ソフトウェアに問題があり
立ち上げると数分ごとにクラッシュ
問題は最初に届いたプロトタイプが、立ち上げると数分ごとにクラッシュし、おまけにHP 9000/37よりも遅かったことだ。悪い(?)ことに、これはHPEを稼働させているマシンでのみ発生し、HP-UX(のプロトタイプ)を動かした場合には特に問題なく動作したらしい。
ということは問題はHPEというかソフトウェア側にあることになる。ただFast Start Programは非常に厳密な秘密保持契約とペアになっており、この秘密保持契約の条件下では一切話をできなかった。
かくしてマシンが届くまでは定期的に顧客に状況を説明できたRobelleは、マシン到着後はPA-RISCマシンについて一切説明ができなくなった。
もちろんHP自身もPA-RISCに関しての説明をこの後一切しなくなっており、顧客はどういう状況なのかを一切知らされることなく1年以上の放置を噛まされる羽目に陥った。
最終的に(おそらくはHPEの書き直しに猛烈に時間がかかったものと思われる)1987年8月21日、最初の4台のHP 3000/930が出荷され、翌週以降も引き続き製品出荷が行なわれた。
HP 3000/930のリリースによりNDAが解禁になったことを受け、Robelleは顧客に「秘密保持契約のためにずっと情報をリリースできなかったが、1年半ほど遅れて製品出荷が開始された。しかし競合製品との性能差はまったく解消されていない」と極めて率直に述べている。
もっともこの状態でも、すべての秘密保持契約が解禁になったわけではなく、例えば顧客が自身でHP 3000/930を入手し、Robelleに「どのバージョンのSuprtool/QeditがHP 3000/930に対応しているのか」と電話をかけてきても、RobelleはHP 3000/930の存在を知っていることそのものを開示できなかったというから恐れ入る。
最終的にこの秘密保持契約が解禁になったのは、PA-RISCベースのマシンの大量生産が始まった1988年の後半だったらしい。
トラブルの元凶のソフトだけでなく
ハードウェアにも改良を加える
ソフトウェア部隊はデスマーチの中にいたらしいが、その一方でハードウェア部隊もいつまでもTTLを使って複数枚のボードで構成されるマシンでは話にならないということはわかっており、まずはワンチップ化に向けての努力を開始した。
最初に痕跡があるのは、CS-1と呼ばれる試作チップである。こちらは1986年中に開発できたようで、1987年2月のISSCCで発表されている。
画像の出典は、A 32b CMOS single-chip RISC type processor
スペックはなかなか意欲的で、1,6μmのCMOSプロセスを利用し、16万4000トランジスタを集積。48bitの仮想アドレスと64MBの物理アドレスをサポート、8MHz駆動で実効性能2MIPSとされた。
パッケージは84ピンのSMP(Surface Mount Package)で、アドレスとデータは32bitの多重バスで出力される構造である。性能は2MIPSなので非常に低いのだが、消費電力はわずか1Wに抑えられていた。
このCS-1はあくまで試作、というのは性能が低すぎる(TS-1は一応実効4MIPS程度の性能があった)からという話と、この当時のHPのFabは、CMOSの量産には適していなかった(試作はできた)という2つの理由が考えられる。いずれにせよ、CS-1を搭載した製品は一切出荷されていない。
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