ディズニーとNetflixの争いが激化する
とはいうものの、アメリカの若者たちに圧倒的な支持を得ているNetflixに比べると、ディズニーは彼らが求めるような多様性にいまいち踏み込めていないと言わざるを得ません。アメリカ国内にも非難の声は根強いですが、いまや世界第2位の映画市場に成長した中国の存在感も大きいでしょう。
中国では外国映画の上映には政府の許可が必要で、さまざまな理由で映画が上映禁止にされます。たとえば、ディズニーの作品では『プーと大人になった僕』は、習近平国家主席がプーさんに似ていると揶揄されていることを受け、上映禁止になったとする説が濃厚です。このような偏った市場を抱えているとなると、Netflixほど多様性に踏み込めないのも無理はありません。
Netflixは中国ではFacebookやYouTubeなどと同じくブロッキングされています。そもそも、中国のような閉じた場所はターゲットではなく、開かれたマーケットだけを相手にしているので、多様性をわき目もふらずに追求できるのです。
もちろん、ディズニーもこの状況を指をくわえて見ているわけではありません。Disney+では、ゲイの高校生サイモンを描く青春映画『Love, サイモン 17歳の告白』をドラマシリーズ化します。
この映画は20世紀フォックスが制作・配給し、アメリカ国内でヒットを記録した作品です。彼らの買収劇はブランド力の強化だけではなく、多様性の追求にも強い味方になりそうです。ディズニーは動画配信サービスでは、これまでの映画ビジネス以上に現代的な作品を積極的に制作すると考えられます。
一方で、Netflixは5月に子供向けメディアブランド「ストーリーボット」を買収したと報じられました。余裕を見せているものの、ディズニーを少しばかりは意識しているようです。
5年以内にアメリカではディズニーがNetflixを越える
証券会社および投資会社のモルガン・スタンレーは、2024年までにアメリカ国内ではディズニーが手がける動画配信サービスがNetflixの有料会員数を上回ると予想しています。2024年には、Netflixの有料会員は7900万人。一方で、Huluの有料会員数は約5400万人、Disney+とESPN+はあわせて約4100万人、合計約9500万人もの有料会員数を誇ると言うのです。
世界市場に目を向けると、2024年にはNetflixの有料会員は約2億8000万人、ディズニーは3つのサービスをあわせても約1億3000万人に過ぎないと言います(『BUSINESS INSIDER「Morgan Stanley says Disney will steal Netflix's streaming throne in the US within 5 years — but will trail globally by a wide margin」』)。
この予想は一定の説得力を感じさせます。飛び抜けたブランド力を持つディズニーは従来の作品に加え、これまで以上に若者たちが求める多様性を追求することで、Netflixから王位を奪取する。一方で、海外市場の開拓はゼロからのスタートなので、すでに海外で定着しているNetflixにはとても5年以内には追いつかない、といった理屈です。
2019年現在、ジェネレーションZの私としては、どちらかと言うとNetflixに肩入れをしたい気持ちがあります。そんな著者でさえ、今後も「Netflixが世界を席巻し続ける」と断言はできません。ディズニーには落ちるたびに何度も這い上がってきた実績があり、現在欠けている部分もすぐに補えるポテンシャルがあるからです。
たとえば、同社は『ピーター・パン2 ネバーランドの秘密』や『シンデレラIII 戻された時計の針』といった安直な続編の量産したり、フルCGアニメーションの流れに乗り遅れたりなどの要因で、大きく低迷していた時期がありました。しかし、現在もCEOを務めるボブ・アイガーさんの手腕によって、見事に再生を果たします。この記事でも言及してきたピクサーやマーベルなどの買収は、彼の大きな功績だと言えるでしょう。
ディズニーとNetflixの争いはまだ始まったばかり。5年後にはNetflixはほんの少し時代遅れで、ディズニーこそが現代的なものに移り変わっている可能性も十分にあり得ます。今後も引き続き続報を待ちましょう。