防磁型スピーカーの登場で、アルニコ磁石に再び脚光が
── クリプトン三種の神器にも数えられる、アルニコ磁石(金属の棒磁石)を使った磁気回路ですが、その採用にもエピソードがあるそうですね。
渡邉 アルニコ磁石を使った、壺型で内磁型の磁気回路は、1990年ごろの「SX-500」で初めて採用したのですが、当初はなかなか作らせてもらえなかったのです。これにも思い出があります。
当時のビクターは業界でも力があって、いろいろな仕様策定にも関わっていました。ビクターでも36インチのテレビを作ったりしていましたが、大画面のブラウン管テレビと一緒に使っても画面に影響が出ない防磁型スピーカーの規格を、電子機械工業会で作ることになりました。フェライト磁石のダブルマグネットにして、反対側に置いた磁石で外に漏れた磁力をもとに戻す方法は、音がとても悪かったんですね。
それだったら、「アルニコ磁石を使おうよと。そうすれば一発じゃないですか」ということで、SX-500を完全防磁型のスピーカーとして開発しました。いまではほとんど使われないアルニコ磁石ですが、当時ですら、高価で入手困難。やめる方向の磁気回路でした。住友特殊金属の工場も閉鎖されそうになって私のところに相談に来たぐらいです。しかし、アルニコ磁気回路のシステムを多く商品企画して、少し延命することができました。
── こうして、密閉型、クルトミューラーコーン、そしてアルニコ磁石という要素が揃ったわけですね。
渡邉 クリプトンで、アルニコ壺型の磁気回路を採用した当時、フェライトマグネットとアルニコマグネットでは20倍の価格差がありました、アルニコ磁気界は金属製のアルニコ磁石が、スピーカーボイスコイルの逆起電力をショートする効果があります。フェライト磁石はフェライトマグネットがセラミック製なので、ボイスコイルの逆起電力ショート効果がありません。
音質比較をすると、アルニコ磁気回路は音の立ち上がりがよく、優れたS/N感を持ち、音の奥行き感や広がり感があり、フェライト磁気回路より音質的に優れています。これがKX-3/KX-5シリーズで、アルニコ壺型磁気回路を採用している理由です。もちろん現行のKX-3 Spiritでも採用しています。