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国内本格展開開始から半年で「案件は倍増」、パートナー強化でさらなる事業拡大を目指す

データ復旧のオントラック、従来比4倍の能力を持つ新ラボを東京に開設

2019年11月29日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 データ復旧サービスの世界大手であるKLDiscovery Ontrackの日本法人、オントラック・ジャパン(OTJ)は2019年11月29日、東京・日比谷の新オフィスへの移転にあわせ、従来のデータ復旧ラボを拡充した新施設「OTJエンタープライズDRラボ」を開設したことを発表した。12月2日より本格始動する。

 「新しいラボでは、これまでの東京ラボのおよそ4倍となるデータ復旧作業能力を提供できる」と説明するのは、アジア地域の統括ダイレクターであるチェン・クォック・リー氏だ。ラボ見学と同時に、新しいラボの特徴や日本市場でのビジネスの現況などをリー氏に聞いた。

KLDiscovery Ontrack(ケーエルディスカバリ・オントラック) アジア地域統括ダイレクターのチェン・クォック・リー(Chen Kwok Lee)氏

新施設「OTJエンタープライズDRラボ」。HDDの開封作業を行うクリーンルーム作業用ワークベンチ、ドライブイメージ抽出を行う独自開発のツール/機器群、数十年前の規格にも対応するテープドライブ群などを備える。同社は国内唯一のアップル認定データ復旧プロバイダーでもある

月間350~500件のデータ復旧案件を処理可能、さらに「データ移行」支援も強化

 オントラックは1985年に設立され、1987年から30年以上にわたってデータ復旧サービスを手がけてきた会社だ。現在は、eディスカバリ/フォレンジックのビジネスを手がけるKLDiscoveryと統合し、22カ国でビジネスを展開している。

 今回のOTJエンタープライズDRラボ新設の狙いについてリー氏は、日本はアジアで一、二を争うマーケットであり、日本のビジネスをさらに拡大していくために「市場により近い場所で顧客をケアするサービスを提供したい」と考えたからだと語る。

 新しいラボでは、オントラック独自開発のイメージ抽出ツール/機器を24台備えており、最大で100以上のメディアを同時作業することができる。大量のデータ復旧やデータ移行を行う、エンタープライズからの大型案件にも対応可能だ。なお、機密性の高い情報を扱うeディスカバリ/フォレンジック作業のためのラボは、このラボとは別の部屋に隔離されている。

 「新しいラボではこれまでのおよそ4倍、最大で月間500件のデータ復旧案件をこなすことができる。最新技術を導入しており、アジア地域のオントラックで最も効率の良いラボだ」(リー氏)

 オントラックのビジネスは「大きく分けて3つある」とリー氏は説明する。「データ復旧」「エンタープライズ復旧」「データ移行」の3つだ。

 まずはベーシックなデータ復旧である。主にはドライブレベルでの障害(物理障害、論理障害)により読み出せなくなったデータを復旧するビジネスだ。オントラックではグローバルな知見を生かして独自開発した復旧ツール/機器を多数保有しており、HDDだけでなくSSD、テープ、USBフラッシュメモリ、SDカードなど多様なメディアからのデータ復旧に対応している。

 リー氏は、この領域ではウエスタンデジタル(WD)/サンディスク、日立、アップル、デル、HPなど多数のITベンダーとグローバルパートナーシップを結んでいると説明した。オントラックとして直接顧客にサービス提供を行うだけでなく、他社から依頼されて“裏方”としてデータ復旧を行うケースも多い。独自技術を持つオントラックでしかデータ復旧できないこともあるからだ。特に最近では、データ復旧の難しいSSDの作業依頼が増えているという。

物理障害のあるHDDを分解しプラッタを取り出しているようす。物理的な対処を行った後はイメージ抽出を行い、論理解析やデータ修復作業はこのクローンイメージを使って安全に行われる

SSDやUSBメモリといったフラッシュドライブのデータ復旧も手がける。基板上のコントローラー故障の場合は、フラッシュチップを取り外して直接イメージを抽出する。ただしファームウェアの違いでチップへの記録方法も変わってくるため、相応の知見が必要だとラボ担当者は語る

「T2セキュリティチップ」を搭載したMacBookからのデータ復旧にも対応する。マザーボードからSSDを取り外すとデータがワイプされてしまうが「独自に研究開発したツールでデータ抽出を可能にした」(担当者)。またスマートフォンのデータ復旧にも対応

今回の新ラボではテープメディアへの対応を強化、メインフレーム時代からの多様なドライブを用意している。ドライブに巻き込まれ損傷したテープからのデータ復旧も対応する

 さらに高度な知見を要するのが、次のエンタープライズデータ復旧だ。これはエンタープライズ向けストレージアレイのRAID、SANストレージ、さらに仮想化環境やデータベース、メールサーバーといったレイヤーで生じた障害に対応するものである。

 この領域でオントラックは、Dell EMCやネットアップ、IBM、日立などのストレージベンダー、さらにヴイエムウェアやオラクル、マイクロソフトなどのソフトウェアベンダーとパートナーシップを結んでおり、相互に技術協力を行っている。

 「エンタープライズ復旧の場合は、RAID/ストレージ/仮想化/アプリケーションという4つのレイヤーが重なっており、構造がとても複雑だ。さらに、たとえば同じベンダーでもストレージ製品ブランドごとに記録方式が異なり、復旧の方法も異なるといった難しさもある」(リー氏)

 そしてもうひとつ、日本市場で大きな期待をかけているのが、データ移行のビジネスだ。“2025年の崖”と指摘されるとおり、特に日本ではレガシーシステムからの移行と刷新が強く求められている。また他方ではデータ活用への期待が高まっており、これまでテープなどで“塩漬け”にされていたデータをビジネス活用できる状態にしたいというニーズもある。

 「アジア市場全体の動きとして、クラウドベースのテクノロジーを活用するためにクラウドへ移行しよう、という方向に向かっている。ただしその中で、日本の動きは少し遅い。この遅れを打開するために、日本では特にSIerともパートナーシップを組んで、古いシステムから新しいシステムへのデータ移行を手伝いたいと考えている」(リー氏)

ストレージメーカーやSIerなど「パートナーとの協業」戦略は変わらない

 「オントラック」のブランドを前面に打ち出したビジネスの本格展開は、日本市場ではまだ今年の6月からスタートしたばかりだ。だが、それから6カ月の間に案件数は2倍に伸びたとリー氏は語る。

 「現在、国内のストレージ関連メーカーと新たなパートナーシップについての交渉も進めており、2020年はさらに今年の2倍へと成長するものと見込んでいる」(リー氏)

最近手がけた事例として、ラボ担当者は火災に遭ったNASを見せてくれた。「ここからHDDを取り出しデータは100%復旧できた」。また今年は、台風19号の被害を受けたストレージも多数持ち込まれたという

 そして前述のとおり、国内のSIerとのパートナーシップも強化していく。特に日本企業はITに関して“SIerまかせ”の部分が大きく、他国のユーザー企業との情報ギャップが生じている。そこでデータ復旧もデータ移行も、まずはSIerに「オントラックならば何ができるのか」を知ってもらい、それによってユーザー企業にも情報を広めていくことが大切だと、リー氏は説明する。

 「オントラックの戦略はどの国においても変わらず『パートナーと協力してやっていくこと』。グローバルパートナーのベンダーとも、日本市場であらためて協力関係を構築、強化して、日本市場でのビジネスを拡張していく方針だ」(リー氏)

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