前回の記事を読んで「だからHPのモニターが安売りしてるのか」というコメントがあったが、さすがにそれは気が早すぎる。というか、「ハードウェアから撤退し株価急落」という見出しがやや扇情的過ぎたのがまずかったかもしれない。撤退のプランはApotheker氏解任直後に撤回されたからだ。
Apotheker氏がCEOを解任
ハードウェア撤退を撤回する
Apotheker氏は2011年9月22日に解任されたが、同じ9月22日にHPの取締役会はeBayでCEOを務めていた経験のあるMeg Whitman氏を後任のCEOとして任命する。
もともとWhitman氏は2011年1月から取締役会に籍を置いており、取締役会としてはApotheker氏の退任後、空白の期間を置くとHPの立て直しが非常に困難になると考えたのであろう。
このCEO交代に関してのCNNの取材に対し、会長のRay Lane氏は「我々は危機的な状況にあり、今後も市場を失わないための戦略を実行するための、新たなリーダーシップが必要である」と述べている。
HP自身がもう少し安定している状況であれば、とりあえず暫定CEOを立てて従来の戦略を遂行していきながら、その間に次のCEOを探すといったこともできたのだろうが、Apotheker氏の戦略が失敗だったのは明白であり、その戦略を継続することは傷口をさらに広げることになると判断したのだろう。
単なる社外取締役から突如としてCEO兼社長に昇格したMeg Whitman氏であるが、Apotheker氏の戦略を破棄して新たな戦略を立て直すべく、最初に行なったのがPSG部門分離の撤回である。
これは妥当な対処であった。なにしろ2011年末の段階で、HPは世界最大のIT企業になっており、PC・サーバー・プリンターのすべての部門で売上高No.1という位置づけにあった。連載543回でも出した数字であるが、2010年の業績は下表のとおりで、確かにPSG(Personal System Group)は他に比べて利益率が悪いのは事実だが、そのぶん売上も多いわけである。
2010年の業績 | ||||||
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部門 | 売上 | 営業利益 | 営業利益率 | |||
IPG | 257億6400万ドル | 44億1200万ドル | 17.1% | |||
HPS | 349億3500万ドル | 56億900万ドル | 16.1% | |||
PSG | 407億4100万ドル | 20億3200万ドル | 5.0% | |||
ESS | 186億5100万ドル | 24億200万ドル | 12.9% |
またHPS(HP Services)は利益率は悪くないが、IPG(Imaging and Printing Group)よりも利益率が低いというあたり、サービスにすれば利益率が上がるか? と言えばこれも疑問が残るところである。
そのあたりをもっとサービス寄りにすべく、Apotheker氏はAutonomy Corporationを買収したのだろうが、買収翌年の2012年5月にMike Lynch氏(Automony Corporationの創業者兼CEOで、HPの買収後はHP AutonomyのCEOを務めていた)は解任され、そして2012年11月にはAutonomy買収にあたり重大な会計上の不正があったとし、このために88億ドルの費用が発生することを明らかにしている。
要するにAutonomyには117億ドルの価値はなかった(単純に言えば29億ドル相当?)ため、差額を会計処理(損金として計上)するという話である。
さすがにこれは詐欺事件にあたるとして英SFO(Serious Fraud Office:重大不正捜査局)の他に、米SEC(証券取引委員会)とFBIの共同チームが捜査に乗り出す。
SFOの方は、立件しても検察が勝訴する可能性が低いということで2015年に捜査を終了するが、米国の方はHPの株主によって提訴されたほか、最終的に2018年にまずAutonomyの元CFOが会社詐欺の容疑を認め、この結果Lynch氏も詐欺罪で起訴されている。
そんな感じなので、買収したAutonomyの資産やソフトウェアが大したビジネスにならなかったのも当然ではある。HPはAutonomyの扱いをだいぶ苦慮したようで、あちこちのビジネスユニットを転々とした挙句、2016年に主要なサービスと製品をOpenTextという会社にわずか1億7000万ドルで売却してしまう。
Apotheker氏が1年未満で解任されたのも、110億ドルをドブに捨て、時価総額を300億ドル下げたという結果から考えれば実に妥当な処置だった、とは言える。
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