「安価に、速く、セキュアに」というユーザーのわがままに答える
フルMVNOだから実現できた月額基本料12円のさくらのセキュアモバイルコネクト
2018年03月14日 07時00分更新
さくらインターネットのデータセンターにモバイル接続できる「さくらのセキュアモバイルコネクト」。月額基本料12円という圧倒的なコストメリットを生み出すサービスの概要とそれを実現したフルMVNO開発の背景についてさくらインターネット IoT事業推進室 室長 山口亮介氏に聞いた。
他社のサービスを凌駕する高いコストメリット
さくらのセキュアモバイルコネクトは「さくらのクラウド」の一機能として提供されるモバイル接続サービス。今までさくらのクラウドはインターネットや専用線でアクセスする必要があったが、さくらのセキュアモバイルコネクトにより、LTEの閉域網経由でさくらのデータセンターの内部ネットワークに直接つなぐことができる。「無線網でデータセンターのコンピューティングリソースを使えるという新しい取り組みです」と山口氏は語る。
サービスで提供されるSIMはソフトバンクのLTEエリアで利用できるデータ通信専用SIMで、SMSの機能もない、IoT/M2Mに特化したものだ。提供されるSIMは、マルチサイズSIMとチップ型SIM(MFF2)の2種類が用意されているが、価格も値段も内部構造も基本的には同じ。「組み込み用のチップ型SIMは製造ラインでだれかがスロットに挿すという手間はなくなるし、振動や熱にも強いと言われています」とのことで、デバイスに組み込むことを想定しているという。
さくらのセキュアモバイルコネクトで特徴的なのは料金体系だ。初期費用としてかかるSIMは1枚あたり2160円なので、こちらは普通。ただ、基本料金がSIM1枚あたり月額12円しかかからず、専用に用意されるネットワークの利用料も月額6480円と他の通信事業者に比べて圧倒的に安価だ。「ネットワーク利用料はSIM単位ではなく、お客様専用のネットワークとしてお支払いいただくのですが、500MB分の通信料も含んでいます。超過すると1MBあたり6円かかりますが、500MB以上の通信が発生しなければこれ以上費用はかかりません」(山口氏)。
たとえば、100台のデバイスが1台あたり5MB通信する場合、ネットワーク利用料に含まれている500MBに収まるので、月額利用料は1台あたり76.8円で済む。山口氏は「ほかのサービスだとここまでお手頃な料金は難しいはず。しかも、インターネットではなく、専用ネットワークに直結する場合は圧倒的な価格差が出ます」とアピールする。
圧倒的な価格メリットと自由度はフルMVNOだからこそ
こうした圧倒的な価格メリットを出せたのは、LTEのコアネットワークであるEPC(Evolved Packet Core)のうち、PGW(Packet Data Network Gateway)とHSS(Home Subscriber Server)をさくらインターネットが自社のインフラに実装し、国内初のフルMVNOとしてサービスを展開しているからだ。「同時期に始めたsakura.io(旧称:さくらのIoTプラットフォーム)のときも、われわれはキャリアになれるのか?という議論が社内にありましたが、投資的に難しいという結論になりました。でも、いろんな方法を考えた結果、優秀なエンジニアを集めて、EPCを自前で開発するという選択に至りました」と山口氏は振り返る。
フルMVNOなので、無線基地局の運用以外の顧客管理や課金に加え、認証、コアネットワークまでをすべてをさくらインターネット側で担っている。そのため、SIMにはさくら独自のICCID(識別番号)とローミングスポンサーから借りたIMSIも付与される。「他社はMNOからMVNOへの卸売り料金の関係があるので、どこのMVNO業者も月額100円を切ることは難しいと思います。でも、われわれはEPCを自前のインフラ上に構築しているので、お客様にそのコストを転嫁する必要がありません。ここも強みです」と山口氏は語る。
サービスの自由度も高い。「たとえば、SIMのアクティブ化・非アクティブ化の切り替えをコントロールパネルから瞬時に行なえます。他社はキャリアのシステムを外部から利用する形なので一定の時間がかかってしまいますが、さくらはユーザーの管理情報を自社で保持しているため、パッケージを空けて、コントロールパネルでオンラインにした瞬間からすぐに通信できますし、盗まれた場合も瞬時に止めることができます」(山口氏)。今後はOTA(SIMの情報をネットワーク経由で書き換えて、機能、接続先の追加変更を行う)にも対応して、SIMを別のキャリアに乗り換えられるようにしたり、海外キャリアとのローミングも進めて行く。「われわれ自身が海外のキャリアと直接ローミング交渉できるので、フルMVNOになったほうが海外展開はしやすいのではないかと考えています」(山口氏)。
同時期にスタートしたsakura.ioとはコンセプトが異なる
さくらのセキュアモバイルコネクトが生まれた背景には、IoT通信に対してのユーザーの「わがままな」要望があったという。山口氏は、「お客様に聞くと、『たまにしか通信しない』『でも通信するときは高速でやりたい』『お金はあまり払いたくない』『セキュリティは強固で当たり前』みたいなリクエストが出てきます。正直わがままですよね(笑)。そんなサービス、当初は難しいよなと思っていたのですが、われわれがsakura.ioで培ってきたセキュアな通信と、今回開発したフルMVNOを実現するを組み合わせることで実現できると考えたわけです」と語る。
一方、同時期にスタートしたsakura.ioとは、コンセプト面で大きな違いがある。「sakura.ioは電気信号を通信モジュールに食わせると、API経由でJSONが出てくるというシステム。IoTに必要な「つなぐ」「保存する」「利用する」などの機能をパッケージ化して、さくらのサービスだけでなく、他社のクラウドサービスを利用する前提で提供しています。一方、さくらのセキュアモバイルコネクトはあくまで通信。早くて、安くて、セキュアというIoTの通信のみを提供するサービスです。データの使い方まで踏み込んで提案するsakura.ioと、既存システムとつなげるさくらのセキュアモバイルコネクトではコンセプトが全然違うんです」と山口氏は語る。
逆にsakura.ioと共通しているのはセキュリティ。他社のIoT通信サービスがインターネット接続を前提としているのに対し、さくらのセキュアモバイルコネクトやsakura.ioは閉域網接続。現時点ではSIM間の通信もできない仕様だ。「IoTってInternet of Thingsの略ですが、僕らはインターネットにダイレクトにモノをつなげること自体は歓迎するものの、それが無防備な状態でつながるかもしれないことに関してはむしろ憂慮しています」(山口氏)とのことで、sakura.ioもさくらのセキュアモバイルコネクトも、インターネットを介さず、データセンターに直結し、コンピューティングリソースを使えるという点は同じだ。「IMEIロックは無料で提供しており、セキュアにしたいという要望にはとことん応えていきます」と山口氏は語る。
接続先もSIMの登録もさくらのコンパネから簡単に設定できる
システム構成はさくらの中でシステムが完結しているプライベートな使い方のほか、インターネットに接続したり、さくらのVPSや専用サーバー、コロケーションのサーバーとつないだり、VPNルーターを契約してAWSやAzureなどの外部クラウドとつなぐという構成も可能。「いずれにせよ、システムの構築はこれまで通りわれわれは手を出さないので、パートナーにお任せします」ということで、さくらはあくまで通信やコンピューティングリソースなどのインフラに専念する。
キモになるのは、LTE網とさくらのデータセンターを中継する「モバイルゲートウェイ」だ。これを使うことで、複数のプライベートネットワークにルーティングしたり、インターネットにつなぐことが可能になる。その他、どのSIMをどのネットワークに接続できるかを設定したり、SIMのIPアドレスを指定でき、柔軟なシステム構成が実現する。
モバイルゲートウェイの実体は、さくらのクラウド上に構築されたPGW(Packet Data Network Gateway)で、パケット転送やモバイル端末へのIPアドレスの付与、接続・切断処理などを行なっている。現状、1台のモバイルゲートウェイにつなげるSIMは200枚、1アカウントに登録できるSIMを500枚といった感じに制限しているが、ハードウェア的な限界ではないという。「1000台のデバイスをぶらさげたいという、大規模な場合はご相談を頂きたいという感じです。検証では1万枚程度のSIMを登録しても大丈夫です」(山口氏)。
さくらのクラウドのコントロールパネルには、すでにセキュアモバイルコネクトのメニューが組み込まれている。そのため購入したSIMを登録して、モバイルゲートウェイとインターフェイスを作り、接続先のプライベートインターフェイスをアタッチすれば設定完了。SIMの追加もコントロールパネルから容易に行なえるという。
具体的な用途としては、監視カメラが挙げられる。動画や音声を送る用途で格安SIMを使うと、利用時間によっては通信速度が遅く送れなかったり、あっという間に速度制限がかかるが、さくらのセキュアモバイルコネクトではそういった心配はない。「動体検出したらデータを上げるみたいな用途であれば、コスト的にもメリットが出ます。急制動や急ハンドルを検出するとデータを上げるドライブレコーダーも似たような感じで使えると思います」(山口氏)。
自販機のように数が多く、コストを下げたい、セキュリティは妥協したくないというニーズにもフィットしそう。また、この価格であれば、単純なデバイスの死活監視にも利用できる。「月額基本料が12円なので、10年でもデバイスあたり1500円くらいで済みます。今後は家電のバックネットワーク用に組み込んでおいて、DIAG(診断)だけ定期的に送るみたいな用途も考えられると思います」と山口氏は語る。いずれにせよ、今までさくらのお客様ではなかったところから問い合わせが来ているという。
(提供:さくらインターネット)