数ラック規模でも高密度/大容量電力に対応、オンデマンドHPCのエクストリーム-Dが第一号顧客
デジタル・リアルティ、大阪第二DCでコロケーションサービス開始
2020年02月13日 07時00分更新
データセンター事業者のMCデジタル・リアルティは2020年2月12日、大阪第二データセンター(KIX11)において、エンタープライズ向けソリューション「PlatformDIGITAL」およびコロケーションサービスの提供を3月より正式開始すると発表した。両サービスの提供はAPAC地域で初めてとなる。また、KIX11における両サービスの第一号顧客として、オンデマンドHPC/スパコンサービス事業者であるエクストリーム-Dが発表されている。
同日の記者説明会では、MCデジタル・リアルティ側からKIX11や新サービスの特徴と狙いなどが説明されたほか、ゲスト登壇したエクストリーム-D 代表から新サービスへの期待が語られた。
数ラック程度の小規模なユーザーにも高密度対応インフラを提供
MCデジタル・リアルティは、データセンター施設の開発/運用に特化したREIT(不動産投資信託)事業者である米デジタル・リアルティ・トラストと三菱商事の合弁会社。親会社はグローバル14カ国に210カ所以上のデータセンター施設を所有しており、サービス提供する延べ床面積は340万平米。顧客数は2000社以上で、エンタープライズだけでなくハイパースケーラーのニーズにも対応する大規模なスケーラビリティとコネクティビティ(接続性)を特徴とする。
日本市場への進出は2017年開設の「大阪第一データセンター(KIX10)」が皮切りで、現在は東京と大阪に合計4カ所のデータセンターを運営している。昨年6月にはKIX10と同じキャンパス内(大阪府茨木市、箕面市)で、4階建/延べ床面積2万3000平米、供給IT電力容量が最大28MWのKIX11を提供開始した。
今回はこのKIX11において、APACで初めてとなるPlatformDIGITALとコロケーションサービスを提供すると発表した。正式提供開始は2020年3月から。
PlatformDIGITALは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する顧客企業向けに、データセンタースペースの提供にとどまらないさまざまなデータセンターサービスを体系化したプラットフォームである。すでに昨年末から北米での展開を開始しており、今後グローバルで共通のサービスを展開していく。今回はKIX11においてこのPlatformDIGITALに対応し、「ネットワークハブ」「コントロールハブ」「データハブ」「SXファブリック」という4つのソリューションを提供する。
ネットワークハブは、多様なアクセスネットワークとITインフラ間を結ぶトラフィックの統合ポイントを、顧客がビジネス展開する市場の近隣データセンターにおいて提供し、ネットワークパフォーマンス/コストを最適化する。コントロールハブは、データやITインフラに対するセキュリティとコントロールを一元化する。データハブは、データの蓄積(データレイク)や統合、分析、管理といった機能を提供して、データエクスチェンジを最適化する。そしてSXファブリックは、マルチクラウド/データセンター間でオーバーレイSDNを提供し、グローバルに分散するワークフローの相互接続を実現する。
MCデジタル・リアルティ COOのクリストファー・ハン氏は、PlatformDIGITALの利用によって「単一のグローバルデータセンター事業者を利用することで、カバレッジやキャパシティなどの課題を解消するとともに、エコシステムとの相互接続が可能になる」と述べ、顧客のデジタルビジネス価値を高める狙いを持つソリューション群だと説明した。
もうひとつのコロケーションサービスは、同社が「リテール」と呼ぶ、従来よりも小規模な数ラック単位での利用を可能にするもの。KIX11内のコロケーション専用データホールを使って提供するが、キャリアニュートラルなネットワークやクロスコネクト、52Uラック/高密度サーバー実装に対応する電源/床耐荷重、ラック周辺業務を代行するリモートハンドサービスなどは、上位サービスと同様のスペックで提供される。
これまでAPAC地域の同社データセンターにおいては、ハイパースケーラーやクラウド事業者など、同社が「スケール」と呼ぶ数十ラック(ケージ)~数百ラック(データホール)以上の、大規模な利用に特化してビジネスを展開してきた。今回のコロケーションサービス提供開始により、ベンチャーなどによるスモールスタートも可能にする。
「今回の発表では『高密度』が一番の売りになるかもしれない。大阪地域でこうした数ラック、数十ラック規模でデータセンタースペースを借りる場合、高密度/大容量電力に対応したデータセンター事業者は少ない。デジタル・リアルティの場合、ハイパースケーラーやクラウド事業者向けの設計から始まっているので、数ラックであっても大容量電源と高密度設置に対応できる」(CMO 伊藤氏)
スパコンの共有サービスベンチャー、スモールスタートできる利点を評価
このKIX11で展開するコロケーションサービスについて、オンデマンドHPCサービスを展開するエクストリーム-Dが第一号顧客として採用を決めたことも発表された。ゲスト登壇したエクストリーム-D 代表取締役社長の柴田直樹氏は、今回のサービスを利用して提供する「XTREME-Stargate」のサービス概要や、デジタル・リアルティを選択した理由、今後のサービスに対する期待などを語った。
2015年設立のエクストリーム-Dは「スーパーコンピューターのシェアリングサービス」を開発、運営するベンチャー企業だ。当初はパブリッククラウドを利用した仮想スパコン構築自動化サービスからスタートしたが、2018年10月には物理サーバーを使用したXTREME-Stargateサービスを発表し、2019年11月から本番提供を開始している。
XTREME-Stargateは、データセンターに設置されたスーパーコンピューターを、タイムシェアリング方式やマネージド/占有方式でユーザーに提供するサービスである。利用状況を可視化するダッシュボードや、ディープラーニング/機械学習開発支援のフロントエンドなどを備えたプラットフォームがあり、「コンテナ技術を使って、アプリケーションをすぐにスーパーコンピューター上で実行できる」環境を提供する。
XTREME-Stargateは製造業、国立の研究機関などですでに使われているほか、最近ではディープラーニング/機械学習用途で大量の計算リソースを必要とする企業の需要にも応えているという。こうしてより多くの物理サーバーリソースが必要になってきたため、次世代(第3世代)サービスの提供において、2020年4月からデジタル・リアルティのデータセンターを利用することになったという。
デジタル・リアルティのデータセンターを選択した理由について、柴田氏は「大きく4つある」と説明した。スーパーコンピューターを設置するうえで必要な高密度ラックや大容量電源のインフラ、サービスのグローバル展開において求められる各国で均一化されたファシリティ/サービス、サービスの成長に応じて拡張していけるコロケーションサービス、「データセンターファシリティそのものをAPI化する」PlatformDIGITALの存在、という4つだ。
「コロケーションサービスを通じて、われわれのようなベンチャーでも、デジタル・リアルティのような大型で高品質なデータセンターを利用できる。またPlatformDIGITALによって、API経由でサーバー(スーパーコンピューター)とファシリティを一体のシステムとしてサービス開発できるのでは、という期待もある」(柴田氏)
千葉県にも新データセンター建設、関東でもコロケーション提供予定
デジタル・リアルティでは、今後もさらにデータセンター施設を拡張していく計画だ。
まず大阪キャンパスでは、現在のKIX10、KIX11に続いて、KIX12、KIX13という2施設の建設が予定されている。伊藤氏は、これらの施設はすべて相互に高速ネットワーク接続され、キャンパス内のどの施設でも「同じデータセンタースペースにいるかのように利用できる」ようになると語った。
また関東圏では、2021年9月のサービス提供開始をめどに、千葉県印西市(千葉ニュータウン駅)に新キャンパス「NRTキャンパス」を建設中だ。新設されるデータセンター(NRT10)は36MWのIT電力容量を持ち、大規模(スケール)顧客向けのPODサービス、小規模(リテール)顧客向けのコロケーションサービスを提供する予定。エクストリーム-Dの柴田氏は、NRT10のコロケーションサービスが提供開始されれば、こちらも利用を検討したいと話した。