クリエイティブ・ツールの企業であるアドビは、次の柱として「AR」に注目している。11月4日から6日まで、米・ロサンゼルスで開催された「Adobe MAX 2019(以下MAX)」。現地取材から、アドビの考えるAR戦略について分析してみよう。
ARの民主化を狙うアドビ
今回のMAXに合わせ、アドビはiPhone・iPad向けに「Adobe Aero」という新アプリを公開した。このアプリは、昨年存在が公表されたもので、iPhoneおよびiPadで、アップルのARフレームワークである「ARKit」を使って動作している。
狙いは「ARの民主化」だ。この問題について、アップルとアドビは協力しあって解決策を準備し続けていた。2018年、アドビのCTO(最高技術責任者)であるアベイ・パラスニス氏は、筆者の問いに次のように答えている。
「現在はアーティストが作品を作る際にも、ゲームエンジンの力を借りなければいけない。そうではなくより簡単な形で、Photoshopなどいつものワークフローの中でARコンテンツが作れるようになるはずだ。結果として作品は、ディスプレイの画面の枠を飛び出していく」
事実、Adobe Aeroはそれを実現するツールになった。使い方は恐ろしく簡単だ。アプリの中で3DオブジェクトやPhotoshopのPSDファイルを選んで「現実の風景に配置」すれば、そこにその物体が現れる。3Dオブジェクトは指で触れると動くように「ビヘイビア」を設定できる。簡単にいえば、PowerPointのようなプレゼンテーションツールを、スライドを扱うものから3Dオブジェクトを現実空間で扱うものに変えた、と思えばいいだろうか。
オブジェクトを置くだけならもっと簡単な方法もある。iPhone・iPadの場合なら、「USDZ」形式の3Dオブジェクトを読み込めばいいのだ。昨年公開のiOS12以降には、この形式のファイルを標準で扱う機能が搭載されている。ファイルを読み込むと現実の空間に配置できるようになっている。
ちょっと前に、「iPhoneを使ってGoogleで動物の名前を検索すると、現実の風景にその動物を召喚できる」という話がバズったことがあるが、これはこの機能を使っている。USDZというフォーマットは、アップルとピクサー、そしてアドビが共同で開発したものであり、オープンに使えるものとしてフォーマットも公開されている。