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意思決定者の9割はデータ活用を重要視、ただし「データ主導の意思決定」「人材育成」の実態は立ち後れ

Qlikが企業データリテラシー調査、期待と現実の落差を示す

2018年11月06日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 クリックテック・ジャパン(Qlik)は2018年11月5日、同社が実施したグローバル企業調査「データリテラシー指数(Data Literacy Index)」の結果を発表した。

 この調査は「データリテラシーのスキルセット(人材)」「データ主導の意思決定」「データ活用の拡散度(幅広い部署でのデータ活用)」という3つの観点から、企業が意思決定のために必要なデータとデータ活用能力をどの程度備えているのかをスコア化したもの。レポートでは企業業績との相関、従業員のデータリテラシー向上支援、国別/産業別の結果などが分析、考察されている。

「企業データリテラシー指数」のスコアは「データリテラシーのスキルセット」「データ主導の意思決定」「データ活用の拡散度」という3要素のスコアを合算したもの

 同調査では、日本企業のデータリテラシー指数(中央値)が調査対象国の中で最も低かったことも指摘されている。記者説明会に出席した同社 カントリー・マネージャーの北村守氏は、グローバルと国内の調査結果に基づく日本企業の課題を考察するとともに、企業ビジネスにおけるデータ活用を支援するデータリテラシープロジェクトの取り組みについて紹介した。

クリックテック・ジャパン カントリー・マネージャーの北村守氏

「データリテラシーの高い従業員」は欲しいが「高い給与を支払う意思」はない?

 同調査は、Qlikがウォートン・スクールとIHS Markitと連携し、従業員数が500人以上のグローバル企業の意思決定者に対してアンケート調査を実施したもの。10カ国の企業意思決定者604名が回答した(日本からは55名が参加)。Qlikによると、個人ではなく「企業」を評価対象としてデータリテラシーをスコアリングした調査は世界で初めて。調査レポートPDFはデータリテラシープロジェクトのサイトでダウンロードできる。

訂正とお詫び:掲載当初、発表会での説明内容に基づき調査対象国数を「50カ国」としていましたが、上記のとおり「10カ国」の誤りでした。(2018年11月12日)

 まず、調査結果の分析から「データリテラシーが企業の業績を底上げする」ことが指摘されている。具体的には、データリテラシー指数が上位3分の1に入っている企業は、その他の企業比で企業価値(株式時価総額)が3~5%高かった。大企業の場合、これは3億2000万~5億3400万ドルも企業価値が高い計算になる。さらに粗利益、資産収益率、配当、利益率など、他の業績指標においてもすべて正の相関を示した。

 ただし北村氏は、企業の意思決定においてデータ活用の現状について「世界中、どの国においてもまだスコアは低い」結果だったと総括する。

 企業意思決定者の93%は「データが自らの業界にとって重要」だと考えており、同様に98%が「自社の現在の意思決定にとって重要」、92%が「従業員のデータリテラシーは重要」であることを認識している。しかしながら、企業としてデータリテラシー指数を向上させるための具体的な取り組みは、現実として立ち後れていることが明らかになっている。

 たとえば「データリテラシーの高い従業員を雇う計画がある」と答えた企業は全体の約3分の2(63%)に及んだが、実際に現在「データリテラシー研修を実施している」企業は34%、「データリテラシーの高い従業員に高い給与を支払う意思がある」企業は36%にすぎない。従業員に対して「データリテラシーを高めるよう強く奨励している」企業に至っては17%の低率だった。

 またデータ主導で意思決定を行う、という企業文化もなかなか根付いていない。前述のとおり意思決定者がデータ活用に対して大きな期待を抱いている一方で、実際に「過去5年間にデータ活用の方法を大きく変革した」企業はわずか8%にとどまっている。

最下位の日本企業、心がけるべきは「多様な部署でのデータ活用」

 国別の調査結果を見ると、調査対象国中で企業のデータリテラシー指数(中央値)が最も高い国はシンガポール(84.1ポイント)だった。ほかにAPAC地域ではインドが76.2ポイント、オーストラリアが72.4ポイント、日本は最下位の54.9ポイントだった。

調査対象の10カ国中、企業データリテラシー指数が最も高かったのはシンガポール、最も低かったのは日本(画像はレポートより)

 北村氏は、日本企業のデータリテラシー指数が低かった理由について、前述した3要素のうち「データ活用の拡散度」が特に低く、これが他国との大きな差を生んでいると説明した。さらに「データ主導の意思決定」についても、日本特有のビジネス文化が影響した可能性があると語る。

 「実は日本企業の『データリテラシーのスキルセット』のスコアは、他国とあまり変わらなかった。他方で『データ主導の意思決定』に関しては、日本企業では“合議制”や“稟議制度”の文化が根強いため、データを活用して意思決定をする機会そのものが少ない可能性がある。ただし、この部分については他国もスコアが低い。他国と大きな差が付いたのは『データ活用の拡散度』で、つまり多様な部署でデータ活用をすることができていない。ここには改善の余地があると考えている」(北村氏)

業界別のデータリテラシー指数。行政、技術サービス、金融が高く、医療、小売、不動産が低いという結果だった(画像はレポートより)

 日本に限らず各国で多くの企業がデータ活用に大きく期待する一方、従業員のデータリテラシー育成には注力していない現状について、北村氏は「きちん体系化されたスキル開発のカリキュラム、コンテンツが揃っていない」ことも一因だと指摘した。どう手を付けて良いのかわからず、その担当部門/担当責任者も明確に決まっていないためだ。

 Qlikが今年10月に立ち上げた「データリテラシープロジェクト(Data Literacy Project」には、コンサルティングファームのアクセンチュアやコグニザント、企業/市場調査データ提供サービスのエクスペリアンなども参加している。企業や個人のデータリテラシー向上を支援することを目的とした非営利組織だ。

 同プロジェクトでは、参加する企業や組織(教育機関を含む)を拡大させながら、データリテラシー向上のためのカリキュラム、コンテンツを段階的に公開していく方針だと、北村氏は説明した。現在はいくつかの英語コンテンツが公開されているが、年内には日本語化したコンテンツも用意する。「このプロジェクトはユーザー企業にもとても評判が良く、『ぜひコンテンツを使いたい』と言っていただいている」(北村氏)。

 さらにQlikでは、7月に買収したポディアムデータ(Podium Data)のデータカタログ製品や独自のビッグデータインデキシング技術(データ連想技術)などによって、企業のデータレイクにため込まれた膨大なデータを効率よく分析可能な状態にすること、「Qlik Core」開発プラットフォームでIoT/エッジデバイス上に“組み込みアナリティクス”を搭載可能にすることなどを通じて、企業のデータ活用をさらに発展させていく戦略だ。さらに北村氏は、日本の企業文化の違いもふまえて「Qlikの製品を、日本なりに使っていただく」方法も考えていきたいと語った。

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