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建設・建築業界の働き方改革を考えるセミナー後編はパネルディスカッション

BIMやアドビのクラウドは建設業界の働き方を変えるのか?

2019年07月30日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●大谷イビサ

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 2019年6月25日に開催されたアドビシステムズの建設・建築業界向け働き方デザインセミナー。基調講演「『ポスト五輪』時代の建設・建築業界の働き方改革とは」に引き続き、パネルディスカッション「BIM活用で進める働き方改革と各社の取り組み」、最後にアドビのセッションとして「アドビのAIで実現する業務効率化と活用方法」が紹介された。

パネルディスカッション「BIM活用で進める働き方改革と各社の取り組み」の様子

BIMの活用シーンで女性が活躍している2社の事例を紹介

 BIMとはBuilding Information Modelingを指しており、コンピューター上の3次元の建物モデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加。建築の設計、施工、維持管理までの工程でこれらの情報を活用することで、建築ビジネスの業務を効率化する。「BIM活用で進める働き方改革と各社の取り組み」と題するパネルディスカッションでは、BIMを活用して働き方がどう変わってきているかなどのプレゼンとディスカッションが行なわれた。モデレーターはオートデスク AECセールスディベロップメントエグゼクティブ 濱地和雄氏が務め、第一声を挙げた。

「2009年が日本のBIM元年と言われていて、そこから10年経ち、まさに建設業界の働き方を変えるプラットフォームモデルになり得るものだと思っています。特に今年は、国の戦略として建設業にてこ入れが入っていて、BIMの新しい始まりだと思っています。たとえば、Society 5.0の基盤となるプラットフォームとしてのBIM、社会インフラとしてのBIM、i-Constructionとして自在に設計・施工で活用されるプロセスとしてのBIMなど、いろいろなところでバズワード的に出ています」(濱地氏)

モデレーターのオートデスク AECセールスディベロップメントエグゼクティブ 濱地和雄氏

 まずは乃村工藝社 事業統括本部 生産技術研究所 BIMルーム ルームチーム 田辺真弓氏の挨拶。田辺氏は、2002年に製作管理職として入社し、2017年に生産技術研究所に異動、2018年にできたBIMルームのチーフを務めている。

「乃村工藝社は内装や展示の設計・施工をしています。業務としては、ディスプレイ業と呼んでいますが、設計・施工に加えて、企画やコンサルを行っており、オープンした後の運営・管理もすることもあります。創業127年になる老舗で、国内10カ所海外8カ所に拠点があります。年間の1万4000件の物件を手がけておりまして、日割り計算すると毎日38件をこなしています」(田辺氏)

乃村工藝社 事業統括本部 生産技術研究所BIMルーム ルームチーム 田辺真弓氏

 続いて、ワイズスタッフとテレワークマネジメントの両方の代表取締役である田澤由利氏の挨拶。

「私は、働き方の中でもテレワークという働き方の推進を長年やってきました。大学を卒業してすぐにシャープに就職しました。当時、女性が少なかったので、朝から夜までがんばって働いていましたが、結婚と出産のために退社しなければならなくなりました。それが悔しくて、なんで会社を辞めなければいけないんだろう、というのがテレワークに頑張ることになったきっかけです」(田澤氏)

 20年前にワイズスタッフを作り、10年前にテレワークマネジメントを作り、長らくテレワークに携わってきた。その中で、安倍総理にテレワークについて解説したり、書籍を出版してきたそう。

ワイズスタッフ代表取締役 兼 株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤由利氏

 働き方改革には、残業しない、通勤しない、両立できる、直接会わない、副兼業可能などさまざまな働き方を実施できることが一番重要。その中でもテレワークは重要な切り口となる。

 そしてオフィスから離れて仕事をするためには、ICTを活用する必要がある。場所や時間を柔軟に活用できれば、企業目線でもいい人材を確保できる。平成30年でテレワークを導入している企業は19.1%、導入予定を含めても26.3%と、4社に1社を超える勢いだ。

 政府も本気でバックアップしており、総務省や厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府は東京都と連携して、「テレワーク・デイズ」という国民運動を展開している。2020年の東京オリンピック開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と定め、2019年7月23日~9月6日でテレワークの一斉実施を呼びかけるというものだ。

働き方改革には、テレワークが重要

 次にBIMはCADよりも投資が必要で、手間もかかり、人材も足りていないといった課題が山積み。そのあたりを、どう乗り越えられたのか? というお題に対して田辺氏は以下のようにコメント。

「昨年までは導入検討委員会がありまして、そもそもBIMを導入するかどうかの議論をしていました。弊社は建築をしているわけではないので、うちにはBIMはいらないという意見もありました。しかし、この先のことを見据えて、日本で仕事がなくなるので海外の仕事をやることや、そもそもITを駆使して仕事を進めていかなければいけないということで、BIMを導入することになりました。2D CADよりもモデルを立ち上げるのは若干時間がかかったり、習得するのに時間がかかったりするのですが、覚えてしまえばできることが多いので元には戻れなくなります」

 ここで田澤氏から田辺氏へ「BIMを使う女性の比率は?」という質問が出た。

「狙ってはいないのですが、女性は多いです。上司と作戦を立てていて、ママさんにBIMのことを勉強してBIMルームに入ってもらい、子供が手が離れるくらいになったら、現業に戻ってもらうというローテーションを考えています」(田辺氏)

高校生からクラウドに慣れ親しめば、働くときもクラウドで働ける

 実際にテレワークをやって来た中で、課題や難しかった所とかはあるか? という質問には田澤氏が回答した。

「正直、テレワークってうちには無理と思われる方も少なくないと思います。コミュニケーションをどうするとか、さぼっているのではとか、セキュリティどうするとか、は実はテクノロジーで解決できるようになっているのですが、思い込みで進まなかったのです。それが働き方改革や人材不足の中で、テレワークをやらざるを得なくなってきていると思います。3~4年くらい前に、BIMってすごいよと業界の方から聞いて、これは業界に広まっていくと思いました。そこで、奈良県と北海道の自治体と一緒になり、地元に埋もれている女性が、こういった技術を身につけて仕事ができるようにしました。半年以上かかりますが、がんばって勉強する方、と募集したところけっこう来るんです」(田澤氏)

テレワークなら埋もれている高いスキルを持つ人材を活用できる

 次は、建設業界にクラウドが浸透し始めているが、実際にどんなクラウドサービスを活用しているか? という質問。

「弊社は、オートデスクさんのBIM 360を使っています。中央モデルをクラウドに上げて、複数人で修正変更していくという手法を採っています」(田辺氏)

 今後、クラウドをどう活用すれば面白いか? という質問に対しては、2人から以下のような答えが出た。

「極端に言うと、高校生の頃からクラウドに慣れ親しんでいれば、働く場合もクラウド上で働けるようになります。クラウドに、データやツールがあり、そこでコミュニケーションして働くことに慣れた子供達を育てることが、働き方をもっと劇的に変えていくことになると思います」(田澤氏)

「うちの息子もマインクラフトというゲームを毎日やっていますが、すごく近くに住んでいる友達とでも、通信を介してゲームをしているほどデジタルネイティブです。あと、BIM 360の活用としては、日本で中央モデルを変更したあと、時差のある国で修正し、続けてさらに時差の大きい国で修正し、朝起きたときにはモデルが進化しているような設計手法を実践している会社があるようで、面白いなと思いました」(田辺氏)

説得力のある資料作りや承認業務の簡素化などを実現する

 最後は「アドビのAIで実現する業務効率化と活用方法」というセッションが行なわれた。実際のツールを使ったデモで、設計や企画資料を作成する際に、作業効率を向上させる活用法を紹介してくれた。

 アドビが開発しているAI「Adobe Sensei」は、すでにCreative Cloudの中で利用されている。たとえば、「Photoshop CC」ではイメージの一部分を選択する作業があるが、AIにより被写体をきれいに選択してくれる。デモでは建物を認識し、正確に選択されていた。さらに、色の調整にもAIが活用されている。パラメーターを手動でいじってもいいのだが、自動補正機能を押すと、AIが膨大な写真のデータベースを参考にして、一瞬でいい感じに仕上げてくれるのだ。

 「Adobe Stock」は高解像度でロイヤルティフリーの画像を多数収録したサービス。この中から、空の画像をダウンロードし、パンフレットに使う画像の空と入れ替えることも可能だ。いきなり購入して無駄になるともったいないので、まずは低解像度の当たり画像でコンセンサスを取り、その後そのままレイアウトをいじることなく高解像度版に差し替えられるのがありがたい。

建物を正確に選択したり、空の色をビビッドにするなどが簡単操作で行なえる

Adobe Stockには使い勝手のいいさまざまな素材が登録されており、検索性も高い

 また、「Adobe Dimension CC」は新しいツールで、3Dモデルを手軽に作成できるのが特徴。3Dのプロでなくても、リアルなビジュアルを作成できる。実際に、部屋の中の写真に、テーブルや椅子を3Dモデルで追加するデモが行なわれた。ここでもAIが活躍し、部屋とオブジェクトの光の方向やパースを解析して違和感がないようにしてくれるのはとても便利だ。

 前述の通り、建築の現場でARが活躍してきているが、アドビも「Project Aero」としてiPad用のARアプリを開発中だという。

「Adobe Dimension CC」で違和感なくテーブルを追加することができた

2019年にARのオーサリングツールがリリースされる予定だ

 「Document Cloud」の「Acrobat Pro DC」ではPDFの閲覧・編集が可能な定番サービス。Office文書をPDFにするのは皆さん使っていることと思うが、実は、図面データをPDF化することも可能。Acrobat内で、ぐりぐりと動かして確認できるのだ。ワイヤフレームやソリッドなどのビューを切り替えたり、背景色を変えたりと、細かい操作も行なえる。一般的には専用アプリが必要なところ、設計に必要な書類を確認しつつ、同じアプリで3Dデータを確認できるのは便利だ。

 「Adobe Sign」は、紙ベースで行っていた承認業務をクラウドでできるようにしたもの。工事の請負契約や施工主さんとの取引時などにさまざまな承認業務が発生するが、クラウド化することで簡素化し、スピーディに行えるようになる。

「Acrobat Pro DC」では3Dモデルを扱うことができる

「Adobe Sign」では、署名のワークフローをクラウド化して、承認業務校を効率化できる

 アドビのCreative CloudとDocument Cloudは、複数の関係者がいてもシームレスに連携して、従来業務を簡素化できる。これからも、働き方改革に大きく寄与していくことだろう。

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