従業員と経営陣の距離を縮めるが
長期債務を減らすためにリストラを敢行
話をWhitman氏に戻す。Apotheker氏の1年で、HPのバランスシートはかなり痛んでしまった。2008~2014年における資金の流動性をまとめたのが下表である。
| 2010年の業績 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年度 | 現金および 現金等価物 |
負債 | 借入可能金額 | |||
| 2008 | 102億ドル | 179億ドル | 117億ドル | |||
| 2009 | 133億ドル | 158億ドル | 181億ドル | |||
| 2010 | 109億ドル | 223億ドル | 138億ドル | |||
| 2011 | 80億ドル | 306億ドル | 146億ドル | |||
| 2012 | 113億ドル | 284億ドル | 174億ドル | |||
| 2013 | 122億ドル | 226億ドル | 178億ドル | |||
| 2014 | 151億ドル | 195億ドル | 178億ドル | |||
2011年にAutonomy買収に絡んで手持ち資金が30億ドル近く減り、負債が80億ドルほど増えた計算になる。そしてAutonomyのビジネスでこれが埋められる可能性はゼロ、という話は上で説明した通りであり、危機的な状況とは言えないまでも、財務的には脆弱さが増した結果になっている。したがって、まずは長期債務を減らしながら手持ち現金をかき集める作業が必要になる。
とはいっても一発逆転を狙うのは取締役会的にも許容できないだろうし、Whitman氏もそういう性格ではなかった。結果としては、地道に稼ぐというごく当たり前の路線にするしかなかった。
長期的な展望の前に、まずは稼ぐ力をつける必要があるということで研究開発向けの支出を増やすことを決める。2010年における同社の研究開発費用は、売上高の2.6%に過ぎない。
昔はもっと多かったのだが、特にFiorina氏以降ではこの研究開発費用がどんどん減らされており、長期的に稼ぐ力を失いつつあった。まずはこれを充実させることを決めている。
またFiorina氏時代~Hurd氏時代~Apotheker氏時代のほぼ11年の間に、社内の文化的土壌がほぼ壊滅してしまった事を憂慮してか、その一部を多少なりとも取り戻すべく、若干ではあるが昔のやり方を復活させた。例えば上級幹部を個室から、パーティションで区切ったオフィスに移動させたのもその一例である。
かつてのMBWA(Management By Walking Around:歩き回る経営)までは行かないにしても、もう少し従業員と経営陣の距離を縮めるところからスタートさせよう、というわけだ。
ただ、2011年10月末のHPの従業員は34万9600名に達しており、この固定費だけでも洒落にならなかった。結局2012年5月、最大で2万9000人(のちに3万4000人に上方修正)を2014年末までに削減するというリストラプランを発表せざるを得なかった。
上の表にもあるが、まずは長期債務を減らすために固定費を減らさざるを得なかったのは、致し方ないところであろう。ちなみに2014年に追加され、最大で5万5000人が削減されることになっている。
問題は、この後も目立った新戦略や新機軸を打ち出せなかったことだろうか。そうはいっても2014年までに手持ち資金を70億ドルあまり増やし、その一方で負債を100億ドル以上減らしているわけで、傷んだバランスシートの手当てという最大の課題はきちんとこなした形になる。ただ、それ以上のことはできなかった。

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