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中の人が語るさくらインターネット 第17回

東日本大震災から巨大台風、そして新型肺炎までITでできること

さくらインターネット研究所の松本直人氏が語る災害対応と通信技術の可能性

2020年03月11日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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災害時の情報共有の難しさ

大谷:昨年の台風では自治体のホームページが見られないという課題も露呈しました。

松本:確かにそうですね。もちろん、CDN用意しておけば!等の声もあると思うのですが、自治体として課題になるのは、起こるかどうかもわからない災害に対してあらかじめ投資を毎年継続していくのが難しくなっている点も伺いしれます。

「災害対策の投資を継続するのが難しいという課題が自治体にはあります」(松本)

私も災害関連のシンポジウムや研究会等によく会話しているので、自治体の方々ともお話しするのですが、自治体も災害対策以外にやらなければならないこといっぱいあるし、自治体職員はおおむね3年で担当変わってしまいます。ノウハウは継承されないし、予算が縮小されることもよくあります。

大谷:自治体側の災害に対する意識は変わっていないのでしょうか?

松本:3・11以降、各企業から自治体を支援するさまざまなプログラムが出てきましたが、協定を結んだ自治体は正直まばらです。「うちは災害起こらないから」と断言する自治体の話を直接私も耳にしたことがありますが、見事なまで地域や県民性が出ていたのを記憶しています。それくらい地域格差がありますし、担当する人の胸先三寸というところもあります。

大谷:昨年の大規模水害ではインフラやリソースを持っているはずの大手の放送局や事業者のポータルサイトが重かったり、見えなくなっていたりしていました。

松本:もちろん、相当余力を持ってリソースを確保していたんでしょうが、それすらリミットを超えてしまった。特にダムの放水に関しては、東北地方・関東地方・中部地方と、おそよ人口の1/3以上がいるあまりにも広い範囲での情報共有だったと記憶しています。

大谷:確かに昨年の台風のときって、情報に飢えていたような感じでしたよね。結局、自分や家族が大丈夫なのかを知るべく、夫婦でいろんなサイトやSNSを調べていました。

松本:ここ数年の教訓から自治体のサイトが使い物にならないことを前提として、情報収集した人が多かったのかもしれませんが、今までは「防災・災害アプリは普段使いのものしか使われない」というのが通説だった状況から、「何かあったらすぐ防災・災害アプリをダウンロードして使おう!」に変わった瞬間だったのではないと思います。

昨年の台風はわりと細かくスケジュールがわかっていたこともあって、情報の質や頻度なども、私が見た限りは、こんなに更新が速いんだと驚きました。たとえばZoom.earthであれば、10分単位で全世界の衛星写真が更新されます。私も気象庁発の情報だけではなく、海外のソースも見ます。私も日頃から複数のソースを見て、精度を担保するようにしています。

大谷:確かに1つのニュースソースだけだと果たしてあっているのか不安になるところあります。

松本:統一されたソースからの情報を告知するのは理想ですが、もはや立ちゆかないんです。だから、国、自治体、民間、コミュニティ、個人などそれぞれ協力するのが、社会不安を軽減する早道だと私は思っています。

システム設計の教科書ではありませんが、システムのストレージは、データを完全に保存するには、同じデータを6つのまったく違う方法や場所で保存するとよいとされています。情報共有も同じ。防災×ITのコミュニティが複数存在しているのは、逆にいいことだと思います。

大谷:逆に課題はどんなところでしょうか?

松本:やっぱり、情報を持っている人や組織が情報を出せない、もしくは情報を出すのにまだまだ時間がかかっていることですね。法律や制度面での規制もありますし、なにより人手不足で、特定の人に判断が集中してしまっています。ある程度オートマチックに情報を公開できるようにして、出所の確かなデータを幅広く使える環境がもっと拡がらないと、これからも災害に対応できないと思います。

新型肺炎の対策にも対応するさくらインターネット

大谷:最後にさくらインターネットとしての取り組みも教えてください。

松本:4~5年前に調べたことがあるのですが、日本の自治体サイトの6%はさくらインターネットなんです。プロバイダー自体は全部で166もあり、最大手が2割くらいなので、その次くらい。ですから、石狩データセンターも社会的責任として止めてはいけないんです。

さくらとしては当然、自治体向けサイトとしてCDNを提供していますが、災害情報を発信していくためのリエゾンみたいな役割もやっていくといいのかなと思います。情報が出てこないのであれば、組織の中の人の代わりに情報公開の作業をご支援する。そんな未来が来てくれることを祈っています。

大谷:自然災害とは異なりますが、今回の新型肺炎のパンデミック対策でもITができることありそうです。

松本:はい。さくらインターネットは今回の新型コロナウィルス(COVID-19)に対しても、さまざまな情報共有支援等を始めています。

・休校に関連したサービスの情報 https://prog-edu.sakura.ad.jp/2020/02/1258/
・北海道/新型コロナウィルスまとめサイト https://stopcovid19.hokkaido.dev/
・COVID-19対策タイムライン  https://research.sakura.ad.jp/covid-19/
プログラミングの基礎が学べるオンライン講座を無料提供
https://www.sakura.ad.jp/information/pressreleases/2020/03/10/1968203027/

また、研究所では試作していた「さまざま事象や変化を迅速に観測するシステム(モノゴトの見える化)」を使うことで、ホテル・旅館を営む宿泊業おいて、全国の一つの県も欠けることなく新型コロナウィルス(COVID-19)対策を行なっていることが確認できました(2020年03月09日現在)。積極的かつ多頻度消毒作業、接触頻度を低減するバイキング、ビュッフェ形式の取りやめ、イベントの休止・延期、営業時間の変更などさまざまな企業努力が続いています。

私たちが体験した東日本大震災の時と同じく、これら感染症対策の事態の収束が見えた時には、こうした多くの人の努力を称え、経済・社会活動にも貢献していくことを私たちは望んでいます。

 

■関連サイト

(提供:さくらインターネット)

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