eスポーツ文化は未来の「VR時代」につながる?
さて、ここで冒頭の話に戻るのだが、筆者としてはこのeスポーツ文化の確立が、人々がVR空間に新たな社会を築く時代において、仮想空間内のスポーツ制度の整備につながるかもしれないと思っている。
VR空間の社会とは、言ってしまえば映画「レディ・プレイヤー1」のような世界である。巨大な仮想空間内にネットワークで世界中の人が接続し、そこで会話したり、買い物をしたり、ゲームをしたりといったものだ。
つまり、VRを単なるコンテンツとしてとらえるのではなく、現実世界と異なる「もうひとつの世界」にするということである。
荒唐無稽な創作の中の話に感じるかもしれないが、現に今、これに近い形の環境を生み出しつつあるコンテンツがある。SteamやOculus Storeで配信されている「VRChat」である。
VRChatは、VRChat Inc.が提供するソーシャルVRプラットフォーム。ソーシャルVRプラットフォームという言葉は聞きなれないかもしれないが、ゲームではなく、仮想空間内でのコミュニケーションを主目的としたコンテンツのことだ。
VRChatでは、ユーザーが仮想空間内で「アバター」となる3Dモデルを、自分で作ってアップロードできる。つまり、仮想空間内での自分の姿を好きなようにカスタマイズできるということだ。
さらには、「ワールド」という、空間そのものも作ることができる。プログラミングの知識があれば、ワールドに特殊なギミックを追加することもでき、中にはワールド自体をミニゲームとして作っている人もいる。VRChatユーザーたちは仮想空間の中で、自分の好きな姿で人と話し、遊び、コミュニティーを形成している。つまり、もうひとつの社会を形成しているのである。
そんなVRChatで実施されている試みで「バーチャルマーケット」というものがある。3Dアバターや3Dモデルなどを自由に試着、鑑賞、購入できる、VR空間上の展示即売会だ。VRChat内に作られた展示会場に、クリエイターたちがブース出展し、それぞれ作品を展示する仮想空間上のイベントである。
このバーチャルマーケット、国内のVR関係企業をはじめ、セブン&アイ・ホールディングスの通販サイト「オムニ7」からの協賛を受けるなど、大手企業からも注目されている。実在しない3Dモデルを「試着」というのは、VR空間上のイベントだからこそできることだ。
eスポーツは仮想空間のスポーツ文化の足掛かり
映画のように、VRによるもうひとつの社会はできつつある。そしてその中では、現実には存在しないものが存在でき、現実ではできなかったことができるようになる。筆者としては、そこにeスポーツとつながる点があるように感じる。
eスポーツでは、人間がコントローラーを操作してゲーム空間、いわば仮想空間での戦いを繰り広げる。仮にVR世界でスポーツで競い合えば、操作方法は異なるかもしれないが、状況としては同じになる。
前述したように、仮想空間上にもうひとつの社会を作るとすれば、そこには娯楽も生まれるし、スポーツをしたいと思う人もいるだろう。仮想空間上では、現実にはできなかった超人的な動きができるかもしれないし、ここにしかない新しいスポーツが生まれることもあるかもしれない。
仮にこうした仮想空間でのバーチャルスポーツで賞金が付く大会を開催する場合、その制度はどのように決めていけばいいのか。eスポーツ関連の制度や文化が整うことは、こうしたバーチャルスポーツにつながる一歩なのではないかと思える。
筆者は、仮想空間の中に作られた新たな世界で生活するのが夢だ。それも現在のように視覚や触覚だけではなく、「ソードアート・オンライン(SAO)」のように、現実の身体の感覚を完全に遮断し、仮想世界に「フルダイブ」してみたい。
これは小説の中だけの話でもなく、アメリカのNeurableは、脳波を感知してVR空間内でオブジェクトを操作するシステムを発表している。
とはいえ、SAOに登場するフルダイブ型VRマシン「ナーヴギア」のレベルに達するまで、どれくらいの時間がかかるのかはわからない。さらにデバイスができても、その中に「もうひとつの世界」と呼べるほどの大きな仮想空間を構築するのは想像を絶する難しさだろう。
果たして、筆者が生きているうちに実現するだろうか……少しでも長生きできるように、今から健康には気を使っておこう。