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中の人が語るさくらインターネット 第17回

東日本大震災から巨大台風、そして新型肺炎までITでできること

さくらインターネット研究所の松本直人氏が語る災害対応と通信技術の可能性

2020年03月11日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: さくらインターネット

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この10年で拡がったコミュニティと災害前提の対策

大谷:そんな原体験を経て、災害×ITにおいてどんな変化があったのでしょうか?

松本:この10年で大きく変わったのは、自然災害が起こると、自律的に動くコミュニティが生まれたことです。日本って、毎年なんらかしらの自然災害が起こるのですが、そのたびに裏でコミュニティが動いて、情報共有したり、現地で支援しています。しかも土木建築の人ではなく、ITの人が意思を持って、継続的に活動するようになったんです。

最近のこうしたコミュニティは、あらかじめ備えておくのではなく、災害に対して即応性の高いチームを作ってしまおうという発想に切り替わっています。災害対策って、お金をかけて備えるイメージありますが、未知の災害に対しては対応が難しい。ですから、災害が起こったら、メンバーで話し合って、すぐにシステムを作るという流れになっています。ITを使えば、時間と場所関係なくコミュニケーションできるし、クラウドのようにリソースを瞬時に増やすことも可能です。

大谷:まさにクラウドが災害×ITの分野にも恩恵をもたらしているのですね。では、こうしたITコミュニティと自治体の関係は変わってきたんでしょうか?

松本:たとえば、昨年の台風のときは、防災科学技術研究所が千葉県の災害復旧支援に入り、県や各通信事業者、電力会社が集まり、すべての情報を共有して、一元的に見られるシステムを構築していたようです。この手の取り組みは広島県での災害が起こりだとは聞いてますが、持っている情報を全部かき集めて、関係者で共有しようという試みです。

大谷:災害時の情報共有体制って毎年、課題として上がってきますよね。

松本:災害関係の情報って、情報元ごとにフォーマットはバラバラだし、出てくるサイクルも違います。今は国や自治体だけではなく、個人も多くの情報を持っています。これらのデータを横断的に解析するのはとても大変です。その意味で、千葉県の情報共有の取り組みは先進的だと思います。

そもそも異なる組織同士が対外的に出せない情報を出し合うのも大変ですし、普段から馴染みのない第三者に情報を共有するというのも、やはり抵抗感があるのだと思います。信頼感の課題は一日では解決できません。災害系のコミュニティの一部が法人化していったのもそういった流れもあったのかもしれません。

大谷:私が取材した限りだと、交通情報や天気情報は専門のセンターが一元的に情報を管理していますが、災害情報はバラバラでなかなかまとめられないと聞きますよね。

松本:日本は法規制等もあり、一般の人がいわば野良センサーで天気や災害の情報を共有していくのが難しいと聞いています。衛星データに関しても日本の法規制等があって、ある一定の粒度以上細かくは見られませんし、リアルタイムでも一般にはデータ公開がなされていません。

とはいえ、行政も変わりつつあります。最近、国土交通省は河川の監視カメラを拡充するプロジェクトがはじまっています(革新的河川技術プロジェクト)。事の起こりは、大規模水害が発生した時、「もっと情報をリアルタイムに出せないのか!」という声が行政に対して高まったからだと聞いています。

そこで新たな取り組みとして、今まで河川の監視に用いられるカメラの耐久年度や動作環境のスペック条件を緩和し、多くの監視カメラを設置する試みを始めたようです。これらをオープンデータとして用いることで、もっと災害に対してリアルタイムに有効な情報共有ができていくことを期待しています。

大谷:インフラの災害復旧も、かなり迅速になった気がしますね。

松本:災害復旧という意味では、通信業界がやはり大きく貢献しています。通信できないと、自衛隊や消防団も含め、復旧作業自体にも大きな支障が出ます。3・11のときは復旧作業の体制も未整備だったし、移動基地局や電源車などもそれほど台数があったわけではありません。車に無理矢理アンテナ乗せて、いわば仮設の移動基地局として現地に赴いた通信事業者の友人もいました。移動先は東北地方だったし、原子力災害が発生している中、その情報がまったく把握できていない状態にもかかわらずです。

でも、昨年の台風の例で見ると、たとえばソフトバンクさんとかは2日前に災害対策本部を立ち上げ、7日間のべ3000人以上の体制で通信インフラの対策をしています。移動基地局や電源車に関しても相当な投資しています。「災害は起こって当たり前」という感覚が、いろいろな会社に浸透してきた気がします。

台風19号での通信事業者の通信インフラ対策例(松本氏の「インターネットを用いたニア・リアルタイムでの災害観測の考察」より抜粋)

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