目指すは「AR時代のUI開発ツール」
アドビはARに積極的だ。その姿勢は、MAXの基調講演からも見えていた。
以下の写真は、基調講演で流された「ARグラスのある生活」を元にしたビデオである。予定を視界の中に浮かべ、名前を思い出せない人は顔認証で過去の記録から名前を呼び出し、ただの机がディスプレイに早変わりする。まるで夢のような世界だ。
いやまあ、今はもちろん「夢」なのだが。だが、こうした世界はいつかやってくる。その時にアドビはどう関わるのか? その答えが「Adobe Aero」だ。
アドビのCPO(最高製品責任者)であるスコット・ベルスキー氏は次のように話す。
「Aeroは3Dのイマーシブな世界での体験を、デザインするアプリケーションだ。同じアドビ製品でいえば、『Adobe XD』とのアナロジーで考えるとわかりやすい。ARの世界では、タップすると別のステージに移動し、また戻ってくる……といったことも必要。それを試行錯誤しながら作るには、そうした使い方に合ったデザインツールが必要だ」
アドビはARハードウエアを作る企業ではない。ハードウエアを使う上で必要なソフトウエアを作る企業でもない。だが、それらに必要なユーザーインターフェースやそのデザイン、アートワークなどは、ほとんどがアドビのソフトウエアの上で作られている。
特に同社は現在、ウェブやアプリのデザインツールでもある「XD」を強く推している。XDでコードが書けるわけではないが、UIのワークフローを作り、プロトタイプとして動作を確認できる。それをデザイナーと企画者、プログラマーが同時に見て作業していくことで、質の高いUI・UXをすばやく開発できる。
アドビはARに大きな可能性を感じており、「アプリのUI開発ツール」であるXDに感じているのと同じ価値を、Aeroにも感じているのだ。今はまだ試作アプリ、という印象も強いものだが、そうやって基盤を作る部分で先行したい、と考えているのだろう。
「数」を重視、当面アップルだけに対応
となると気になるのは、「アップル以外はどうするのか」「VRには対応しないのか」という点だ。
ここについて、アドビのバイスプレジデント・AR室長であり、Aeroの責任者でもあるステファノ・コラッツァ氏は「問題は数だ」と言い切る。
「もちろん、ARCoreを使ったAndroid向けバージョンも検討している。ただ現状、問題は数が少ないことだ。iPhoneなどでARKitが使えるデバイスの数は、昨年までで9億台以上。一方でARCoreに対応するAndroidは1億5000万台以下しかない。
Android側の数がもっと増えてくるまでは、iOS向けにフォーカスしたい。VRについても同様で、非常に重要だとは思うが、現状我々はARを主軸に考えている。VR機器の出荷台数は、すべてをあわせても数千万台。将来的に大きな台数になった時の対応を考え、リサーチを進めている状況だ」
数千万台あれば十分では……とも思うが、スマホ時代の今、プラットフォームの母数を考えると「億」の規模が必要、というのがアドビの考え方のようだ。ARはスマホのように「生活に必須」の状態にはなっていない。そうすると、普及数の数%が利用すればせいぜいであり、利用可能なプラットフォームの母数は多いに越したことはない。VRについては事情が違うようにも思うが、少なくとも「アドビはまだ数が足りないと思っている」ことだけは間違いない。
一方でARグラスについては、「今後いくつかの製品が出てきて、メジャーになるだろう。積極的に対応していきたい」(コラッツァ氏)とも言う。要は、ARにまずは注力し、iOS・iPadOS向けでノウハウをため、プラットフォームが広がった時に他に広げていきたい……という考え方だと思われる。