横浜市とASCII STARTUPは2019年11月25日、関内地区にオープンしたベンチャー企業成長支援拠点「YOXO BOX」にて、海外のイノベーション事情について語り合う「YOXOグローバルセッション ニューヨーク編~NYのエコシステムとTechDay NY参加報告~」を開催した。JETROニューヨーク情報技術部長の中沢 潔氏による講演と、スタートアップガイドのCEO Sissel Hansen(シセル ハンセン)氏によるSTARTUP GUIDEの東京版「STARTUP GUIDE TOKYO」の紹介、また5月に開催された「TechDay New York」の参加企業による報告が行なわれた。
ニューヨーク、北米都市のエコシステムの特徴とは
第1部は、JETROニューヨーク情報技術部長の中沢潔氏が登壇し、「ニューヨーク及び北米のイノベーションハブ等について」と題し、北米のスタートアップエコシステム事情について解説した。
スタートアップエコシステムは、スタートアップが成長(スケールアップ)する場としてだけではなく、日本にとってはコーポレートイノベーションの実現のため企業等が新たなテクノロジーやソリューションを探す場として考えることが重要であり、本日はこの2点について話をしたい。
Startup Genomeによる世界のスタートアップのランキング「Global Startup Ecosystem 2019」では1位のシリコンバレーに次いで、ニューヨークが2位にランクインしている。北米には、多数のエコシステムがあるが都市によって違いがある。たとえば、シリコンバレーとボストンは、大学の先生や学生を中心に、新しいテクノロジーの産業化を考える傾向があり、シアトルは、マイクロソフトなど大企業からのスピンオフによる起業が盛んだ。一方、大都市のニューヨークは、既存のビジネスを「ハイフンテック(-Tech)」(注:既存産業に技術を掛け合わせた新事業)で変える、より現実的な事業が求められている。
ニューヨークは、2008年の金融危機をきっかけに、金融サービスに依存した産業構造から脱却するため、産業の多様化に取り組んだことがスタートアップエコシステムの構築につながった。巨大な市場と豊富な人材を活かし、多様なハイフンテックの産業が生まれているのが特徴だ。
ニューヨーク発のスタートアップの例として、コミュニティ型ワークスペース「WeWork」、女性専用のコワーキングスペース「ザ・ウィング」、セミオーダーでニーズに合わせたスペースを貸す「ノーテル」フリマアプリ「Letgo」、日本人起業家によるアジア人向けマッチングサービス「East Meet East」などを紹介。
またコーポレートイノベーションの手法としては、1)ハッカソン、2)インキュベーションやアクセラレーション、3)ソリューションコンテスト、4)M&Aなどを目的や課題に合わせて実施することが重要だ。コーポ―レートイノベーションをサポートするビジネスの事例として、大手企業とスタートアップをつなぐイスラエル発の企業「SOSA」を紹介した。
中沢氏によると、すでに巨大なエコシステムが出来上がっているニューヨーク、シリコンバレーなどはすでに参入障壁が高く、それよりも現在エコシステム構築に力を入れている州や市のほうが歓迎されやすいそうだ。アトランタやヒューストン、ダラス、ピッツバーグなどにもいろいろなタイプのスタートアップがあるので、現地にどんなプレーヤーがいるのかをリサーチして、進出先の地域を検討することも一案である、とアドバイスした。
JETROでは、日本のスタートアップ向けに、ニューヨークやボストンでの展開を支援するプログラムを実施している。また、大手企業向けにはニューヨークのスタートアップとつなげる活動も行なっているとのこと。
東京のスタートアップエコシステムがわかる「Startup Guide Tokyo」発売
続いて、スタートアップガイドのSissel Hansen(シセル ハンセン)氏が登壇し、同社が出版している「Startup Guide」について紹介した。スタートアップガイド社は、世界の各都市のエコシステムを紹介するガイドブックを制作している。新しい国や地域での事業を立ち上げるには文化や言語の違いは大きな壁だ。連携先の企業を探そうとしても、ネットに公開されている情報だけでは事業の内容がよくわからなかったりする。そこで、世界各地のスタートアップとそれを取り巻くイノベーターやアクセラレーター、投資家、パートナーなど地域別のエコシステム情報を集めた本を作るために資金調達をして、スタートアップガイド社を2014年に設立。現在、5大陸・35都市のエコシステムの「Startup Guide」を出版、社員も50名に成長している。
アジア圏では、シンガポール、バンコクに続き、2019年11月29日には東京版『Startup Guide Tokyo』を出版。スタートアップガイドのミッションは、明日のビジネスを形成するストーリーを伝えていくこと。「環境や経済など世界が抱えるさまざまな問題を解決する新しいソリューションをこの本の中で伝えていきたい」と語った。
2020年8月には、東京、神戸、京都、大阪、福岡等を含む予定の「Startup Guide Japan」を出版予定だ。
「TechDay New York」横浜ブース出展企業による報告会
第2部は、2019年5月に開催されたスタートアップ・テックイベント「TechDay New York」に参加した株式会社CODE Meee 代表取締役太田賢司氏と富士ゼロックス株式会社の安部 勉氏、JETROの中沢氏の3名がイベントを振り返り、感想を語った。
CODE Meeeと富士ゼロックスは、横浜市の「横浜ブース」に出展。CODE Meeeは、パーソナライズアロマ「CODE Meee ONE」5種類をデモ展示し、JETROが主催する現地のピッチイベントにも登壇した。太田氏は出展の感想として、「TechDayは1日のイベント。限られた時間だからこそ、来場者の本気度も高く感じられた」とコメント。また横浜ブースに参加したメリットして、TechDayでのブース出展に加えて、ニューヨーク界隈のインキュベーション施設、VCやスタートアップのオフィス視察のツアーがあり、現地のVCやスタートアップとのネットワークも築けたことを挙げた。
富士ゼロックスは、1995年にシリコンバレーにパロアルト研究所をオープンし、新規事業の創出に取り組んでいる。TechDayでは、その研究のうち事業化の予定がないものをいくつか紹介したところ、数社から引き合いがあったとのこと。また来場した学生がサマーインターンシップへの参加を希望するといった収穫が得られたようだ。
米国進出を目指すスタートアップへのアドバイスとして、「米国はスタートアップが上手くはまれば大きな投資額が得られるが、シリコンバレーは村社会であり、人と人のつながりを重視する。地元の人たちとネットワークを築いて新しいことをやることが大事」と語った。