●モノより「ヒト」の支援が大事
取材をする前はハードやソフトや通信環境などモノ周りが気になっていましたが、取材を終えた後は、授業に関わるヒトの多さが印象に残りました。
実際に授業をするのは担任の先生ですが、教材をもとに授業の形を組みあげたのは教育委員会の五十野さんや研究主任の先生たちです。授業を合計8時間のコンパクトな形にまとめ、教材になかった「修正(デバッグ)」という考えをとりいれたのも先生たちのオリジナル。授業中は学校に端末を導入した会社や、ICT支援員たちも子どもたちのサポートにあたっていました。
教材開発元のプリファードネットワークスも、授業に際しては教育委員会と連絡をとりあっていたそうです。認識率が低すぎると子どもたちが達成感を得られないからと、サーバー側で「暗号」を認識する精度を調整したといいます。たった8時間の授業をするだけでも裏側ではこれだけ多くの人たちが関わり、さまざまな調整をしているものなのかと驚かされました。
来年度から小学校では英語教育が強化され、道徳が特別教科として変わるなど、先生たちのやることが増えていきます。必修化では「プログラミング」という授業ができるわけではなく、算数や理科や図工などの時間に「プログラミング体験」を盛り込む形。先生たちは「新しい授業で今までの教育目標をどう達成すればいいか」「減ってしまう授業の時間をどう補っていけばいいか」などを考え、話し合いながら、プログラミングについて勉強していかなければいけません。
また、どれだけ熱心に取り組んでいる先生がいたとしても、公立校の場合は先生がひんぱんに異動してしまうという問題もあります。地域によって予算や環境に差があるのも問題ですが、どれだけモノや環境を整えても、今回のように豊富なヒトの支援がなければ、先生たちが疲れきってしまい、子どもたちにしわよせがいくことになるのではないかとちょっと心配になりました。
鉾田北小学校の公開授業はとても楽しいもので、子どもたちも目をきらきらと輝かせていました。今回のように楽しい授業が定着すればプログラミングを趣味とする子も増えてきそうです。残り時間は少ないですが、子どもたちがプログラミングを好きになれるよう、国や自治体がしっかりと現場の先生たちを支援して、万全の体制を整えて来年度を迎えてほしいと感じました。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。2歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。
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