安価なインクジェットプリンターを量産
市場を席巻する
1991年にはDeskJet 500をカラー化したDeskJet 500Cが1095ドルで発売される。実はこのDeskJet 500C、インクはシアン・マゼンダ・イエローの3色しかなく、黒を印刷するとグレーにしかならない(理論上はシアンとマゼンダとイエローを混ぜれば黒になるのだがそう理論通りにはいかない)という欠点はあったものの、当時発売されていたカラープリンターに比べてはるかに綺麗な上、価格は1桁安く、そのうえ印刷速度も十分早かったこともあり、こちらもたちまち大ヒットになる。
ちなみにこの黒が出ない欠点は1994年に発表された後継のDeskJet 550Cで「カラーインクとは別に黒インクを搭載する」という対処で解決することになる。
同じ1994年には最後のモノクロインクジェットプリンターとしてDeskJet 520が365ドルという異様に安い価格で投入されており、量産効果もあってかなり価格がこなれてきたことを伺わせる。
ご存知の通り、昨今のプリンタービジネスはメーカーを問わず、プリンター本体よりもインク・トナーや紙といったサプライの消費で儲けるビジネスであり、その意味ではプリンター本体は安ければ安いほど良いことになる。これが行きついた先がLexMarkという気もするが、これはまた別の話なのでおいておこう。
HPも当然こうした事情は理解していた。というよりもこのサプライビジネスの先鞭をつけたのがHPとも言えるわけで、ここからHPのプリンタービジネスは大きな売上を上げることになる。
Platt氏が1999年にプリンター部門を独立させずにHPに残したのも、もちろんコンピューティングに密接に関係するからという部分はあるにせよ、このサプライビジネスが非常に大きな売上になっていたことも無視できない。
冒頭にHPは1994年に累計で1000万台のLaserJetを売り上げたと書いたが、これに先立ち1993年末にインクジェットプリンター(DeskJet以外に、それ以前に出荷していたThinkJetも含む)を累計で1000万台を売り上げており、1994年には毎月60万台を出荷していた。つまり1年あたり720万台(!)なわけで、あっという間にインクジェットプリンターは同社の稼ぎ頭の1つとなった。
モバイルプリンターを作るも
さほど製品は売れず
もちろんプリンターは成功作ばかりではなく、失敗作もあった。例えば1992年に投入されたDeskjet Portable。当時のCMがYouTubeに上がっていたが、ノートPCが当時急速に普及し始めていたことを見込んでの製品だった。
バッテリー駆動で最大300dpi、ドラフトモードで毎分3枚、レターモードで毎分2枚の印刷が可能とされ、本体サイズは330×240×90mm、重量は2kg(オプションのカットシートフィーダーを追加すると3.3kg)というものだった。
1993年にはこの後継としてDeskJet 310やDeskWrite 310も追加され、1994年にはさらに性能を引き上げたDeskJet 320も追加されているが、この後継製品も含めてHPが思ったほどには売れなかった。
そもそもノートPCが普及しているからといって、出先で印刷したいというニーズがそれほどあるとは限らないわけで、妥当な結果であったという気はする。
ちなみにこの時点まで、バンクーバー支部がインクジェットプリンター、ボイシ支部がレーザープリンターをそれぞれ開発・製造・販売するというモデルになっていたが、1996年に両者を統合したプリンター部門が発足する。
初代のマネージャーはAntonio Perez氏(2003年にHPを辞めてKodakのCOOとなり、2005年にCEOに昇格、2012年に破産手続きを迎えることになる)で、彼の元でバンクーバー支部がコンシューマー向け、ボイシ支部がビジネス向けという形でビジネスが転換することになる。
この事業転換にはおおよそ2年を要したそうだが、これが無事に完了したからこそ、プリンター部門は1999年の事業分割でもHP本体に残れたともいえる。
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